TRIZfest-2017 レポート
2017年9月13日から16日にかけてポーランドの古都クラクフで開催された国際TRIZ協会の大会 "TRIZfest-2017" に出席しました。
日本TRIZ協会の委嘱により第13回日本TRIZシンポジウム2017(9月22日)で報告を行いましたので内容を転載します。(当サイトへの掲載にあたって多少の修正を加えています。2017年10月10日作成)
(以下の報告の内容をPDFファイルにしたものです。ダウンロードしてご覧ください)
TRIZfestについて
- 国際TRIZ協会が主催する年次イベント
- 1999〜2011年は隔年にロシアで開催
- 2012年以降はフィンランド、ウクライナ、チェコ、韓国、中国と開催地を変えて毎年開催
- 本年は第13回。ポーランドの旧都クラクフで開催
- 開催地の選定は同地でのTRIZ普及に弾みをつけることに力点が置かれている(総括理事)
今年の開催地 ポーランド Krakow
- ワルシャワが東京、クラクフが京都に相当
- 人口100万人で学生20万人
- 3つの世界遺産を持つ観光拠点
- クラクフ歴史地区 (1978)
- ヴィエリチカの王立岩塩坑群 (1978)
- アウシュヴィッツ・ビルケナウ 収容所 (1979)
TRIZfest-2017
会期・内容
日 |
内容 |
備考 |
9月13日 |
チュートリアル |
ハイブリダイゼーションと新しい機能アプローチ |
ワレーリー・プルシンスキー、オレグ・フェイゲンソン |
TRIZのビジネスへの適用 |
ワレーリー・スーシコフ |
21世紀を生きるスキルの教育 |
エブゲーニーヤ・ギン |
企業訪問 |
ABBグループの研究所 |
スイスに本社を置き、電力、ロボティクス、自動化などを主体として売上約350億ドル、従業員数約135000人の企業の全社リサーチセンター |
9月14日 |
基調講演 |
ポーランド特許庁長官 |
Dr. Alicja Admaczak |
一般発表 |
24件 |
ダブルトラック |
特別セッション「TRIZと教育」 |
発表8件 + ラウンドテーブル |
一般発表と並行して実施 |
9月15日 |
一般発表 |
30件 |
ダブルトラック |
基調講演 |
GE Global Quality Leader |
Dr. Martha Gardner |
ラウンドテーブル |
TRIZ in Industry |
全員参加 |
基調講演 |
President, ALLCOMP PLSKA (従業員数140名の繊維機械会社) |
Andrzej Zając |
9月16日 |
TRIZマスター認定試験 |
3件 |
|
MATRIZ総会 |
活動報告 |
|
会計報告 |
|
幹部会員(理事相当)選挙 |
|
参加者
- 26地域(主催者の発表。基調講演の背景写真から増加した模様)約110名
- イスラエル、スイス、イギリス、ベラルーシ、オランダ、ウクライナ、スペイン、ドイツ、日本、ポーランド、チリ、韓国、ベルギー、ブラジル、インド、スロバキア、シンガポール、チェコ、ロシア、中国、台湾、バングラデシュ、サウジアラビア
発表・チュートリアルの内容
- 言語:英語+ポーランド語(英・ポーランド語間同時通訳)
- 発表申し込み110件を審査して62件に絞った。(次のリンク。ただし、数人が事情により出席できなかった)
- 予稿集はMATRIZサイトに掲載(英文)
- 以下のテーマが多かった(報告者の見方)
- TRIZの新しい適用分野と使い方の提案=思考支援ツール作成ツールとしてのTRIZ(スライド8参照)
- 変化の激しい時代を生き抜く力をどう育てるか(スライド9参照)
- コミュニケーション・ツール(メタ言語)としてのTRIZ(スライド10参照)
- 新しいTRIZツールの提案(スライド19に関連情報)
- TRIZ普及活動の進め方(スライド11、12、13に関連情報)
TRIZの新しい適用分野と使い方
- 刻々と変化する社会が次々に提起する新しい課題に対処するために、TRIZの基礎ツール(下表参照)を活用して新しい思考アルゴリズムを開発する
- TRIZマスターの発表の多くがこれに該当
システム |
対象としている事象から空間・時間・関係の観点で視野を拡げる |
資源 |
物質・力・空間・時間・情報・機能・状況の活用 |
進化のトレンド |
人工物が変化してゆく過程に観測される一般的傾向に着目する |
理想性 |
機能に着目して製品・設備・技術・制度・組織を企画する |
矛盾 |
良かれと思ってすることに不都合な作用が伴う、そこに着目する |
空想の開放 |
思考を日常的制約から解き放つ |
モデル化 |
状況、問題、機能、作用、思考手順などの標準モデルを作る |
変化の時代を生き抜く力を育てる
- TRIZの新しい適用分野・使い方の具体例
- 特別セッション「TRIZと教育」の8つの発表等。特に記憶に残るのは
- エブゲーニー・ギンのチュートリアル
- 韓国のMi Jeong Songが自分自身の子育てをきっかけに作った社員向け子供教育プログラム
- フィリップスのChristoph Dobrusskinの「TRIZ for Schools」
コミュニケーション・ツール(メタ言語)としてのTRIZ
- これも広い意味ではTRIZの新しい適用分野・使い方の具体例といえます
- 次の発表がこれに該当すると思います
- 名古屋大学西山先生の「Application of TRIZ to Research Communication Skill Development」
- Siarhei Boika他「Application of TRIZ in Business Systems」
- Monika Woźniak「Opportunities from Integrating TRIZ and IT project management for alignment IT – Business」
企業への導入状況について
- 2つの基調報告
- GE、Dr. Martha M. Gardner
- ポーランドの中小企業ALLCOMP(従業員140人)社長 Andrzej Zając
- ラウンドテーブル 「TRIZ in Industry」
- GE のMartha Gardnerがコーディネーター
- サムソン・エレクトロニクス Oleg Feygenson
- ロシア企業 RUSAL, EN+, Baselグループ(電力・金属主体、従業員数約200,000人) Sergey A. Yakovenko{MATRIZの会長とは別人です}
- 中国における状況 Yongwei Sun (NICE=National Institute of low-Carbon and clean Energy, Shenhua Group:エネルギー産業、従業員総数約210,000)
- ポーランドALLCOMP社(繊維機械、従業員140人)社長 Andrzej Zając
- GEミュンヘン Oliver Mayer
GEの例
- Dr. Martha M. Gardner
- 2007年にTRIZ導入開始
- 研修を中心に全社(世界)で普及推進
- Level 1 2500–3000人
- Level 2 数百人
- Level 3 訳100人
- 各地に主導的推進者
- ミュンヘン(Oliver Mayer、今回マスター合格)
- 中国(Yongwei Sun、MATRIZ幹部会員)
- インド(Tito Kishan Vemuri、コンサル会社設立)
ALLCOMPの例
- 社長のAndrzej Zając氏が講演会でTRIZについて聞いたのがきっかけ
- 2012年にTRIZを使って得たアイデアに基づく製品の成功で会社が急成長
- 従業員140名の会社に一部の従業員を仕事から切り離して育成する余裕は無い
- セルゲイ・イコベンコ氏とポーランドのコンサル会社 (NOVISMO) のサポートのもと現場の問題を解くことを通じて従業員の1/4から1/5をTRIZ専門家に育成中(現在Level2からLevel3に進む段階)
- 従業員、ボードメンバー、サポートするサービスプロバイダーの3者のモチベーションの維持が鍵
TRIZマスター認定試験
- 審査員9名(全員TRIZマスター)
- Simon Litvin (USA), Oleg Feygenson (韓), Robert Adunka (独), Mijeong Song (韓), Oleg Abramov (ロ), Valeriy Prushinskiy (韓), Yury Fedosov (ロ), Alex Lyubomirskiy (USA), Valeri Souchkov (蘭)
- 9人中6人の賛成で合格
- 今回の受験者は3名(受験資格はLevel4取得済)
- ドイツ1名
- 論文による審査
- 合格 Oliver Mayer (GE)
- ロシア2名
MATRIZ活動報告
- 副会長の報告
- ヨーロッパの状況 (Robert Adunka)
- 中国の状況 (Yongwei Sun)
- 学校教育への展開 (代理:Christoph Dobrusskin)
- 認定制度の状況と改善活動 (Yury Fedosov, Simon Litvin)
- TRIZの改良、新ツールの開発 (Simon Litvin)
- 大学への普及 (Valeri Suchikov)
- 総括報告 (Mark Barkan)
- 2015-2016年度会計報告(会計年度2年)
MATRIZ欧州担当VPの報告
MATRIZ認定者数推移:欧州Lv.1
ドイツにおけるTRIZ標準化
- MATRIZとDIN標準化インスチチュートとが協力してドイツ技術者協会ガイドライン(コンサルタントが対象)の出版が進んでいる
- 第1部(用語)は正式版として2016に出版済み。第2部(分析、問題解決ステップ)はドラフト公表中、第3部(解決策)も近日公表予定
- Kai Hiltmann他「Standard VDI 4521 Part 3: Inventive Problem Solving with TRIZ: Problem Solution」
TRIZの改良、新ツールの開発(TRIZマスター認定委員長)
- 基本ツールの研究
- MPVの改良
- クローンプロブレム
- 他分野に応用可能なプラットフォーム・テクノロジー
- ビジネスモデル開発
- 破壊的革新によるリスクの低減
- 問題解決に付随する副次的問題の予測
- TRIZ適用成果のデータベース
会員組織の状況(総括報告)
- 会員組織は40ケ国以上に分布する92組織
- 会費納入組織(最新)は43組織
- 新規:台湾2、ポーランド1、シンガポール1予定
認定専門家数の推移
|
2006 |
2017 |
Level 1 |
197 |
15,945 |
Level 2 |
6,579 |
Level 3 |
1,582 |
Level 4 |
73 |
120 |
Level 5 |
65 |
105 |
2015–2017年度会計報告
- 年度(2年間)別収入の推移(総括報告)
- 2015–2017年度の収入(会計報告)
- 2015–2017年度の支出(会計報告)
年度別収入の推移(表)
年度 |
純収入(繰越を含まない) |
2007–2009 |
$35,795 |
2009–2011 |
$84,197 |
2011–2013 |
$167,853 |
2013–2015 |
$263,010 |
2015–2017 |
$258,455 |
2015–2017年度収入の内訳
項目 |
金額 |
年度収入合計 |
$254,521 |
認定料 Level1 ($30×4723人) |
$141,690 |
認定料 Level2 ($50×1334人) |
$66,700 |
認定料 Level3 ($150×156人) |
$23,400 |
認定料 Level4 ($300×2人) |
$600 |
認定料 Level5 ($500×4人) |
$2,000 |
会費 (2年分=$200×36) |
$7,200 |
認定資格登録料 Level1 ($150×14件) |
$2,100 |
認定資格登録料 Level1–2 ($250×5件) |
$1,250 |
認定資格登録料 Level1–3 ($500×10件) |
$5,000 |
TRIZfest-2016 |
$4,581 |
2015–2017年度支出の内訳
項目 |
金額 |
支出合計 |
$237,300 |
給与 |
$81,600 |
銀行手数料 |
$4,793 |
郵便 |
$16,935 |
TRIZfest-2015 |
$18,257 |
備品 |
$2,015 |
サイト運営コスト |
$24,000 |
データベース |
$2,400 |
スポンサー(TRIZ普及支援) |
$69,800 |
サイトの更新 |
$11,000 |
法務・会計 |
$6,500 |
理事選挙
- 12人立候補
- 選挙の結果:新役員は下記の9名
- Robert Adunka(ドイツ ジーメンス)
- Mark Barkan(USA MATRIZ総括担当)
- Christoph Dobrusskin(オランダ フィリップス)
- Yury Fedosov(ロシア)
- Oleg Feygenson(韓国 サムソン電子)
- Sergei Ikovenko(USA)
- Oliver Mayer(ドイツ GE)
- Yongwei Sun(中国 NICE/Shenhua Group)
- Sergey Yatsunenko(ポーランド NOVISMO)
- 理事の互選により次期会長はYury Fedosov氏(ロ)に決定
TRIZfest-2017所感
- 国際化が着実に進んでいる
- 理事に占める旧ソ連世代の比重が大幅に低下
- 旧ソ連TRIZ関係者の同窓会的な雰囲気が一掃された
- オフィシャル言語は完全に英語(ロシア語はほとんど聞かれない)
- 中・東欧及びアジア人が目立つ
- 発表の内容が多様化、聞き応えのあるものが増えた
- MATRIZにTRIZ発展途上地域を支援する力がついた
- 専門家認定数は大きく増加したが飽和傾向も見られる
以上