ARIZ-85C(1985年)までのTRIZの理論、思考支援ツール、手法、そしてアルゴリズムは全てアルトシューラ自身、あるいは彼の監修のもとに作られました。これらはTRIZの古典と見なすべきもので、世界のTRIZコミュニティーが一致してTRIZの構成要素として認めている内容です。しかしアルトシューラはARIZ-85Cを最後にTRIZを改良する作業から離れ、1989年には彼の弟子達が自分たちの判断にもとづいてARIZの改良を行うことを許可しました。弟子達はARIZを中心とするTRIZの主要要素を協力して改良し唯一の改良版TRIZを作り続けてゆくことを試みましたが、意見の一致を見ぬまま旧ソ連邦が解体されて活動的な弟子達の多くが世界各地に分散し、やがてアルトシューラの死を迎えることになりました。このため今日、上述の古典以外、弟子・孫弟子などによるTRIZ改良の試みのなかの何をTRIZと見なすかについて世界のTRIZ関係者の合意を得ることは難しい状況です。
このセクションでは、現在活動しているTRIZ専門家による特筆すべき成果で、ここに掲載することについて著者の了解を得られたものを、次の3つの基準に基づいて紹介したいと考えています:
これまでに、TRIZを教育分野で活用しているアナトーリー・ギン、同じく芸術作品の企画に関して独自の体系を作り上げたユーリー・ムラシコーフスキー、そしてイーゴリ・ヴィケンチエフ、アレクサンドル・クドゥリャフツェフの4人から著作の掲載について快諾をもらいましたので、順次掲載してゆきます。引き続き他の著者も紹介してゆきたいと考えています。
アナトーリーは1958年ウクライナのハリコフ生まれ。1983年から教職につき指導法の改革に取り組む中で1987年にTRIZと出会い、以降TRIZを教育に活用する研究に取り組んできています。現在は児童教育を中心に学校教育の革新に取り組んでいます。1998年にアルトシューラが認定した65人のTRIZマスターの1人です。彼の活動の状況は次の2つのサイトで詳しく見ることができますが、残念ながら現状ロシア語のページしか準備されていないので順次翻訳してゆきたいと考えています。
◆「TRIZによる教育」
「TRIZによる教育」は2007年に書かれた文章ですが、アナトーリーの主張が真っ向から書かれている心地よい文章だと思います。
◆「教育システムの矛盾」
この文章は2007年に掲示されたプレゼンテーションです。上の「TRIZによる教育」という文章で触れられていた教育システムが抱えている様々な矛盾を具体的に取り上げたものです。
それではその矛盾をどのように解決しようというのかについてのアナトーリーの考え方を示しているのが次の文章です。
この文章は2001年12月1日に初稿が発表され、2009年10月10日に改訂されたものです。
上記のように、前の資料に指摘されている教育の矛盾を解消するためにアナトーリーが提唱する新しい教育の大枠を紹介する資料です。
この文章は2003年11月7日に初稿が発表され、2007年6月7日に改訂されたものです。
これまでの資料で度々触れられている「オープンタスク」はアナトーリーの教育論の最大の特徴といえます。この資料ではそのオープンタスクに焦点が当てられています。
◆「親のための教育基礎知識」
この文章は2002年12月1日に初稿が発表され、2011年2月1日に改訂されたものです。
当サイトで紹介するアナトーリー・ギンの資料の5つめです。小さな子供を持つ方に是非とも読んでもらいたいという著者の意気込みが感じられる文章です。管理人の世代の表現を使えば「子育て虎の巻:教育編」とでもいうべき内容です。多くの方に読んで、できれば、活用していただきたいと期待しながら翻訳を終えました。そのために、pdfフォーマットのファイルも用意しました。保存してご活用ください。
Firefoxをご使用の場合、ブラウザ内でPDF文書を表示させると文字化けすることがあるようです。その際はファイルをダウンロードしてからAdobeReader等のPDFビューワでご覧ください。
上掲のギン氏の5つの文章をまとめ、『知識の継承から知識の創造へ ―新しい時代の教育―』と題した電子書籍として、販売を開始しました。
PDF版(DLMarket)とGooglePlay版を用意しております。
内容は当サイト掲載のものと同一ですが、PDF形式もしくはGooglePlayの電子書籍として、読みやすい形でお手元に保存しておくことができます。
価格は各形式とも、200円(税込み)です。
Google PlayについてはGoogleの次のページなどをご参照ください。
ラトヴィア在住のユーリー・ムラシコーフスキーはアルトシューラから技術以外の分野にTRIZを適用することを勧められた研究者の1人です。永年の研究の成果を2006年に労作『芸術の伝記』(Мурашковский Юлий, Биография искусств, Скандинавия, Петрозаводск, 2006 - 550 с.)として発表しました。ユーリーの快諾を得ることができましたのでこの本から一部を紹介したいと思います。
◆『芸術の伝記』第一章
I-TRIZとは1980年代の初頭アルトシューラのTRIZセミナーで副講師として盛んに活躍し、後に当時ソ連の一部だったモルドヴァの首都キシニョフにTRIZ学校を設立したボリース・ズローチン(1946年生れ。USAにて現役として活動中)を中心に発展した現代TRIZの一流派です。古典的TRIZの主な思想を継承しながら内容を大きく変化させ、他方でTRIZの新しい活用方法を生み出したところに特徴があります。I-TRIZの内容は日本語で学ぶことができます。(本サイトにバナーが貼ってあるアイディエーション・ジャパン(株)のサイトを参照ください)
管理人はI-TRIZの内容の翻訳に関与してきました。中でも以下の本は本のかたちで読めるTRIZの内容の中でもとりわけ実践的かつ、TRIZに限らずこの分野の方法として、先進的だと考えて翻訳させてもらいました。現代TRIZで内容的に最も成功している例の1つと思いますのでこの場でも紹介します。
◆スヴェトラーナ・ヴィスネポルスキー著、黒澤愼輔訳『故障・不具合対策の決め手 I-TRIZによる原因分析・リスク管理』日刊工業新聞社、2013
(Amazon.co.jpアソシエイト)
イーゴリ・レオナルドヴィッチ・ヴィケンチエフ(Викентиев Игорь Леонардович)は1957年生。1998年にアルトシューラが認定した65人のTRIZマスターの一人です。また「インベンション・マシン」ソフトウエアの開発者の一人でもあります。元々は技術者で旧ソ連レニングラードの大工場で働いていましたが、工場でTRIZの教育に携わったことから心理学を研究するようになりました。現在もサンクトペテルブルグを拠点としてTRIZを基礎としたマーケティング、広報、宣伝、マネージメントなどの分野で活発なコンサルテーション、教育活動をおこなっています。
「TRIZ教育の生理心理的基礎」は1991年に書かれた論文で、当初はアルトシューラの下で発行されていた『TRIZジャーナル』に発表されたものです。著者が1980年代にレニングラードの工場に付属する少年教育施設で行ったTRIZ教育の実践に基づいてTRIZ教育を行う上での生理心理学面での基礎を説いたものですが、現在TRIZを教えようとする人々にとっても学ぶ点が多々あると思いました。著者の快諾が得られましたので翻訳を掲載することにしました。
上の「TRIZ教育の生理心理的基礎」で述べられた基礎を背景として、実際の教育を行う上での考え方とテクニックが紹介されているのが、この「TRIZ教育のステップと教育上のテクニック」という論文です。長い論文のため現在のところ始めの1/3弱を掲載しています。残りの翻訳には少し時間がかかりそうですが、翻訳が終わり次第、このページに続けて掲載する予定です。
2013年の暮れにモスクワで連続開催されたTRIZセミナーの詳細プログラムです。このセミナーの主催者はモスクワ市役所ですが、運営を担当したのはモスクワを拠点として活発に活動している中堅TRIZマスターのアレクサンドル・クドゥリャフツェフが中心となっている非営利パートナーシップ (Metodolog) です。古典的TRIZとは一味も二味も違う現代のTRIZのあり方の一端が窺えるとおもいます。
こちらも、アレクサンドル・クドゥリャフツェフがモスクワの住民を対象として企画した無料のTRIZ教育プログラムの概要です。上の「TRIZ:革新的企業創生のツール」の上級続編とも言えるセミナーで、国際TRIZ協会の認定レベルで言えば「TRIZ:革新的企業創生のツール」が認定レベル1を想定しているのに対して、この「MOITT 2013-2014年度講座」は認定レベル2・3を想定した内容です。現代のTRIZが何を視野に入れているのか、プログラムの内容から良く読み取れるとおもいます。
(アレクサンドルの別の著作を「TRIZとは」のページでも紹介しています)
TRIZfest-2017では、TRIZ教育に関する特別セッションが設けられ、TRIZの教育法や各国で行われた実例の報告などが行われました。
その中から、特に興味深いものをいくつか選び、紹介します。
◆子供のためのTRIZ発明学校(ソン・ミジョン他)
韓国、 サムスン電子グローバル技術センターに所属するソン・ミジョン氏が、大人のために作られたTRIZを、発祥の地であるロシア・ヨーロッパとは文化的背景の異なる韓国においてどのように子供たちに教え、学ばせるか、という課題に取り組み、その工夫と実践の実例を紹介した報告です。
ソン・ミジョン氏のグループが主に依拠しているニコライ・ホメンコらによって開発された教材は、TRIZの様々な考え方を子供たちが幼いうちから自然に身につけることができるように工夫されたもので、大変興味深く私たちも関心を寄せていたものですが、そこに文化的・社会的環境を考慮して必要なアレンジを加えたうえで実践した事例報告は、日本においてTRIZを学ぶ私たちにも大いに参考になります。
◆学校でのTRIZ教育(クリストフ・ドブルスキン他)
国際TRIZ協会の幹部会メンバーでもあるオランダ・フィリップス社のクリストフ・ドブルスキン氏らのグループが、オランダで実践している教育について行った報告です。TRIZの考え方を用いた具体的な教育内容を紹介した上で、オランダの教育全体を改善する試みにおけるTRIZの可能性についての展望が語られています。
上のソン・ミジョン氏の報告ではヨーロッパと韓国における社会的・文化的背景の違いが一つのテーマとなっていましたが、こちらのオランダの事例を(すでに紹介したアナトーリー・ギン氏らのロシア・東欧の事例とも併せて)見ると、日本も含めた各国で教育の問題を考える人びとが、多様性の一方で共通の問題意識も持っていることがうかがえます。そこにTRIZの可能性が見いだせるという認識ももちろん共有できるものですから、こうした各国における実践的な取り組みの実例を知ることは意義深いことだと考えます。