TRIZマスターの一人アレクサンドル・クドリャフツェフはTRIZで扱える対象は「人工的に作られた制御可能なシステム」だとしています。
アレクサンドルの説が正しいとすれば、この問題で考慮しなくてはならない対象の「社長」(あるいは「取引先の役員」)はTRIZでは扱えない対象ということになります。それでも私たちはこの問題のような状況にも対処して生きてゆかなくてはなりません。管理人はこのようなケースでも「可能な範囲で最善を尽くすこと」は必要だと思います。そのためのツールとしてTRIZを使ったら、どんなアイデアを提供してくれるか試してみましょう。
求められるデザインには2つ条件がつけられています。(正確に言えば、もう1つ「ネジの頭のデザイン」という条件があります)
この問題はTRIZで考える矛盾の典型的なケースと言えます。
まず、前提となっている条件を確認しておきましょう。
現代のTRIZでは物理的矛盾を解決するアプローチとして次の4つの観点を使います。i. 与えられた状況を空間の観点で2つの状況にわけることを考える、ii. 同じく時間の観点でわける、iii. 構造の観点でわける、iv. そのほかの観点(条件)でわける。
4つの観点から、それぞれどんなアイデアが得られるでしょうか。
これはアルトシューラが1975年に書いた論文の中で触れている問題です。アルトシューラは物質場分析と物理的矛盾を使って解決策を導いています。以下に、その内容を紹介します。
問題の条件では最小単位の物質場を構成するの3つの要素(物質1=S1、物質2=S2、エネルギー場=F)のうち1つの物質(水=S1)にしか触れられていません。物質場分析の基本公理を踏まえると、この物質場にはS2とエネルギー場とを導入しなくてはならないと言えます。コストの安い方法が求められているのですから自然で手に入る物質(水、石など)と自然のエネルギー、例えば光を使わなくてはなりません。光を使うとすればS2は表面に見えるようになっていなくてはなりません。つまりは「浮き」ということになります。ここから物理的矛盾(S2は「浮き」であって「浮き」でない)を導き出すことができますが、これを解決策にもう一歩近づけると、S2は時々浮いたり沈んだりする(これを実現するのは難しそうです)、あるいは、S2は2つの部分からなっていて一方は「浮き」で他方は沈むもの(錘)だということになります。(図1でAは「浮き」、Bは「錘」、CはAの真下の海底の点です)
(図1)物質場分析と物理的矛盾が使えるのはここまでです。私たちは(物質場に光を反射することのできるS2を導入したことによって)物質場分析が求める作業を終えましたし、(S2を2つの部分に分離することによって)物理的矛盾を解決しました。物理的矛盾がなくなれば発明の課題もないのですから問題は解決されたことになります。上の図のAが浮き、Bが石でAとBとの間は例えば釣り糸で結ばれているとすれば直角三角形ABCが確定すれば川の深さACを得ることができます。つまり:
- AC = (AB2 - BC2) の平方根
しかし、ここでは1つの方程式にACとBCという2つの未知数がありますから、方程式をもう1つ作って連立方程式にする必要があります。
このケースで連立方程式を作るアプローチは次の3つに限られます:
(図2)
(図3)
(図4)図2のアプローチからは何ら新しいものが得られません。図4は私たちの観点とは逆に海底に立って川の深さを測る際に役に立つアプローチです。私たちに役立ってくれるのは図3のアプローチです。(2つの浮きAとA′とを釣り糸で錘Bに結びつけるわけですから、ABとA′Bとは2本の釣り糸の長さということになり、)私たちはあらかじめABとA′Bとの長さを知っているわけです。したがって、ACの長さは簡単に計算することができます。この「装置」のコストは取るに足らない額ですから、いくつも作っておけば一回の飛行で複数の箇所の深さを測ることができます。(発明者証No.180815)
フリーザーバッグはごく単純な構造をしています。作り方を検討するために構造を調べましょう。TRIZ流に表現すると、フリーザーバッグを効率的に作るために役立つ「構造の資源」を探すことになります。
私たちが実生活で出会う問題の難しさの1つは、その問題が具体的に何をすることを求めているのか、どんな課題を解決したら望む結果を得ることができるのかはっきりしないことです。TRIZでそういった場合に用いる簡単なツールに「目標ツリー」というものがあります(『TRIZ 発明問題解決理論 レベル1教科書』6)。このツールを使うとこの問題について次の目標ツリーを作ることができます(目標ツリーは上が根元、下が枝の先の形に作ります):
ツリーの一番下のボックス(枠内)が具体的に求められている目標です。ツリーの枝の先端になっているボックスの内容を全て達成すれば、根元の目標を達成できることになります。ここでは、一番下の2つボックスに書かれている目標を達成すれば良いことになります。つまり、不思議の国のアリスの新しいロシア語版の翻訳では「ロシア人にとってイギリスらしい内容を持った」、「一般の読者が知っている作品」のパロディーを織り込むようにするという目標を達成すれば良いことになります。
そうはいっても「ロシア人にとってイギリスらしい内容を持った」、「一般の読者が知っている作品」などという都合の良いものをどこで探したらいいのでしょうか。今度は、TRIZのもう1つのツール「システム・アプローチ」を使って考えてみましょう。
なおここでは、原作が対象とした読者層と、ロシア語訳が対象とする読者層とは別の人々ですので途中で上位システムが変化していることに注意して システム・アプローチを展開する必要があります。
システムの階層レベル | 過去 | 原作の現在 | 新訳検討中の現在 | 目標としての未来 |
---|---|---|---|---|
上位システム | 不思議の国のアリス以前の時代の文学作品群 | 原作の時代のイギリスの読者が知っていた文学作品群 | ロシアの読書人層が知っている作品群 | |
システム | 個々の文学作品 | 不思議の国のアリスの英語の原作 | 不思議の国のアリスのロシア語版定訳、他 | 不思議の国のアリスのロシア語版新訳 |
下位システム | パロディーの素材となる断片 | 原作のパロディー | 定訳の中の原作のパロディーの直訳 | ? |
このように分析してみると、自ずから「定訳の中の原作のパロディーの直訳」に目が向います。この定訳は原作の単なるロシア語訳ですので、ロシアの読者にとってはパロディーになっていません。しかし、イギリス文学の定訳としてロシアの多く読者の目に触れています。また、直訳ということからイギリスらしい内容であることが期待されますから、新訳のパロディーの素材になってくれそうです。
ナターリア・ジムーロヴァは定訳では英語の単なる直訳だったパロディー部分を素材としてロシア語のパロディーを作って新訳に入れたと証言しています。ただし、現在のロシアの社会には英米文化の翻訳がジムーロヴァの時代よりはるかに多く流通していますから、パロディーを翻訳する際に利用できる素材の幅も広がっていることと思われます。
延べ払い期間の5年の間に何が起きるか正確に予想することは不可能です。したがって、この種類の問題には確実と言える正解は存在しません。以下は現実の成功例に取材した考え方です。
ここでの課題をTRIZの流儀で整理してみましょう。課題の4つの要件、つまり、状況、問題、目標、制約は下の通りです:
A社に関連するものの中で何が担保となりそうかシステム・アプローチを使って考えてみましょう。
システムの階層レベル | 過去 | 現在 | 未来(今後5年) |
---|---|---|---|
上位システム | ? | X国の経済は不安定 | 不明 |
システム | 過去の業容(安定) | A社の事業(安定) | 今後の業容(安定していると見込んで与信を検討している) |
下位システム |
天然資源
設備
事業(下位・下位システム参照)
|
天然資源
設備
事業(下位・下位システム参照)
|
天然資源(担保にできない)
設備(劣化や転売されるリスクがある)
事業(下位・下位システム参照)
|
下位システムの中の「事業」に関する 下位・下位システム | 省略 |
人
権利
資金の回転
利潤
|
人(担保として不適切)
権利(制度上の制約があり担保にできない)
資金(手元資金、売掛け金)
利潤
|
表1の未来(今後5年)の欄に着目して、今後5年間の担保となってくれそうなものを探してみましょう。
ハチクマが使っている「手段」を本当に明らかにするには丁寧な観察や実験が欠かせません。ここで求められているのは観察や実験を行う際に指針となる「仮説」を立てることと言えるでしょう。与えられている知見(と常識)に基づいてどんな仮説が可能か検討してみましょう。
ハチクマの立場に立って課題を考えてみましょう。
ハチクマが目標を達成する状況について原因結果分析を行います。
(1)はじめに、1の「目標」の項に着目して、幼虫や蛹を食べる目標を達成するための有益機能(TRIZでは目標の達成に寄与する作用、動作、機能、条件などを一括して「有益機能」と表現します)に限定した原因結果連鎖を明らかにしましょう。
(2)次に、1の「問題」の項を手がかりにして2の(1)を実現する上での障害(一般化して有害作用とします)を明らかにします。(赤い矢印は阻害する関係を表現しています。なお、常識を使って一部の情報を補いました)
つまり、ハチクマは次の有害作用に対策を講じなくてはなりません。
TRIZに「不具合の防止または除去のためのチェックリストとオペレータ」というツールがあります。この中に不具合対策の方針として可能な考え方を網羅した次のチェックリストがあります(スヴェトラーナ・ヴィスネポルスキー著、『故障・不具合対策の決め手 I-TRIZによる原因分析・リスク管理』、p.208)。チェックリストにそって、考えられるアプローチを網羅的に検討します:
3のアプローチを具体化する上で利用可能な資源を探さなくてはなりません。次の中から資源を探します。(詳細は省略します)
この問題についてアルトシューラは次のように解説しています。
「TRIZを学び始めたばかりのセミナーの参加者には、この問題がなかなか難問とみられます。よく出てくる解答は建物の屋根の上に鏡を取り付ける複雑な仕組みです。しかし、問題の塔の近くの建物の屋根に鏡を取り付けた場合、その建物自体が沈下している可能性を否定できません。続いて、塔や岩山の上に何かを乗せて高さをかさ上げするといったアイデアが次々に提案されます。これに対して、例えば30メートルとか50メートルとかの高さで剛性の高い構造物を建てることの難しさを指摘すると、次に出てくるのは強行策です。岩山と塔の間の建物に一時的に穴を開けて間を見通せるようにしたらいいじゃあないかというわけです。人工衛星を利用して宇宙から測定するアイデアもしばしば提案されます。
こんなに簡単な問題がなぜ難しく思われてしまうのでしょうか。利用すべき物理現象に行きつくことができない理由はどこにあるのでしょうか。
まず、問題の分析が浅すぎます。問題状況の説明にあるのは単なる管理的矛盾(何が求められるかわかっているものの、それを実現する方法が提案されていない状況)です。管理的矛盾は解決策に導く力(解法)を持っていません。管理的矛盾と問題を解決に導く物理現象との間の断絶が大きすぎるのです。この断絶の幅を狭めるには、管理的矛盾をまず技術的矛盾にそして物理的矛盾へと掘り下げて、問題を物理的課題(理想的な結果の公式=IFR2)の形に捉えなおし、それに基づいて「小さい人」モデルを作る必要があります。この問題の「小さい人」モデルは次のようになります:
岩山と塔との間を一つに結びつける「小さい人」のリンクを作って、塔が沈下してもしなくても、そのリンクの一番最初の小さい人と、最後の小さい人とは同じ高さに立っている。
ここまでくれば物理学の初歩を思い出して、サイフォンの原理を利用することに思い当たるはずです。岩山と塔との間をホースで繋いで中に水を入れ、水の水準の変化を観測します。塔の側のホースの中の水準が変って以前より高くなったとすれば、塔が沈下したことになります。」
TRIZを使った問題解決の基本は、問題の背景にある科学的な関係を浮き彫りにして、問題を解くために利用できる原理を発見することです。この問題はその基本形にそって考えることの大切さを理解する問題です。
現代の知見と技術とを使うと、地球の大きさは様々なデータの関数として表現できるはずです。問題の背景にある科学的な関係もその関数の数だけあり、地球の大きさを算出する方法も幾多あることになります。しかし、古代ギリシアの時代には複雑な装置を使って様々なデータを得ることはできませんでしたから、地球の大きさを計算する際に利用できたのは幾何学の原理のみと思われます。
エジプトのナイル川はほぼ南北まっすぐに流れていて、流域に多数の都市があるので(地球が丸いという認識を持っていた人にとっては)幾何学の原理を利用して地球の大きさを計算する上で好都合な条件が揃っていました。アスワンという都市は緯度が約24度ほぼ北回帰線上にあります。このため、夏至の日の正午には太陽が頭の真上にくることになります。実際、古代のアスワン(当時はシエネと呼ばれていたそうです)では夏至の日の正午になると井戸の底にまで太陽の光が届いたといいます。この事実に着眼したアレクサンドリアの学者エラトステネスが夏至の正午にアレクサンドリアで太陽の高さ(南中高度)を測定したところ82.8度でした。太陽は極めて遠くにあるため、地球に降り注ぐ太陽光は平行の光線になっていると仮定すれば、アレキサンドリアでの南中高度82.8度とアスワンでの90度との差7.2度は地球の中心から見た見たアレキサンドリアとアスワンとの間の角度(緯度の差)ということになります。上に述べたようにナイル川はほぼ南北に流れているのでアレキサンドリアとアスワンとの経度の違いは大きくありません(約3度)。エラトステネスはアレキサンドリアとアスワンとの間を旅人が移動するのに要する日程から両都市間の距離を925kmと見込みました。エラトステネスは地球の全周を
[両都市間の距離] × [地球全周の角度] ÷ [アレクサンドリアとアスワンとの間の角度] =925km × 360度 ÷ 7.2度 = 46500km
と計算しました。
お互いに対岸の岸辺は見えないで高い建物の屋根や低い丘がやっと見えるような湾を囲む2箇所の土地を探します。湾の一方の岸に海面上1メートル前後の高さの(海面上の高さを測りやすい)位置に観測点を設けます。対岸に高い櫓を立てて、櫓に沿って物差しを立てます。晴れた夜間に櫓の下の地上に火を入れたランタンをおいて、物差しに沿ってゆっくりと引き上げてゆきます。観測点の側ではランタンの火が見えるまで観測を続け見えた瞬間に光で対岸に合図します。櫓の側では合図があった時のランタンの(海面上の)高さを記録します。合図の瞬間の観測点の目の高さとランタンの高さとの差=xを算出します。あとは観測点と櫓との間の直線距離=yがわかれば地球の大きさを算出することができます。概略ですが、地球の半径はxとyとの次の関数で表現できます。
地球の半径 = y × y ÷ x
はじめに目標ツリーを使って考え方を整理しましょう。目標は問題の趣旨に沿って「大型哺乳類を家畜化する」としましょう。なおここで、「家畜化する」とは問題の注1に書かれている意味で野生動物から家畜をつくることとします。そこで注1を参考にして下の目標ツリーを作りました。
なお、上の3つの下位目標を選んだ理由は次の通りです:
上の3つの小目標を達成するにはどんなことを考える必要があるのか、阻害要因も含めて検討するために簡単な原因結果分析をして見ましょう:
(1)まず「飼育する」ことについて考えると、まず、図2の黒いボックスに示した機能連鎖を実現することが求められます。次に、これに関連して赤いボックスで示した阻害要因が考えられます。こうした阻害要因が少ない、次のような特性を持った動物は家畜にしやすいと考えられます。
(2)「飼育する」機能連鎖が成り立っていることを想定した上で「繁殖させる」ことに特有の問題を考えると、図3の赤いボックスの阻害要因が考えられます。
そこで、これらを一括りにした次の特性を追加しましょう:
(3)「人の生活の役に立つように変化させる」という小目標の内、個体を変化させることについてはすでに挙げた「c. 指示に従わせやすい」ことによって達成されると思いますが、種として変化させることについては「f. 繁殖能力が高い」ことに関連して次の特徴を加える必要があると思われます:
家畜化が可能な動物は次の特徴をもっている必要があると思われます。
この問題を取材した著作を書いた本人は「家畜にすることができた野生動物の6つの特徴」として次をリストアップしています。(このリストの趣旨を考えると、3のリストはほぼ妥当だと思うのですがいかがでしょうか)
この問題は道線法の信頼性についての典型的な物理的矛盾の(なんらかの特性について、一つのニーズを満たすためにはある特性値が求められ、別のニーズを満たすためにはそれと逆の特性値が求められるときに、二つのニーズをどちらも満足させなくてはならない)状況と言えます。これを定式に則って記述すると次のようになります:
物理的矛盾を解決するには次の4つのアプローチ(まとめて「分離の原則」と名付けられています)のいずれかを使います。
与えられた問題で伊能忠敬は測定の「目的とする場所の選び方」を工夫したとされています。これを手がかりにして4つのアプローチのどれが役に立ってくれるか考えて見ましょう。
この考察のcとdを組み合わせて、位置が確定されている基準点から出発して、複数回の測量を重ねた上で出発点に戻るひとまとめの測量を行うアイデアが得られます。この一連の測量については次のことが言えます:
天文観測など複数の方法を使った測量によって位置が確定している基準点から出発して道線法による測量を複数回重ねて元の基準点に戻る一連の測量を行います。最終的に基準点の位置データが得られるように途中の測量データを修正するようにします。
測量そのものが測量の信頼性を保証してくれるのが理想です。1の結論では、まさに、一連の測量作業そのものが個々の測量の信頼性を保証してくれています。
ですから、この結論は理想の観点からみても妥当だと言えます。
経験的な知見に基づいて作られたTRIZツールの中に「信頼性を高くしたい」時に使うオペレータがあります。このオペレータは次の4つのアプローチからいずれかを選ぶことを推奨しています:
この問題の説明文で触れられている天文観測や遠くの山の観測はbの冗長性の好例です。また、出発点から測量を積み重ねてゆく測量と、基準点からさかのぼって測量の精度を修正する逆戻りの測量を組み合わせた1の結論も広い意味では測量に冗長性を持たせていると言えます。
TRIZマスターの一人イーゴリ・ヴィケンチエフはTRIZの学習の第一歩は日常的な型にはまった思考から脱却することだとしています。(I.L.ヴィケンチエフ「TRIZ教育のステップと教育上のテクニック」、2)解答を探すことに先立って自分自身の思い込みを取り除くために、部外者の視点で課題を眺めることから始めましょう。
引用されている「飛行教官の経験」の内容は常識的でごく当たり前のように思われるますが、課題の焦点はそこにあると思われますから、改めて事実関係を分析してみましょう。
以上を図式で表現すると次のようになります。
飛行教官は訓練での操縦のできばえのバラツキによって生じている一回ごとの変化を、訓練の成果による変化と誤解していると思われます。
この問題はTRIZを教える上で格好の教材といえます。
なによりもまず、日常生活で出会う物理的矛盾の好例ですし、「条件で分離」というアプローチの説明にも好適です。しかも、多くの人が問題の難しさを実感し、少なからず考えたことのある人がいることも想定されるので説明上好都合です。
早速、問題文の状況を物理的矛盾の定式に合わせて記述しましょう。
物理的矛盾に出会ったら「分離の原則」を使って考えるというのがTRIZの定石です。分離の原則は矛盾のある状況を空間、時間、構造、条件という四つの切り口のどれかを使って二つの状態に分けて、一つの状態で一つ目のニーズを満足し、二つ目の状態で二つ目のニーズを満足させるアプローチで考えるツールです。四つの切り口のうち「条件で分離する」切り口についてはTRIZの初学者に分かりやすい例が多くありません。ところで、
パスワードは:
ものでなくてはなりません。空間、時間、構造ではなくどの人にとっては? という「条件」で分離することを求めていますから、条件で分離する問題の好例といえます。
解答を得る上での眼目は、記憶したり推測することに関して、「設定した人」と「それ以外の人」という条件で2つの状態分ける方法を発見することにあるといえます。
人が自分で設定したパスワードを絶対に忘れることがないならば、新しいパスワードを設定する度に他の人にとって極めて推測しにくい複雑なパスワードを作って覚えればよいことになります。ですから、問題は自分で設定したパスワードをあとで思い出せないことにあります。そこで、解答を考える前に「パスワードを思い出せない」ということの具体的な内容を整理しておきましょう。
これまでの検討を踏まえると、求められるのは次のことです:
3の3の資源を使って、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」がそれ以外の人にとっては「記憶したり推測することが難しい」パスワードを作る方法を発見する。
まず、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」ことを保証してくれる資源を探しましょう。
TRIZの基本に戻りTRIZツール「理想」を使って、設定した人にとっては「記憶したり推測することが易しい」ことを保証してくれる資源を探すアプローチを探します:
理想:パスワードを思い出す必要そのものがパスワードを思い出させてくれる
別の表現
理想:パスワードを思い出せない自分そのものがパスワードを思い出させてくれる
パスワードを忘れた時の自分のために、必ず思い出せる例えば次のようなルールを作っておきます。
1)自分が決して忘れない数字のパスワードを一つ選んでおく(4桁〜6桁)
例:
15791(広島カープリーグ初優勝の年の逆、初めの1は初優勝の意味)
1496(カズオ・イシグロの「忘れられた巨人」からイシグロの語呂合わせ)
2)パスワードが求められるサービス名などから文字を抜き出すルールを決めておく(2文字、3文字程度が覚えやすい)
例:
tとj(TRIZ塾の頭文字)
UとKとU(TRIZ塾の最後の3文字)
3)数字と文字とを組み合わせるルールを決めておく
例:
1579tj1
UKU1496
4)文字が限られる場合のルールを決めておく
例:
1579(数字のみ4文字の場合)
UKU1496U(8文字以上が求められる場合)
出題の際に参考にさせていただいた武山知裕さんの『個人情報 そのやり方では守れません』という本では、簡単にまとめると次のような方法が紹介されています。
これで、基本パスワード一つとルールを二つ覚えるだけで、サービスごとに別々のパスワードが使えるようになる、というわけです。