著者のイーゴリ・レオナルドヴィッチ・ヴィケンチエフ (Игорь Леонардович Викентьев) は1957年生。1998年にアルトシューラが認定した65人のTRIZマスターの一人です。
「TRIZ教育の生理心理的基礎」で述べられた基礎の上に、実際の教育を行う上での考え方とテクニックが紹介されているのが、本ページで紹介する「TRIZ教育のステップと教育上のテクニック」という論文です。
この論文には著作権があります。
日本語の翻訳の著作権はサイト管理者にあります。
無断転載は禁止いたします。
I.L. ヴィケンチエフ
「TRIZチャンス」グループ
(この資料は1990–1991年に書かれたものです。本論は著者が「少年発明家」ラボで永年行った教育・研究活動の経験に基づいています。ラボで行われた研究成果の多くは今日に至るまで一般に受け入れられることになっていませんが、この論文の内容はティーンエージャーの創造的能力の育成や開発技術者・研究者の基礎教育に関心を持つすべての人々にとって未だに有益です。)
著者注 (2003):
本論ではIFR、資源、ARIZ、場、物質場、仲介の原理、ZRTS(技術システム進化の法則)、ZhSTL(創造的人生戦略)という一連のTRIZ用語が用いられています。初めてこれらの用語に接する読者には無料で配布されているe-Book「TRIZ入門。基本理念とアプローチ」で事前に予習されることをお薦めします。このe-BookにはTRIZの最初の開発者ゲンリフ・サウーロヴィッチ・アルトシューラによる上記諸概念の解説が載っています。
この論文が拠り所としているのは{サンクトペテルブルグの}「キーロフ工場」労働組合付属「少年発明家」ラボにおける著者の経験です。このラボでは主として12–16歳の少年が学んでいます。1クラスの定員は8–10名で、週2回各4時間の授業を行います。参加者にはこれ以外に相当量の宿題が課されます。
創造性は民主的であることと切り離して考えることができません。しかし、教師による統制が少しでもゆるくなると何をしても許されるサインと受け取られ、そうなると創造性を身につけようと真剣に取り組むことが忘れられてしまいます。従って、創造的な行動を身につける段階に進む前にクラスでの心構えを準備する必要があります。これを目的としているのが、生徒たちに自分の身体・精神の健康に配慮することや身の回りの環境を冷静に受け止めること(14歳から)、自分の仕事の計画を立てることを学ばせる「社会的行動」の授業です。この授業の重要な要素は個人・集団両面でのサイコセラピーですが、その狙いは一般の学校で身についてしまったネガティブな行動スタイルを修正し、非常識な習慣から脱却することです。これなしでは、いかに真剣な教育を行おうとしてもお金をドブに捨てる投資に終わってしまいます。
生理、感情、知識、方法といった個別の活動レベルの間には厳然とした区別や壁はあってはならないし、あるはずもない(詳細はI.L.ヴィケンチエフ、「TRIZ教育の生理心理的基礎」参照)のですが、便宜的に教育手法として「社会的行動」の他にも次の6つの授業科目を設けています。
科目の名前は次の通りです:
著者は当初TRIZだけを教えようとしましたが、間もなくして「社会的行動」や「応用ジャーナリズム」のような補完的な授業無しには創造性を教えることはできないと気づき、結果として上に挙げた一連の授業が導入されることになりました。では、これらの授業と「行動」とのあいだの関係はどういうことでしょうか? 上に書きましたように複数の授業科目は便宜的に独立させたもので、その目的は自分たちが何を学んでいるのかについて理解しやすくすることです。初めの半年ほどは「創造的イメージ開発のエクササイズ」「応用ジャーナリズム」「練習用問題解決」「教育実習」といった授業ごとに何をしているのかいつでもはっきりと区別することができます。しかし授業が進めば進むほど、各授業科目の内容は融合して、全体が創造的活動に集約されていきます。しかも、教育法はすべての科目で同一です。
ここで言っておかなくてはなりませんが、私たちのラボによる教育の効果が可能な最高水準に到達していると言えるわけではありません。
私たちは生徒が現実に達成する結果と、彼らが自ら真剣に望んでいればできるはずの結果とを対比させて教育成果の判定を行っています。通常、一年の教育期間中にそれぞれの生徒がそういった最高レベルの成果を何度か見せてくれます。もちろん、このようなやりかたでの成果判定はおおよそのものでしかありませんが、教育の効果について一定のイメージを得ることは可能です。
比較のために挙げると、過去10年間に全ロシア映画大学を卒業した140人余りの映画監督の中で、自己評価で一流の監督と見なせるのは6人にすぎないというデータがあります。
子供たちは今後も成長し、能力を伸ばしてゆきますし、彼らを取り巻く環境も変化します。真の教育成果は、常ながら、時間が教えてくれる、時間しか教えてくれないと言えます。
TRIZ教育の方法に入る前に、簡単に「機能」という概念に触れておきたいと思います。
「どのような目的についても、それを達成する手段(道)は複数存在する。」というよく知られた哲学の原則がありますが、これを機能的なアプローチで技術的創造の方法について言い直すと「どのような機能も、複数の手段でそれを実現することができるが、最適の手段を選択することが重要である。」となります(機能アプローチに関する著者の論文を参照のこと)。さて機能ですから、常に何か変化させるもの——当初の資源——と、その資源をどのように変化させるかということ——変化のさせ方、例えば、技術システムについてはTRIZの諸原理——とが必要です。「機能を実現するために、資源を変化させる方法は複数ある」という原則は次の図(図1)で表現することができます。
図1
TRIZの教育に関与する資源の数も資源を変化させる方法のあり方の数も極めて大きいことを考慮すると、この図は次のグラフ(図2)の形に表現しなおす方が便利かもしれません。図2の縦軸は、こういう表現が許されるならば、生徒たちが持っている資源(彼らの活動を仮に4つのレベルに分割してあります)を示し、横軸はその資源の変化に見られる法則性を示しています。
図2
詳細はI.L.ヴィケンチエフ「TRIZ教育の生理心理的基礎」を参照のこと
著者の経験では、教育によって良い成果を得るためにはそれぞれの生徒が下の表1に示したステップを踏んで学んでゆくことが必要です。
⇨ | ⇨ | ⇨ | ⇨ | |
---|---|---|---|---|
導入 | 規範に従った活動の習得 | 規範に従った活動の拡大 | 規範に従った活動の実行 | 独自の活動様式の構築 |
表1{を図2と併せて参照すること}は、我々がこの論文で検討していることにどのように役立つでしょうか?
第一に、考えられる方策を網羅的に明らかにしてくれる形態素分析の利点と、発展における法則性を意識的に活用するTRIZの利点とを結びつけてくれます。
第二に、生徒たちが表1(と図2と)に従って教育の過程で辿って行く全体的な道筋を「上に向けて、右に向けて」という2つの方向の組み合わせとして把握することが可能になります。
(図2の)縦軸に沿った一番高度な活動レベルは方法のレベル、すなわち、創造的な活動を独自に企画する最も進んだレベルの活動です。教育が果たすべき機能(言い換えれば、その機能によって実現される目標)と生徒の構成に応じて、教師は表1に沿った段階的計画を立てることができます。例えば、中学生を対象とした教育では、多分、レベルを向上させるテンポはなだらかなものにし{訳注:図2のグラフの下の線}、他方TRIZの教師を対象として更に能力を向上させようとする教育では初めから方法レベルの指導を行い、個別の状況によって時々知識レベル・感情レベルに下った教育を取り混ぜるといったことになります{訳注:図2のグラフの上の線}。
第三には、表1の各ステップはその段階の教育の機能(目標)ですから、その機能を実現する道は複数存在するということに気づかせてくれます。今日ではそれらの機能を実現するために使える幾つかの教育テクニックが明らかになっていますので、本論ではそれを紹介してゆきます。しかし、教育テクニックはここで紹介するものに尽きるわけでないことは言うまでもありません。ですから、TRIZを教える先生方はここに紹介する各段階ごとのテクニックに自分のテクニックを追加して、教育方法を充実させてください。言い換えれば、表1は教育が辿って行く一般的・必然的な道筋と個々の教師が仕事で用いるテクニックとを組み合わせる枠組みの役割を果たしてくれます。
当然ながら、表1の各ステップで教育が果たすべき機能は(生徒が)それまでにどのような状態になっているか、それにどのように「建て増しをすべきか」ということによって左右されます。
世界中のどんな劇場に行っても、クライマックスや作者が伝えたい中心テーマから始まる芝居はありません。
何故でしょうか?
これをしてしまうと、観客はそれを受け取る準備ができていないし、そこに集中することができない、つまりは作者の伝えたいことが観客に伝わらないからです。様々な芸術作品に序曲、プロローグ、イントロ、あるいはマスコミ用語の「リード」などがあるのはこのためです。
創造性教育においては状況が更に複雑です。生徒の知的レベルの向上に取り掛かる以前に「清掃」をしておかなくてはならないのです。最小限でも彼らがそれまでに持ってしまったドミナント(著しい興奮状態になる中枢神経の特定部位。他方で別の部位の活性が失われ、これによって一定時間身体行動が規制を受けることになる)、知らず識らず型にはまっている認識や行動の仕方の修正が必要です。({元来印刷用の用語だった}「ステレオタイプ」や「刷り込み」という単語が特殊な意味{「型にはまった認識や行動の仕方」と「動物がごく短時間で身につけ長時間持続する学習現象の一種」}を持つようになったのは偶然ではありません。)
子供も、大人も、教育システム、マスコミ、おもちゃから始まって次々と建ってゆく建築物のスタイルなど外部環境に至るまで、似通ったものを通じて認識の様式が形成されているため、この「清掃」の作業は容易ではありません。大人(技術者、研究者、教師)を対象として行ったTRIZ教育の実践経験によれば、セミナーの初めの2・3日間参加者たちは明らかに決まりきった言葉を並べ立て、型にはまった反応の仕方をします。
導入段階の教育の基本的な機能(目標)を簡潔に表現すれば次のようになります:
生徒たちの古いドミナントを矯正すること。
この点で注意しておかなくてはいけないのは、教師は何かを教えるわけではなく、創造性を妨げる既存の固定的な認識・行動様式を修正する作業行うだけだという点です。
例1
残念なことに、新米のTRIZ教師は生徒たちが練習用の問題を解決しようとする過程でお互いに相手の言葉を遮って叫び合う様子を見て、創造的自主性の表れと勘違いしてしまうことがあります。
生徒のこうした行為は、ゲームの最中だったらおそらくよいのでしょうが、真剣に創造性を学ぼうとする時には許されません。アルトシューラも言っていることですが、早く考えることは、必ずしも創造的なことではなく、良い結果に結びつくわけでもありません。経験から言えば「電撃解答」は最も貧弱で惰性的な解答です。ですから、「少年発明家」ラボでは解答案の叫びあいを避けるために、最初の授業から常に、与えられた問題に対する解答案は60秒(この時間は実験に基づいて決められたものです)たつまで言ってはいけないことにしています。生徒たちがこの時間を「見る」ことができるように教師の机の上には砂時計が置かれています。
60秒という長さは、他の子供より先に(何のためでしょう?)当てずっぽうで答えることをさせないためには十分な時間です。これが徹底したら次に、以下の内容のインストラクションを与えます:
「考えを始める時には、まず『折り紙付きの落第生』が考えそうな解答案はどんなものか想像してみなさい。そして、こうした落第解答はやめにして、考えを先に進めなさい。」
このインストラクションの理由は何でしょうか? 初めに頭に浮かぶ、型にはまった解答案もその生徒自身の考えだということは明らかです。しかしそうした解答から抜け出させるためには、一旦「折り紙付きの落第生」の解答という形で想像させて、それを避けさせるようにする方が容易だからです。(このテクニックは旧来から使われているものです。作家のI.イーリッフとE.ペトロフとは二人共が思いついた警句は月並みだということで使わないことにしていました。{演出家の}K.S.スタニスラーフスキーは俳優に向かって、役作りをする時は始めに、すぐに使いたいと思う役者の常套手段はどれか、ということに意識を向けるように忠告していました。
このレッスンは更に発展させることもできます:
60秒の間に型にはまった思考から脱却し、更に、機能を特定し、IFRを考えて……
著者はここまで授業中の規律作りを目的とするレッスンについて故意に詳細に説明してきました。というのは、従来から教育の過程では新しい知識の習得と授業中の規律の維持という2つのことが常に同時並行的に行われているからです。しかも、総じて言えば通常、授業のテーマそのものよりも規律の維持のためにはるかに多くのエネルギーが投入されているのです。
ひょっとすると創造性教育の秘訣の1つは「何をどのように教えるか」にあるのではなく、はじめの段階でどうやって生徒の思考を解放するか、既存の桎梏を取り除くかということにあるのかもしれません。これができさえすれば、驚くほどの可能性が開けます。大人の専門家が長年断念していた技術の問題を子供たちが次々と解決してゆきます。こうした「解放」に成功すると、TRIZを教えることは比較的に容易です。子供たちは創造や美に惹かれる大きな傾向を持っているのですが、それが幼稚園や学校の教育によって覆い隠されてしまっていることが判ります。導入段階における教育上のテクニックを紹介する前にもう1つ注意点を指摘しておきたいと思います。各授業のはじめに、特に学習初年度には、生徒に刷り込まれてしまっている決まりきった行動や思考の様式から脱却し、創造的な活動に導入するシチュエーションを設けることが欠かせません。こうしたシチュエーションは部分的なものでも結構です。「少年発明家」ラボの場合には週に2・3時間をこの目的で使っています。
ここから導入段階におけるテクニックを幾つか紹介します。
自分自身の欠陥を自ら認めるのはいつでも難しいことです。これを行うには大きな勇気が求められます。それよりも自分が持っている刷り込み(型にはまった行動、認識様式)を部外者として見つめる方が簡単です。
例2
「資源」をテーマにした授業が行われるようになる以前のことですが、クラスの生徒に次の宿題が与えられました:
北極海の大陸棚に石油掘削用のリグが建てられました。ところが、リグの支柱に氷がついてリグに損傷を与える恐れがあります。最近USAでこれに対処する技術の特許が取られています。巨大なカッターを使って氷を取り除くというものです。一方ロシアでは別の方法が使われています。支柱の周りの水面は常に波打っているわけですが、コスト無しで使えるこの波を利用し、支柱の周りの水面に中空で環の形をしたブイを浮かべて、ブイが常に上下することによって氷の付着を避ける仕掛けです。
さて宿題は皆さんに調査をしてもらうことです。本物の調査と同じです。両親、友達、親戚のみんなに「海にリグが立っていて、支柱に氷がつく。どうしたらいい?」と質問してください。回答は次のように整理してください:
(もちろん、書式はなくても構いませんが生徒は、本格的な調査という形式を喜びます。)
生徒たちが集めた回答の例を紹介しておきます。回答者が子供か大人か区別していません。どちらの回答にも違いがないからです。
こうした「環境調査」を詳細に行ってしまうと、授業の時間をTRIZの宣伝のために無益に費やす必要が無くなります。子供たちの気持ちがTRIZに向かって授業の必要性を感じるようになるからです。
子供たちはフロートを使った現実的でスマートな解決策と上に列挙した、型どおりの貧弱なアイデアとの違いに自分で気づきます。
この点に関して、もう1つ要点があります:
私たちは学ぶ立場の人々を常に評価される生徒というバツの悪い立場に立たせることをしないで、評価する側に立たせました。大人を対象としてTRIZを教える際には、教師はしばしば難しい問題を与えて、生徒が手に負えなくて悩んだ挙句に、ARIZや標準解を使って教師のサポートのもとに美しい回答を得させるといったやり方をすることがありますから、この点は重要です。ティーンエージャーを対象とする場合に私たちがこうしたやり方をすることはまずありません。こうしたやり方をすると彼らは全く受け身になってしまうか、あるいは躍起になって貧弱な解決案を弁護し出す、または、そこで傷ついて後になって教師に挑みかかるようになってしまいます。
TRIZの教師は様々なクラスを対象として学習サイクルを何度かやり終えると、学ぶ側が様々なテーマについて持っているどんな種類の固定観念や思い込み(刷り込み)が教育を妨げるか熟知するようになります。しかし、それでも、導入段階を設けることは欠かすことができません。目的は生徒たちのステレオタイプ(思考や行動の傾向)を明らかにし、そうしたステレオタイプから生徒たちの意識を解き放つことです。日常的な思考の水準でステレオタイプを認識することは、通常はできません。例えば、「資源」というテーマに関連する、有害なステレオタイプの主なものは次の考え方です:
新しい問題を解決するには、システムに新しい装置や部品、あるいは、新しいエネルギーを追加することを欠かすことができない。
上の、石油リグの例を思い出してください。
通常、反省(自分の行為を意識すること)を次の3つの水準に分けて考えることができます。
「導入」段階では2番目の反省をよく使います。「社会的行為」の授業から1つの例を取り上げてみましょう。
教師:
「次のことを想像してみてください。皆さんが次の授業に教室にやってくると、いつもと様子が違います。黒板にスクリーンがかぶさっていて、机の1つにフィルムがおかれています。そして、例えば、N君が自分が行ってきたハンガリー旅行の話をしようとオーバーヘッドプロジェクターの準備をしています。今から60秒間考えてから、そんな時に学校で一番ありそうな反応について話してください。」
60秒後。生徒たちの回答:
「みんなが、べらべらどうでも良いことを言う。」
「先生の方は見ないで、プロジェクターやフィルムに触わる。どんな話をするのかってみんながひっきりなしに質問する。プロジェクターを見せているだけで、スライドは見せてもらえないみたい。」
「誰かが必ず大声を出す。馬みたいに騒ぐ。」
教師:
「はーい。もういいですよ。ありそうですね。それでは、これから私はどんな質問をしなくちゃなりませんか?」
生徒たち:
「どうして、そんなことをするの?」
「そう。」
「そう、放課後はみんな気が緩んじゃう。普通は、疲れたら気を引き締めろということだけどね。プロジェクターはいじくるためにあるんじゃあない。まず初めに『だめな生徒だったらどうするか考えなさい』、それから行動しなさい、だ。」
教師:
「はーい、もういいですよ。次の授業では本当に教室にオーバーヘッドプロジェクターとフィルムが置いてあります。今反省しておいたから、だれもプロジェクター壊さないよね!」
導入段階で用いるこのテクニックは、他と同じで、新しいドミナントを使って古いドミナントにブレーキをかけるのが狙いです。
次に挙げるのは「少年発明家」ラボで行った最初の授業からとった例です。著者としては生徒たちの間にどんなドミナントが生まれたのか判りませんし、その必要もありません。しかし1つ、疑いない事はまずいやり方と優れたやり方との違いを子供たちは肌で感じたと言えます。優れた方法の素晴らしさが与えてくれる喜びを生まれて初めて感じ取ったのです。子供たちは優れた方法が生み出させる現場に立ち会った訳ではありませんが、それでも、そうした体験をしたといえます。
「作業ベンチの上には電動グラインダーが載っていますね。私が手に持っているのはこのグラインダーのモーターを分解したものです。モーターはご覧のようにローターとステータという2つの部品からできています。回るのがローターで、フレームに固定されているのがステータです。どちらもたくさんの薄いプレートからできていますね。さて、ローターとステータのコアはどうやって組み立てるのでしょうか?」
「プレートを手にとって組み立てる。一枚ずつ重ねて。」
「じゃあ、やってみてくれるかな。こっちへ来て、黒板の前で、みんなに見えるように。ほらプレートだよ、重ねてご覧。ただし、全部のプレートのへこんだところがピッタリ揃うようにするんだよ。みんな、気がついたかな。重ねている時に、息を止めていたね? どうしたんだい?」
「ピッタリ揃うようにしなさいって、先生自分で言ったじゃない!」
「そうだったね。ところで、10枚のプレートを重ねるのにどれだけ時間がかかったかな? 誰も気がつかなかった? 先生が計ったところじゃあ、約1分だった。はーい。実験係ご苦労さん。席に戻ってください。プレートを重ねるの、他にやってみたい人はいない? はい、君。うーんと、また1分位かかったね。席に戻って。みんな、ここの工場で部品を組み立てている人たちは1日何時間働いているか知っている?」
「ハ チ ジ カ ン?」
「どうして驚いているの? そう、8時間だね。昼休みを加えると工場には9時間いる事になるね。この工場で働きたい人、手を挙げて! それとも、お母さんにこういう仕事をして欲しい人は? 手を挙げてくださーい! 手が挙がらないね。考えてご覧。お給料がもらえるし、勉強しなくていいし、それに、ボーナスだってもらえるんだよ……」
「イヤだー!」
「今度は、別のやり方です。ロボットを買って、据え付けてスイッチを入れます。ロボットは働く人の作業の仕方を真似する事ができます。どうかな。これってうまいやり方かな?」
「あんまり良くないんじゃない? ロボットって高いんでしょ?」
「じゃあ、もう1つ。だれかボールペンの芯を貸してくれるかな? ありがとう。スタータのプレートの山を2つに分けます。半分はボールペンの持ち主に重ねてもらって、あとの半分は私が、こうやって、揺れている芯にプレートの穴を通して重ねます。みんな見たかな。私の方が、大体7倍くらい早く重ねることができました。自分でやってみたい人、手を挙げて! 急がなくてもいいよ。全員、やってみて。みんなやったかな? 今、みんなは本当の発明を体験したことになります。これはこの工場で発見したアイデアでソ連で発明者証No.1343508に登録されています。どうですか、どのやり方が一番いいと思いますか?」
「ボールペンの芯を使うの。」
「私もそう思います。面白いのはこのアイデアの発明者証登録の申請をしようと工場の技術会議にかけたら、小型のモーターのコアの組み立てはボールペンの芯を使ってやっていることを申請書に書いちゃだめだって言われたんだ。実を言うと、使い切ったボールペンの芯を使っているんだよ。」
「どうしていけないの?」
「申請書にそんなこと書いたら、不真面目だって言うんだ。簡単すぎるって。」
「何、言ってんだろ!」
訳注:文中で触れられている発明者証No.1343508についている図:
記録終わり
もちろん、話のなかの間(マ)、身振り、眼の表情、子供たちが息を殺している様子などは文章に反映されていませんが、ここには「導入」のメカニズムの1つが示されています。何故、使い切ったボールペンの芯の話を出す必要があるのでしょうか? 子供たちは写実的で、生き生きとした、驚きに満ちた話をしっかりと記憶します。そして、TRIZによるイメージ転換の操作はその後から始まります。授業ではこの後何度も、ガイドを使ったステータのプレートセットの組み立てのストーリーにたち戻ることになります。例えば「思考における惰性」のテーマでは使い切ったボールペンの芯というだけで、他のすべてが子供たちの頭に浮かび上がってきてくれます。
「この方法を使うことによって、学校にプールが作れるほどの金額を節約することができました。」といったタイプの情報を話したところで、小さな子供やティーンエージャーに訴えることはできません。このため、ダメな方法と優れた方法との対比を何らかの手段を通じて身体で体得させることができない場合には、例えばお菓子のような「校内通貨」を用いるといった手を使います。授業の始めに、クラスをチームに分けて各チームに同じ数のお菓子を配ります。授業中にチームがつまらないアイデアを出したら、その都度お菓子を出してその分の償いをしなくてはなりません。もちろん、お菓子は小さなことでしかありませんし、子供たちのポケットには本物のお金が入っています。と言っても、自分たちがもらってしまったお菓子を諦めなくてはいけないのは嫌なことです。これは面白いテクニックですが、お菓子目当ての授業にならないように注意して使う必要があります。
「導入」段階で使えるテクニックは他にもあるでしょうか? 確かにあります。ただし、状況に応じて使い分ける必要があります。例えば、ユーモアを用いること、ダメなアイデアをバカバカしいまで極端化することなどのテクニックがあります。
宗教団体の内部やサイコセラピーでは打ち解けた雰囲気を作ったり、教師や医師に対して愛情を抱かせるようにする手段が以前から用いられていますが、これらの場合、知識の伝達は批判的な検討を通じてではなく、信頼のレベルで行われることになります。また、しばしば事前に空腹状態、睡眠不足、ストレス、儀式的な動作、疲労、薬物の摂取などを併用して、生徒・患者が暗示にのりやすいようにする手段が使われています。著者は創造性の教育においてこのような手段を用いることには断固として反対です。それでは、生徒の選択の自由を奪うことになってしまいます。生徒たちの創造的な活動の水準が向上してゆくのに従い、教育用に準備された問題も、現実の問題も含めて様々な問題を実際に解決してゆく自分の成功体験に基づいてTRIZが持っている力に対する確信を深めてゆくようにするべきであって、それが盲目的信頼に基づく信仰であってはならないのです。
カノンというギリシア語起源の単語は規則や規範を指します。このステップの教育の機能は規則を習得してそれを実践の場で再現することです。知識、能力、技能の教育については従来の教育学のなかですでに大量の文献が書かれてきていますから、私たちはこの件について詳細に論じることは止めにしてその機能を実現する上での幾つかのテクニックに触れるだけにしたいと思います。
どのような規則も様々な形で教えることができます。単に生徒に規則を紹介する、質問を通じて内容を理解させる、生徒たちが自分で規則を導き出すように同じ種類の問題を多数解かせるなどです。しかし、TRIZを教えるにあたっては注意しなくてはいけない点が幾つかあります。例えば、教育用に用いる練習問題の数はクラスの生徒の数より多くなくてはなりません。普通生徒が「自分の問題」を解いた記憶はよく残るものですし、同時に、その際に用いたTRIZのツールのことも記憶します。こうやって解かせた問題は新しいテーマを学ぶ際に「鈴木君が解いた問題」とか「田中さんの問題」のふうに名前付きで引用して利用することもできます。
配布資料などに規則の説明を書いて渡しても、微妙な区別や勘所について言い足りないところがどうしても残ります。このため、授業の中での追加の説明や補足は欠かせません。
例3
TRIZ学習1年目のクラスで粒子状の物体を用いて解決する問題を与えた際に、どうしても生徒たちの「腑に落ちない」様子だったことがあります。話しているうちに生徒は粒子状の物体と聞くとどうしても「砂粒」のイメージから抜け出せないため、粒子状の物体が水に浮いて温水プールの水の温度が下がるのを防ぐ可能性があると気づかないことがわかりました。そこでこんなレッスンをしました。始めに3分間準備時間を設けてできるだけたくさんの「粒子状の物体」の名前を考えてもらいます。1人ずつ立って砂粒以外の「粒子状の物体」の名前を幾つか言います。次の生徒は前の生徒が言った物体の名前をすべて繰り返して、自分でも新しい名前を複数付け加えます。これを繰り返します。こんな様子です。
「粒子状の物体、穀物と砕いた氷。次は山田さん!」
「はい。でも、粒子状の物体って 穀物や砕いた氷だけじゃないわ。カンナ屑やお砂糖の粉や、おしろいだってそうだわ。次は内藤さん!」
……
この練習は極めて効果的なので、学習期間すべてをとおして授業の中に織り込みます。単に規範的な行動を習得するだけでなく、学んでいる素材に対して批判的な姿勢、教師の言うことを一語一句信用しなくても良いのだという構えを育ててくれるスーパーレッスンです。
例4
例えば、教師は自分の机の上にお菓子(なんらかの賞品)を置いてつぎのように宣言します。「私が話している途中で、意味の間違い、論理の間違いに気づいた人は、すぐに『先生、そこ間違いです。』と言って下さい。」その後、通常の授業を続ける中で教師は普通の調子で「シェークスピアが言うように、陽は西から昇ります。」とか「(物質場分析を教えたあとで)物質場には大物質場、小物質場、内燃物質場があります。」とかを織り交ぜます。始めのうち生徒は教師が間違ったことを言うなど考えもしません。しかし、そのうちに教師の方が意識して間違えなくても、生徒は賞品目当てに教師が本当に間違えているところ、不正確なところ、言違いなどを見つけ出してくれるようになります。
注:こうした批判は生徒だけでなくTRIZの教師も成長させてくれます。しかし、ある程度時間が経つとこのタイプのレッスンの役割は終わります。「間違い探しと賞品」のレッスンから次のステップに進むタイミングです。次のゲームのルールは例えば次のようになります:
もちろん授業の展開によって、その時に必要なレッスンを行えば良いことは当然です。
導入と規範に沿った活動の習得のステップで学んだことを土台として、これまでに習得したカノンの適用範囲という意味でも、それ以外のカノンを学ぶという意味でも拡大を行うのがこのステップです。
「社会的行動」の授業から例を取り上げます。困ったことに生徒たちはお互いのレポートを分析したり、批判したり、する際に感情をはさまない評価基準(たとえば、レポートに含まれている素材の新しさ、有用性など)を用いることがどうしてもできません。そこで、まず客観的な評価基準とはどんなものか学ばせたあとで、例えば次のような小さい表を作ります。
話す速さ\口調 | 優しい口調 | 普通の口調 | きつい、強い調子 |
---|---|---|---|
速い | |||
遅い |
クラスの仲間のレポートを分析するように求められた生徒は教師の指示に従って、表のマス目を次々に移りながらその調子で分析を行うようにします。これによって多くの生徒が評価という行為には単にどの評価基準を当てはめるかということだけでなく、例えば、優しいゆっくりした調子で評価するといったことも含まれるのだ、という発見をすることになります。
もう1つの例です。教師が雑誌の『発明家通信』を調べて発明目的のリストを作り、生徒たちはそのリストを使って様々な技術品がどの目的で発明されたのか対照してみました。その結果、蛍光灯は空気を滅菌することができるのに、その機能は全く利用されていないことがわかりました。蛍光灯の管内では放電が行われ細菌を殺す能力を持った紫外線が発生しているのですから、滅菌目的で利用するための資源が十分に備わっているといえます。この作業から蛍光灯をどのように改良したら良いかというアイデアが生まれるわけではありませんが、どのような課題があるかということはわかります。その課題を解決することによって、例えば、蛍光灯の側面に開け閉めが可能な液晶の窓を作っておいてそこから紫外線を放射させるなどの案を得ることができます。
例5
1つの課題にTRIZの様々な手法を適用して解決策を説明します。
病人が寒くないようにと湯たんぽを使うことがあります。しかし、湯たんぽで病人が火傷する恐れがあります。そこで、ドイツでは病人にあたる側の表面に出っ張りをつけた湯たんぽの特許が申請されました。
図3
この例を素材として「物質場分析」を教えるとすれば、有害作用のある物質場の分解:外部の物質、例えば一方の物質と空気との混合物、を導入することによって有害な関係(湯たんぽと病人の肌)を排除する{標準1.2.1.}という説明ができるでしょう。また「矛盾」を教える際に同じ例を素材として、矛盾を含む状況を構造によって分離する「病人の体を温めるためには湯たんぽが身体に接していなくてはならない、しかし、病人が火傷を負わないためには湯たんぽが身体に接していてはならない。」という考え方ができます。「資源」の学習でも同じ例を使って、温度を絶縁する資源を探します。システム内部の資源である湯たんぽの素材と環境の資源の空気とをその目的で活用するという説明ができます。こうして、生徒たちは1つの課題についてTRIZの様々な考え方を自由に使い分け、必要に応じて物質場分析から資源に、あるいはその逆にツールを選び変えて考えることを身につけてゆきます。
問題を解決するために用いるTRIZの各種ツールと、現実の問題を解決する解決策とを区別することを生徒たちにしっかりと教えておかなくてはなりません。TRIZのツール(方法{=発明原理}、あるいは標準{=標準解})の選択が正しくても、解決策としてはまちがっていることがあります。
例6
「仲介」の原理を使わなくてはならない問題がありました。問題としてはこの原理をミクロレベルで適用する必要があったのですが、ある生徒がこの原理をマクロレベルで適用しようとして、どうしてもうまく行かないことがありました。この場合。その生徒としては他の方法{=発明原理}を探そうとするのではなく(その選択自身は間違っていなかったのですから)「仲介」の原理にもう一度立ち返って、この原理の使い方の細部を確認すべきだったわけです。
ですから、私たちは問題にすぐに取り掛かるのではなく、その前に問題をよく分析し、それから解決策探しに取り掛かるように教えています。例えば「物質場分析」を教えると、生徒たちは次のルールに従って考えることになります。
経験的に言うことですが、他の学科の規則と同じで、TRIZの規則を習得したといっても実は大変あやふやなものです。「矛盾」を学んだ生徒に矛盾を解く練習用の課題を与えると生徒たちは軽々と「こなして」しまうようになります。その後、幾つかのツールを学んだ後でどの問題にどのツールを適用するかは示さずにテスト問題を解かせます。すると生徒はすっかり途方に暮れて、どの問題から手をつけて良いのかわからない様子になります。実践的な問題に取り組ませTRIZのツールの何を使うか、どれを使った次にどれを使うかを自分で選択し、自由に判断させるとさらに惨憺たる結果になることがあります。どうしてこういうことになるのでしょうか。例を使って説明しましょう。「1つの物体を投影して正方形と円と両方の形を得ることは可能でしょうか?」もちろん、円の直径と同じ高さの円柱でしたら可能です。この場合には正方形と円とは1つの物体の異なる投影だということがすぐにわかります。片方の投影が得られるからといって、もう片方が得られないということはありません。ところが、残念なことにTRIZを学んでいる生徒の頭の中では、学習している技術の世界と、現実の世界のあり方とが同じ1つのものとなっていかないのです。
これから何がわかるのでしょうか。
技術システムは客観的に存在していますが、私たちがTRIZで考察対象としているのはその「モデル」と物質場やシステム分析を使い、矛盾を解決し、情報フォンドを参照するなどして行う「モデル」の変形とです。 従って生徒が資源、物質場、矛盾その他の変形のモデルをうまく習得したとしても、それだけではなく、1つのモデルを別のタイプのモデルに捉え直し、技術システムがそこで変形する姿を見る眼を養わなくてはならないのです。
私たちがTRIZの2つの学習内容(つまりは、規範)である「物質場」と「矛盾」とをどのように結び付けているか例を紹介しましょう。私たちの教育経験の示すところでは、生徒たちにとってARIZ85-Cで推奨されている物理矛盾を解決する11の方法{ARIZ85-Cの表2 参照}を全て覚えることは容易ではありませんし、それと物質場分析との関係に至ってはさらに困難です。したがって私たちは、11の方法本来の原則に手を加えず、自分たちなりに時間の観点、構造の観点、および作用の観点の3つの解決法を推奨するようにしています。以下で、作業手順を紹介します。
注:作用1および作用2はエネルギー作用の場合あり{例えば、温度範囲1と温度範囲2}
こうした上で上の3つを物質場分析の使い方の規則と比較すると、付加物質場(あるいは古い用語を使えば「仲介の原理」)とは作用の観点と構造の観点とを組み合わせて矛盾を解決することに他ならず、相転移の活用は作用の観点の矛盾解決法によって完全に説明することが可能です。各種のアプローチを比較して示すために私たちは次の小さな表を使っています。
変形後の物質場 | 矛盾を解決する方法の組み合わせ |
---|---|
B1 → F → (B3仲介物 + B2) | 仲介物がエネルギー作用を受けて、それと結びついている物質に作用を伝える |
B1 → 温度の作用 → B相移転 | 固体が温度の作用を受けると液体に変わる。温度の作用=0の場合は固体はそのまま |
表で「固体」「液体」としているのは生徒に具体的な例として紹介するためです。
注:従来の教育において科目間の関連とは、例えば物理で学んだ情報(知識)を化学に応用する、あるいはその逆といったことを指していましたが、ここで紹介しているのは様々なモデルを使いこなすこと、あるモデルから他のモデルに置き換えることを意味しています。
このアプローチはTRIZを深く学ぶだけでなく、問題解決の過程を検証する目的にも活用することができます。例えば物質場を変形する過程で犯した失敗は同じ問題の解決策を矛盾の観点から検討してみれば容易に気づくことができます。
私たちは創造的な活動を教えている生徒に対してある責任を負っているわけですが、教育の質も責任の1つです。そこで「若き発明家」ラボでは通常のTRIZ教育で与えるより難しい活動も織り込むようにしています。
発明を難しくする条件とはどんなことでしょうか。まずは、あちら立てればこちらが立たないという状況を作らなくてはなりません。「何を、どこで、いつ?」という人気のテレビ番組では賞品を賭けて、限られた時間でという条件をつけて答えを探させています。
私たちはテレビと同じことをやるわけに行きません。時間制限をつけると深く考えることがおざなりになり表面的なアイデア探しになってしまいます。そこで私たちは情報不足の状況を作ったりTRIZの規則のどれかを使ってはいけないという条件によって二律背反の状況を作り出します。例えばこのような課題を与えます:
「工場に樹脂を溶かすタンクがあります。」——以上! 問題の当初の条件はここまでです。必要な情報は生徒が質問リストを作って教師に質問する形で自分で集めなくてはなりません。このステップを助けるヒント・リストがいくつか用意されていますが、どのヒント・リストも単独では出題者{問題解決の依頼主という位置付けです}から情報を引き出す作業を完全にはカバーしていませんし、どうすれば良いという説明もありません。具体的な問題状況を踏まえないとヒント・リストも役に立ちません。
初めのヒント・リストは「依頼主の分析」です。生徒は依頼主が次のどのタイプか判定しなくてはなりません:
この判断に基づいて各チーム(2–4人)はそれぞれ自分の質問の仕方を考えます。
問題の状況を踏まえ、教師あるいは生徒の1人が演じる依頼主のタイプを判定してから、自分でも考えヒント・リストも活用して依頼主に尋ねる質問のリストを作り、それを用いて問題の状況を明らかにしてゆきます。以下にヒント・リストに含まれる典型的な質問を紹介します:
活用できるエネルギーと物質との資源をさらに完全に洗い出すには「発明家のためのリスト:典型的な物質とエネルギー場」を参照します。
次のような簡単な標語を使うと生徒たちが必要な質問のリストをしっかりと記憶してくれます。
過去—不都合—目標—資源
こうしたことを細く練習する狙いはなんでしょう? すべてのことをアルゴリズムの形にすることは不可能です。生徒たちはTRIZのツールの適用の仕方と、具体的な問題に対してどのように自分の活動を計画するかということと両方を学ばなくてはなりません。そのためには、一方でTRIZ、ヒント・リストに基づく標準的な質問リストなど、他方では、状況に応じてその場で考える自分の思考と、これも両方を使う必要があります。この自分の思考をハンドブックに書いてあるやり方によって単純に置き換えることは不可能だからです。
こうして、状況がすべて明らかになったらARIZ85-C、77の標準システム、資源、技術的矛盾を解決する方法{=発明原理}を使用する、時には単に物理的矛盾を解決する、などTRIZのいずれかのツールを使って問題を解決します。
通常この授業では実践的な問題を1–3件解決することになります(技術者を対象とするTRIZ学校のすべてが同様の実績を報告できるわけではないはずです)。
もう1つのタイプのレッスンも可能です、生徒の一人に自分のクラス、または、別のクラスの問題解決のリーダーを務めさせる、あるいは、クラスのために理論的な資料を作ってもらいます。これがうまくできるようになったら「ハンデキャップ」を導入します。例えば誰かに「札付きのワル」役をやってもらって、小さな音で机をコツコツ絶えず叩かせるとか、紙をガサガサさせるとかします。こうしたテクニックを端的に表現すると規範的な活動のハンデキャップ付き習得ということになります。こうすれば、現実に出会う問題の平均的なレベルよりは難しい条件でのレッスンとなります。
「社会的活動」の授業では「防壁」というレッスンを考えました。
ある授業で「今後の授業では教師が突然風変わりな課題をこなすように求めることがあります。」と告げます。更に「そういった時、生徒は普通どんな反応をしますか?」と尋ねます。生徒はありそうな回答をします:尻込みをする、怖気付く、言い争いを始める。そこで教師は「でも、私たちは本物の発明家なのですから、そこで『防壁』を使います。」と説明しておきます。
2回ほど後の授業で、教師が生徒の1人に向かってこう切り出します。「さあ『防壁』のレッスンを始めます。ここに1つ論文があります。3分経ったらこの論文について君のレポートを聞かせてもらいます。」このレッスンの狙いはなんでしょうか。難しいことを怖がらずに、それを切り抜けようとすること、難しい状況を解決可能な問題と受け止めることを学んでもらいたいわけです。
若者向け新聞の編集局の人から「私たちの新聞の読者通信員に簡単な仕事を担当してもらいたいと思っているのですが、うまい役目が見つかりません。助けてもらえませんか。」と頼まれたことがあります。
残念ながら編集局の人を助けてあげることはできませんでした。考えられる「簡単な仕事」はどれもすでに誰かがやっているし、どれも面白くないのです。このケースでできるのは将来へ向けた「遠い目標」を考えることしかありません。しかし、そのような難しくて遠い目標を目指すのはすべての人が望むことではありません。
私たちはティーンエージャー対象の「独自の活動様式の構築」ステップは、すべての生徒が必ず通る必須のステップというより、むしろ彼らに1つの可能性を提案するものとみなしています。
私たちはアルトシューラとビョールトキンが開発した「創造的人格の人生戦略」を学ばせるほかに、やる気のある生徒を科学、教育、ジャーナリズムの実際の現場——そこにどのような喜びがあるのか、どんな問題があるのか、どんな状況に置かれているのかを含めて——に引き込むように努めています。生徒たちがそこで考えたことの幾つかは「インベンション・マシーン」国際プロジェクトを実現する目的で採用されています。しかし現状では「独自の活動様式の構築」ステップはまだ科学というよりアートの段階にあり、私たちは創造的な人間を養成する方法についてあれこれ申し上げることはできません。そのような方法は開発途上にある(……)だけでまだ存在しません。
独自の活動様式の構築ステップでは教師は教える役割を捨て、より正確には、それから退きます。教師は、生徒の友人であり、相談相手ですが、それ以上ではありません。
ラボの生徒であるスヴャスラーフ・ラーリン、キリール・レーベジェフ、セルゲイ・モデェーストフ、アレクサンドルとゲオルギイ・ソーコロフ、アンドレイ・シチェルベンコの助けを得て作られた「応用ジャーナリズム」の授業の教科書の一節を引用します。
テクニック「人に結びつける」
(特別な比喩)
解決すべき矛盾:
読者に活動を伝えたい、しかし、文章では情報のレベルでしか伝わらない。矛盾解決の一般原則:
記憶、経験、知識、感覚といった読者の資源を活用する。つまり、何か新しいことを説明する際に、その新しいことをそれよりもよく知られていること、人や人の行動と結びつける。A)新しい情報を人や、人の行動、感覚と結びつける
文章の例:
芸術家には2つの道があります。身の回りの世界に介入してゆくか、自分のヘソを世界の中心と捉えて自分にばかりかかわってゆくかです。私が自分のヘソを見たところでは、他の人のヘソと大きく変わっているようには思われません。それだけでは足りないことが明らかです。
(モーリス・ベジャール「ダンス——眼で見る音楽」雑誌『同い年』、1973年、No.3、p.19 [Морис Бежар, Танец как зримая музыка, журнал "Ровесник", 1973, № 3, стр. 19.])
B)新しい情報を極端な状況を通して人や、人の行動、感覚と結びつける
文章の例:
私たちはいつも急いでいるものですから、区切りをつけるべきところを間違ってしまいます。原子炉が開発されたということが、それほど重要なことだと私たちには思えなくなっています。設計した技術者自身が爆発する可能性があると言っているのに、新聞は「原子力の平和利用は人類に貢献する!」などと書いています。自分の会社が不良品対策に汲々としていることを知っているくせに、飛行機の乗客の頭には、同じような不良品が飛行機の工場でも出ているかもしれないという考えが浮かぶことはありません。実際飛行機が落ちることがあるにもかかわらず……
(A.ゴロフコフ「半減期」雑誌『灯火』、1989年、No.34、p.30 [Головков А. "Полураспад", журнал "Огонек", 1989, № 34, стр. 30.])
C)新しい情報を文章を読んでいる読者自身と結びつける。時には読者を罠にかけ、あとで罠の種明かしをする
文章の例:
2つのエピソードを紹介しましたが、言わんとしていることはただ1つ「悪いのは外部の敵だ」ということです。その敵の役割を果たすものは何であっても、誰であってもかまいません。違う考え方、異なった生活スタイル、別の社会経済体制、ある民族——ロシア、アメリカ、ユダヤ、アラブ、黒人そして、もちろん、鉱物収集マニアというわけです。
「えー、なんでここに鉱物収集マニアが出てくるの? なんでこの人たちが敵じゃなくちゃあいけないんです?!」
と、敵のリストを見た誰かがテーブルを叩いて叫びます。
「では、お聞きしますが、なぜアメリカ人なのですか? どうしてロシア人なのですか?」
(アルチョーム・ボロヴィーク「私はどんなアメリカ軍兵士だったか」雑誌『灯火』、1988年、No.47、p.17 [Боровик А. Как я был солдатом армии США, журнал "Огонек", 1988, № 47, стр. 17.])
D)よりよく行動する(例えば、字の書き方、家の建て方)ためのインストラクションを読者に与える。時にはそのインストラクションの遂行に競争を伴わせる
文章の例:
数年前フランスのある新聞に次のような広告が掲載されました:「若いハンサムな百万長者がデュポンの最新作『一生を通じて』に描かれているような花嫁を募集しています。」翌日この小説は売り切れになりました。
(V.シャホーヴニン「広告もいろいろ」、新聞『ソヴィエトの商業』1990年5月12日付 [Шаховнин В. Реклама разная бывает, газета "Советская торговля" от 12.05.1990 г.])
*TRIZの授業の準備は一夜漬けではいけない!
これをすると、教師はどうしても他の人が作った(借り物の)例や問題を使うことになり、それでは授業そのものが創造性を欠き、自分も生徒も成長することになりません。
ですから、授業の十分前に集中して一晩じっくり授業の手順を考えて、計画を作ります。計画は部屋に吊るして常に改良できるように大きな模造紙に書いておくものと、詳細な準備をノートに書いてゆくものと両方作るのも良いでしょう。著者は次の項目の記入欄を準備したブランク・シートを作りコピーをとって使っています:
授業内容(構成要素)。実際の授業では一部を省略することもできますが、一般的な構成要素をすべて挙げると次のようになります:
経験から言って、授業毎のテーマをしっかりと設定し、それぞれのテーマについて何を準備するかリストを作っておくと、TRIZの教師は周囲の誰もがこれらのテーマ——授業計画の表、説明に使う例、生徒に与える問題、逸話、歴史、連想、イメージなどなど——について話しているのだということに急に気づきます。「初めてTRIZを学ぶ生徒にどんな資料を与えたら良いだろうか?」というテーマについては学ぶのが2年目の生徒たちの意見が貴重な情報源となります。生徒たちは例や問題が同世代の仲間にどう受け入れられるかを見分ける素晴らしい能力をもっています。
授業計画の準備リストが埋まったら、内容をもう一度自分で確認するために幾つかの観点からチェックしておくことが欠かせません。
確認のためのチェックをはぶくことはできないでしょうか?
省くことはできます。しかしその場合には、上のチェックリストは授業をゼロから準備する目的では使えないが、その際に教師が犯しやすい間違いを減らすことには役に立つリストだ、ということを忘れないようにしてください。
上のチェックリストの3でふれている「講義を通した教育の狙い」とはなんでしょうか。「技術システムの進化の法則」や「創造的人格の人生戦略」を指すのでしょうか?
その通りです。
しかし、私たちは実践的な理由からこれらを次の2つの命題にまとめました。
こうして作った授業計画の{授業中に参照するための}清書版は細かく文章にするのではなく、問題をマークで示したり、ポンチ絵や、キーワードを使って作り、一回の授業分が{例えばA4}1枚の用紙に収まるようにします。
理由は?
授業中にこの清書版に眼を向けるだけでどこまで進んだか把握し、次にどの問題を出すかといったことを素早く判断できるからです。授業に織り込むことにした例や逸話や問題などが詳細な文章になっていると、必要な時に素早い話の組み立てをすることは難しくなりますが、マークやキーワードのメモだと教師が自由に教育上の創造を行う余地が残ります。他方で、ARIZを使う複雑な練習問題や実例をベースとした実践問題の問題文などは別紙のカードにして生徒に配布する方が良いでしょう。
*子供を対象としてTRIZを教える場合には教師は机の上に次のものを置いておきます:時計、砂時計、テープレコーダ、予備の筆記用具、方眼紙、生徒にあげるちょっとした賞品(これは生徒の眼につかないようにします)。
*どの授業も必ず雰囲気作り、正確に言えば学校の友達と一緒の浮かれた気分やそれまでの日常の気分からの切り替え、から始めます。暖かい季節には一緒に軽いジョギング、夏や冬には体のコリをほぐす簡単な体操やストレッチをしてから授業に入る準備をします。ありきたりでない創造的な人はありきたりでない環境が育てます。ですから、教師は授業に入る態勢ができたら後で時々「ゲームのルール」の変更を宣言します。例えば、上の「テクニック6:教師の間違い探し」のところで紹介したような具合です。また、当然ですが常にグループ分けを変え、座る場所を移動させ、クラスの中での生徒の役割(当番、教師の代役、など)も変化させます。
*この文章では「社会心理の基礎」という授業科目について詳細に紹介することはしませんが要点だけ挙げておきたいと思います:クラスの活動の様態として最低でも次の3つの区別を設けて生徒たちがそれに対応できるようにし、その状態を維持しなくてはなりません:
休憩は、緊張をほぐし、体操する時間です。学習の様態では、小声で話すこと、教師や他の生徒の発言に声を出して反応すること、疲れたら静かに体を動かすこと、必要の場合断って教室から出ることが許されます。
集中の様態が必要なのは理論的内容の大切な説明が行われる時です。長さは2–5分です。
集中の様態を訓練(これ以外の活動様態については訓練の必要がありません)するために次のレッスンをします。教師は「注目!」と言って高いところで手を打って、その手を肩の高さまで下ろし、生徒たちに教師の両手に注目するように言います。次にゆっくりと両手を広げ、続いて手が眼の脇にくるまで狭めます。この時、生徒たちの視線は光学的な焦点のように教師の眼に集まります。そこで、その授業のテーマについて一番大切な箇所の説明をします。「注目!」の声、手を打つ音、静寂、そして100%集中、という自動的な流れができるまで、毎回の授業でこのレッスンを数度繰り返します。
これまで述べてきたように、問題が出された時には60秒の思考時間の後でないと生徒の解答は受け付けられません。時々、「創造的イメージ開発のエクササイズ」の科目が始まった後でも、教師あるいは生徒の誰かが「突拍子もない」アイデアや企画を出して、普通とは違うレッスンを提案するようにします。それは例えば:
「廊下に出るドアの向こう側に小さくて柔らかい生きたワニの子が入った袋が置いてあります。その袋を教室の中に運んできて、口を開いてワニを取り出して後藤さんにプレゼントしなくちゃなりません……」もちろん、本当に袋があるわけではありません。ですから、小道具なしで振りをして演技をしなくてはならないわけです。しかし、これをすることでヘンテコなことのを受け入れる空気、小さなものを可愛がったり喜んだりする雰囲気が生まれます。そして当然、ある緊張を持って1つの創造が行われるたびに、それを褒めたたえなくてはいけません。こうして子供たちに少しずつお互いをたたえ合い、一緒に喜び合うことを教えます。
更にもう1つ、教師が冗談を言え、生徒と一緒に自分も喜べるようでないと、TRIZの教育はおそらく成功しません。また同時に、笑っている状態から「さっと抜け出して」、手際よく学習様態に切り替えることもできなくてはなりません。授業の3つの様態で最も大切なことは、こうした様態そのものではなく、様態の切り替えをコントロール(はじめは教師が、その後生徒たち自身が)できることかもしれません(テクニック7参照)。
*生徒たちが感情的な評価でなく科学的な評価(例えば、同級生が自分について何を言ったかではなく、何をしたかで評価する)をするようにできるだけ早い段階で教え込まなくてはなりません。例えば、級友の発表は次の点について評価します:
教育上の位置づけによっては、上の評価基準を変える必要があります。例えば、発表の評価に次の項目が追加される場合があります:
このレッスンの狙いは比較することを教えること、単なる解答と、優れた解答とを区別することを教えることです。
*問題の解答は書いたものやノートに絵を描いて提出するのではなく、口頭で行うことが望ましい、特にはじめのうちはそのようにしたいと言えます。文字や絵の形で思考の軌跡を残してしまうと子供たちがそこから抜け出すことが難しくなるからです。
*理論をしっかり覚えさせるために、教師はそれまでに学んだ内容を図式や、記憶を助けるためのマーク、イメージなどを使って繰り返して確認し、ノートに貼り付けられるように資料をプリントして配布します。
*毎回の授業が終わる前に生徒は授業についての「意見」シートに次の項目について記入します:
以下、「意見」について補足します。
0の「自分の目標」は通常授業のはじめに記入してもらいます。生徒それぞれに自分なりの目標があります。隣の生徒に目標を見せる必要はありません。記入したらシートを裏返しておいても良いのです。大切なことは、たとえ一時間の一回の授業でも意識して自分の目標を立て、それを達成することを生徒に教えることです。統計では生徒は、大半の場合、理論的な内容や「落ち着いていること」「べらべらしゃべらないこと」といった自分の振る舞いを目標とします。
1の「一番興味が持てた点」で「泡」の部分を——芝居の稽古で大道具小道具を使わないように外見的な印象を——すくい取ることができます。より正確に、授業の内容がどう受け止められたのかは後の3、4から知ることができます。
2の「不満足な点」、5の「授業を改善するための提案」は、生徒自身にとっても、教師にとってもその後の授業の進め方の参考となります。
すでに触れたことですが、理想としてはTRIZの授業はどれも単なる知識や行動の伝承ではなく、研究行為でもあります。この研究は自分自身のためでもあり、他の人々のための研究でもあります。名のある教育家が行った発見については多くの出版物がありますが、初心者の発見についてはほとんどありません。ですから同僚の皆さんに提案したいのですが、自分の経験をメモで残すようにしてください。これが、将来創造性教育の方法を確立するための理論化の資料となってくれます。まず初めに、生徒たちの「意見」をもう一度研究し、テープレコーダに残した記録(あるいはその中の主な箇所)を聞き直して、次の質問に自問自答してください:
*もちろん、自分の犯した失敗をあわてて正当化するようなことをしてはいけません。(「ドミナントは常に自分を正当化しようとします。そして、脳はそのしもべでしかありません。
」A.ウフトムスキー)失敗の原因の分析がうまく行かない時には、専用の「考察項目リスト」に書き出しておいてください。そして、必ずそれきりにしないようにしてください。(トマス・エジソンのワークショップには “There is no expedient to which a man will not resort to avoid the real labor of thinking.
” 「考えるという苦行を逃れるために、人はあらゆる方便を使う。」という{イギリスの画家ジョシュア・レノルズの}言葉が戒めとして架けられていたそうです。)
*授業の内容がどれくらい理解されたかを判断するには、大学生や高学年の生徒たち(年少の生徒は少ししか書きません)に授業のまとめを作ってもらうと良い素材になります。
*もう1つ、まだ「こなれていない」新しい内容を授業に取り入れる際には、それについて盛り込めるだけのことを全て伝えるようにすると良いでしょう。そうすれば間違いや理解されにくい点を早くはっきり明らかにすることができるからです。
*TRIZの教育法について話をするとほぼいつでも「子供向けTRIZの特徴はどんなことですか?」という質問をされます。
創造性を求める様々な問題を使って著者が行った実験によれば、小学校高学年以上の普通の生徒の思考は成人の思考となんら変わるところがありません。もっとも子供の場合、普通と違うこと、当たり前でないことを怖がることが身についてしまっているので、その恐怖心をあらかじめ「なだめておく」ことと、問題文の中の専門的な表現を、例えば「滑りばめ」から「軸が穴の中で自由に動くようになっている」に、「金属の放射状塑性流動」から「金属の丸い板をゴムのように引き延ばす」にといったふうに前もって変えておく必要があります。
*とはいえ、10–15歳の子供についてTRIZの教師が知っておかなくてはならない固有の難しさが幾つかあります。その難しさを以下に列挙しておきます。(下でカッコの中に書かれていることは「若き発明家」ラボの授業について、学ぶのが1年目の生徒たちに書いてもらった作文に書かれていた言葉です。)
*TRIZ教育が与える悪影響はどんなことが考えられますか?
この質問に具体的かつ完全に回答することはまだできません。十分なレベルまで学んだ生徒の数が少なすぎる状況です。特徴を2つ挙げておきます:
*TRIZの教育では練習問題の解決でも実践問題の解決でも個人の能力が成績に大きく影響することはないように見えます。おそらくは、TRIZを使った場合は、二次方程式の根の公式を使うのと同じように、誰が使っても同様な結果が出ることが理由でしょう。しかし、規則に従った方法的な性格がTRIZよりも弱い「応用ジャーナリズム」「教育実習」「創造的イメージ開発のエクササイズ」といった科目での成果には生徒の個人的能力が大きく影響します。
*なお「若き発明家」ラボの学習でひどい過労の兆候がみられたことはありません。
18世紀の実験自然学者{博物学者}ビュフォン伯は自分の誤りを隠さないことを主義とし、自分の著作の最後を未解決の問題のリストで締めくくることにしていました。このリストは当時の学者たちの想像力をかきたて、結果として彼らの研究が促進され学問の歩みが早まりました。
私たちもこの習慣に従うことにします。TRIZ教育のこれからの課題は何でしょうか?
最後に、ここまで部分的に紹介してきたわけですが、著者がやってきた教育活動の自己評価はどうでしょう。生徒が新しい合理的な方法を自分で開発できる、そうした創造への手引きの1つ以上のことではないでしょう。
生徒たちは機会を与えられました。
創造の機会です。
彼らの成功を祈りたいと思います。
この論文は『TRIZジャーナル』No.2.2., 1991, pp.40-52に初めて掲載されたものです。
I.L.ヴィケンチエフによる2003年の注釈:
2003年10月3日TRIZ-RTV-TRTLの最初の開発者ゲンリフ・サウーロヴィッチ・アルトシューラの誕生日に彼の著作100点以上を掲載したサイト:
が開設され、また、電子書籍「TRIZ入門。基本理念とアプローチ」 ("Введение в ТРИЗ. Основные понятия и подходы") が発行されました。TRIZに関心を持つ方全員にお薦めします。
この他に次の3点の文章をお薦めします:
連絡先:
И.Л. Викентьев
тел./факс: (812) 571-27-27, 970-27-27
e-mail: info@triz-chance.ru