日本語で本格的にTRIZを学びたい人のためのサイト

TRIZとは、私たちが生きていくうえで直面する様々な問題を解決していくための思考の技術についての学問と方法の体系です。見方をかえると、問題解決の際に利用できる「考え方・着眼点の宝庫」と言うこともできます。

世界中の人々がこれまでに積み上げてきた優れた問題解決の実績を研究することによって作られました。経験的な方法ですが、特許の分析を始めとして少なくとも何十万件という事例研究を踏まえている強みがあります。

当サイト管理人の考えでは、TRIZの特徴は次の7つの思考アプローチです。これらを「TRIZの七つ道具」と名付けることができます:

理想
改良したい物の究極的な理想状態、あるいは抱えている問題が理想的に解決された状態を手掛かりとして、求められる行動を考えます。
矛盾
今なんらかの困ったことがあるとします。それについて「このような問題は、通常こういう方法で対処するが、このケースではその方法は使えない。その理由はこれこれだ。」という状況見つけ出し、それを逆手にとって解決策を考えます。
進化のパターン
改良したいモノ、あるいは、そのモノと競合関係にあるモノの特徴を手がかりとして、それに代わる次世代のモノのプロファイルを描き出します。
ここでは、過去・現在・近い未来の先行する物が次の世代ではどのように変化するかということを主に考えます。
システム・アプローチ
改良対象のモノ、あるいは問題を抱えているモノを中心に置いて、その環境、その部分、過去の姿、予測される未来の姿に視野を向けて、改良内容の決定あるいは問題の解決に役に立つ視点を探します。
ここでは、既存の方法を含めて様々な状況分析ツールを活用します。
資源
新しいモノの創出、現在のモノの改良、問題の解決のために利用できるかもしれない「何か」、言い換えれば資源、を見つけ出すことに集中して必要な行動を見つけ出します。
人・物、エネルギー・世論・資金、空間、時間、構造、情報、状況など全てが資源となる可能性を持っています。
モデル
現在広く使われているモノ、あるいは近い将来普及すると考えられるモノの構造や作動原理、あるいは現在直面している問題の構造などを一般化してモデルとして捉え、そのモデルをなんらかの形で改良する観点から、次世代のモノの構造や、問題を解決するアプローチを検討します。
心理的惰性
専門家だからこそ克服しにくい先入観や、日常生活によって生まれる固定観念を乗り越えるために様々なテクニックを駆使します。

TRIZは、完結した閉鎖的な方法ではありません。他の方法の利点を取り入れることも含めて現在も進化し続けています。

以上は当サイト管理人の考えるTRIZの特徴ですが、ほとんど独力でTRIZの基礎を作ったTRIZ創成者アルトシューラや、このサイトが開設された2013年春の時点で一定程度公的と考られるTRIZに関連する3つの国際組織がTRIZについてどのように説明しているかも見ておきましょう。

それぞれの組織の了解に基づいて転載します。日本語訳は管理人によるものです。

◆アルトシューラの定義

TRIZの基礎は旧ソ連の技術者でSF作家でもあったアルトシューラが作りました。彼は次のように書いています。

TRIZの基礎となっているのは次の理念です:
「技術システムは〈偶然に〉ではなく、一群の法則に沿って出現したり発展するものである。これらの法則を明らかにして、多くの〈無用な〉試行をせずに問題を解決するために、意識的に利用することが可能である。」

TRIZは新たな技術的アイデアをうみだす作業を精確な科学へと変えます。当てずっぽうの試行に替えて、計画的な思考操作の体系に基づいて問題を解決する技術が作り上げられているのです。

現代のTRIZの本質は技術システムの創出と発展に関する科学的理論です。この理論によって〈機が熟して〉〈幸運にも〉〈様々な可能性を根気づよく検討した結果〉といった要素は姿を消します。新しい技術の主要な要素はシステムの進化の法則に関する知識、合理的に整理された情報(物理的、化学的、幾何学的効果に関するデータベース)の活用、問題解決を行う思考過程の整理(心理的な惰性の解消、発想の促進、順序に従った知的活動の精確な遂行)です。

(「現代のTRIZと学習者の創造的思考の開発」、1987)

◆3つの組織による説明

以下の3つの組織がTRIZをどのように説明しているかを紹介します。長文になりますのでそれぞれに専用のページを用意しました。

1 国際TRIZ協会 (MATRIZ)

国際TRIZ協会はアルトシューラが設立した組織です。ロシア法人です。(国際TRIZ協会のウェブサイト:英語日本語

国際TRIZ協会の宣言(1999年)

(原文は以下のページの「Declaration MATRIZ」と題された書類:http://matriz.org/about-matriz/

「TRIZとは?」という疑問へのMATRIZによるもう1つの回答として、MATRIZの作成した教科書があります。詳細は「MATRIZ『レベル1教科書』のページ」をご覧ください。

2 アルトシューラ・インスティテュート

アルトシューラ・インスティテュートは1999年に設立されたUSA法人です。

TRIZとは何か (What is TRIZ?)

(原文は以下のページ:http://www.aitriz.org/triz

3 欧州TRIZ協会 (ETRIA)

欧州TRIZ協会は2001年に設立されドイツに籍を置く組織です。

欧州TRIZ協会の「役割と目的」

(原文は以下のページ:http://etria.eu/portal/index.php/mission-and-objectives-mainmenu-64)

次に、TRIZを学ぶ上で必要となる基礎知識をまとめておきます。少しずつ書きためてゆくつもりでいます。

TRIZという名前について:

理論、解決、発明(技術開発)の、課題(問題)に対応する4つのロシア語の単語の頭文字を並べたものです。意味としては「技術開発上の難問解決についての理論」と翻訳するのが妥当だと思います。TRIZの歴史の比較的早い時期に使われ始めた名称で必ずしも現在のTRIZの内容を反映していません。

参考としてロシア語表記を下記しておきます;
略称 = ТРИЗ
Теория Решения Изобретательских Задач

TRIZの基礎を作った人:

先にも触れましたが、TRIZの基礎を作ったのはアルトシューラという人物です。

ゲンリフ・サウーロヴィッチ・アルトシューラ (1926.10.15–1998.9.24)
旧ソ連ウズベキスタン共和国の首都タシケント生まれ。同じく旧ソ連のアゼルバイジャン共和国の首都バクーに拠点を置いてTRIZの研究・普及にたずさわった。
ロシア語標記:Генрих Саулович Альтшуллер
ラテンアルファベット標記:Genrikh Altshuller(ロシア名の2つ目を省略するのが一般的なようです)

詳しい経歴については

をご覧ください。

これだけは知っておきたいTRIZの歴史:

  • 1946 TRIZの歴史始まる。アルトシューラが若き日の盟友ラファエロ・ボリーサヴィッチ・シャピロ (1926.1.13–1993.7.16) と協力して後にTRIZとなる研究を開始。
  • 1956 アルトシューラとシャピロの共著ではじめての論文が発表される。(記録に残るTRIZの原型)
  • 1965 ARIZ(発明問題解決アルゴリズム)という略称が初めて使われる。(これがTRIZという名称の実質的起源)
  • 1969 アルトシューラ初期の主著『発明のアルゴリズム』初版出版。(TRIZ普及の端緒が作られた)
  • 1985 ARIZ-85C登場。(アルトシューラが自ら監修した最後のARIZ。アルトシューラ主導の時代の終焉)
  • 1991 TRIZのUSAへの本格的移植始まる。

より詳細なTRIZのこれまでの歩みを振り返るための資料として、2つの文献を紹介します。

ウラジーミル・ミハイロヴィッチ・ペトロフ「TRIZ発展小史」

 アルトシューラ自身によって認定された65人のTRIZマスターの1人で、現在イスラエルに住むV.M.ペトロフが2008年に作ったTRIZの歴史年表です。

 ペトロフは1945年生まれ。もっとも規模が大きかったと言われるレニングラード(今日のサンクト・ペテルブルグ)のTRIZ学校の設立に関わった人物です。アルトシューラの現役最後期1970年代後半から1980年代前半に、彼にもっとも近い弟子たちの一人として活躍しました。当時の弟子たちはアルトシューラに様々な提案を行なってTRIZが今日の姿となることに貢献しましたが、ペトロフは今日TRIZで「資源」と呼ばれている分野が発展するきっかけを作ったと言われています。現在も、古典的TRIZの様々な要素をそれぞれが成立した時の狙いの方向に向けて一層進化させることを中心に継続的に研究を続け、次々に論文を発表しています。

 ここに掲示する年表はアルトシューラと極めて近い立場にいた彼が、永年にわたってこつこつと蓄積してきた資料を整理してつくったものです。TRIZがどのように発展してきたのか、その過程でどのような研究が行われ、どのような成果が残されたのか、彼が持つ資料の範囲で詳細に記述したものです。ペトロフがイントロダクションで触れているように修正・補完の余地はあるものの、TRIZがどのように発展してきたのか、何が考えられてきたのか概要を窺い知る上で好適な資料です。TRIZの研究者にとっては読み物としても興味深いと思います。

ボリース・ズローチン、アラ・ズスマン「ARIZの改良」

 B.ズローチンは1946年生まれ。ペトロフの後輩としてレニングラードのTRIZ学校の初期のメンバーとしてTRIZコミュニティーに参加した、アルトシューラ後期の弟子グループの一員です。ズローチンは生産の現場でTRIZと関わりました。アルトシューラとの複数の共著を含めて多数の著書を出版し、ペトロフと同じように膨大な数の論文を発表しています。A.ズスマンはズローチンの弟子であり、生活と研究の伴侶でもあります。ペトロフの「TRIZ発展小史」に度々言及されていることでも分かりますが、2人は現在のTRIZで欠かせない要素となっている複数の手法の開発者としても知られています。2人は共にアルトシューラが認定したTRIZマスターです。

 ここに紹介するのは、アルトシューラがTRIZ開発の現役から引退した直後の1991年に、2人が書いた論文です。アルトシューラの最後のARIZであるARIZ-85Cの欠陥を克服して次世代のARIZを作り上げようという狙いの提案です。「TRIZの古典」のセクションに掲載されているアルトシューラの文章の次に読むとよいと思います。 TRIZを研究する上での必須の文章です。古典的TRIZを使おうと思っている人たちには是非とも詳細に読んで頂きたいと願っています。

TRIZの位置づけ:

TRIZの内容を学ぶ前に、既存の方法や知識と比較してTRIZがどのような位置づけとなるのかについて考えておきたいと思います。その観点から管理人が考えてきたことをまとめてみました。

TRIZの日本語で読める参考書:

◆『TRIZ 発明問題解決理論 レベル1 教科書』
 A.A.ギン、A.V.クドゥリャフツェフ、V.Y.ブベンツォフ、A.セレジンスキー 著
 黒澤 愼輔 訳

この本は国際TRIZ協会 (MATRIZ) のTRIZ専門家認定システムのレベル1(入門レベル)に対応した教科書です(PDF形式の電子書籍)。認定試験受験用の教科書ではありますが、TRIZへの入門書としても最良の一冊であり、TRIZに関心を持つ方に、まず最初に読んでいただきたい本です。

詳細は「MATRIZ『レベル1教科書』のページ」をご覧ください。また、以下のリンクからご購入いただけます。

DLmarketで購入
『TRIZ 発明問題解決理論 レベル1 教科書』(PDF版)
価格:580円+消費税

『TRIZ 発明問題解決理論 レベル1 教科書』(Google Play版)
価格:800円+消費税

TRIZ用語集:

ウラジーミル・ペトロフがKindle版の「TRIZ用語集」(英語版)を出版しました。ウラジーミルは1970年代からTRIZを学び始め、アルトシューラと議論しながらTRIZの発展に関わってきたTRIZコミュニティーの重鎮です。
(当サイトでもウラジーミルの手になる「TRIZ発展小史」の翻訳を掲載しています)

正統的でありながらTRIZの革新にも積極的なTRIZマスターとして定評のある人物ですから「TRIZ用語集」の著者として最適の人物です。

つぎのアマゾンのサイトより購入できます。

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TRIZとは

基礎知識

資料・参考文献

日本の皆さんがTRIZを理解するために役立つと思われるその他の資料を随時翻訳、追加してゆきたいと思います。

4人のTRIZマスターによる「TRIZの知識体系」

 MATRIZ(国際TRIZ協会)とアルトシューラ・インスティテュートの4人のTRIZマスターがTRIZの知識体系についてまとめた文章です。

「技術開発のためのアイデア発想法概論」

 この資料はアルトシューラの死後、2005年にTRIZマスターとなったアレクサンドル・クドゥリャフツェフが旧ソ連時代の末期1988年に書いたものです。当時のソ連邦発明発見国家委員会という国家機関が教師のために作ったガイダンスとして発行されました。従って「TRIZとは?」という問いに直接答える資料ではありません。しかし、古典的TRIZの代表的な手法であるARIZや物質場分析を技術開発のための様々な手法の中に位置付けている文章として独特の意義を持っていると思います。他の様々な手法との関係を考えることこそが「TRIZとは何か?」を最もわかりやすく示すとも考えられますので、あえてこのセクションに掲載することにしました。

 なお、アレクサンドル・クドゥリャフツェフがTRIZを初めて学んだのは1970年代の初めですが、彼はそれ以降も他の手法の研究を継続し、その成果の1つとして書いたのがこの資料です。アレクサンドルのこの姿勢は現在まで変わっていません(参考:「MOITT 2013-2014年度講座プログラム」)。その観点から見ると、この資料はTRIZが必ずしも唯我独尊的な方法ではないことを示す1つの証言として読むこともできると思います。

 さらにこの資料は、1988年の当時にソ連内外で知られていた各種の問題解決・アイデア発想手法の総覧としての価値も兼ね備えています。参考にしていただければ幸いです。

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