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「技術開発のためのアイデア発想法概論」

このページでは、中堅TRIZマスターの一人、ロシアモスクワ在住のアレクサンドル・クドゥリャフツェフが1988年に当時のソ連邦発明発見国家委員会の立場から「技術開発のためのアイデア発想法の概要」という講義をおこなう教師のために書いた「技術開発のためのアイデア発想法概論」という資料を紹介します。

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技術開発のためのアイデア発想法概論

ソ連邦発明発見国家委員会
A.クドゥリャフツエフ、1988

 科学技術の発展を促進するためには技術開発に携わる研究者・技術者の労働の生産性を大きく向上させる必要があります。研究者・技術者の仕事に含まれる創造的な側面の生産性を高める前提となるのは様々な種類の方法を幅広く使いこなすことです。新しい技術のアイデアや問題解決の方策を探し出す方法もここに含まれます。こうした方法は今日数多く存在しますが、我が国の文献ではしばしば断片的にあるいは小さなグループ単位で紹介されているため、大半は広範に知られぬままとなっています。

 本稿は数多くの方法を概観して「技術開発のためのアイデア発想法の概要」というテーマで教える教師が授業に備えて準備をする際の素材を提供することを目的としています。

 ここで触れる全ての方法について簡単に説明を加えるだけでも資料として過大なボリュームとなってしまいますので、本稿が提供する情報はレジュメ的なものになっています。したがってほとんどの場合、各方法のフローチャートと各ステップの特徴を簡単に説明するところまでしか行いません。各方法を使った作業の例も割愛しました。ブレーンストーミング、形態素分析、ARIZ{技術難問解決アルゴリズム}、機能・コスト分析 {VE} の解説もレジュメ的なものとなっています。これは、これらの方法について別途教材が準備されることになっているためです。新技術のアイデアを探す上でのコンピュータの活用の研究に本稿が触れていないのも同じ理由によるものです。

 他方紙数の制約にもかかわらず、可能な場合、各方法の内容そのもの、リコメンデーションリスト、チェックリストは完全な形で引用するようにします。

 このうちはじめの3つの部分にはそれぞれ:

  • 問題を解決する道筋を明らかにするために問題を分析すること;
  • 選択した方針を実現するモノのあり様を様々なバリエーションとして探索すること;
  • こうして選択したモノの下位システムの間の矛盾を解決し、相互を調和させること

を目指すやり方が紹介されます。

 最後の部分では、実際の条件、解決すべき問題のタイプ、問題解決に携わる人の特性を考慮した各種の方法が紹介されます。

 「技術開発のためのアイデア発想法の概要」という授業を担当する教師には次の点に留意するようお願いしておくべきと思います。

  • 本稿では数多くの方法が紹介されていますが、概論的な科目でこれら全てに触れなくてはならないわけではありません。数多くのものを紹介することで、受講者や受講者が直面する問題の特性に応じて、教師が自分の授業の構成を調整できることが狙いです。
  • このテーマの授業に割り当てられる12時間は、2つのステージ(例えば、それぞれ6時間)に分けると良いでしょう。授業で紹介する主な方法の詳細な学習が終了し、第3の部分の学習が始まるところで分けます。
  • このようにステージを分けるのに対応して、授業を進める教師の狙いも当然変わることになります。第一のステージは基本的な資料を検討・概観して、受講者を問題へと引き込む機能を持っています。一方、主な方法を学んだのちの第二のステージは受講者が一番関心を持ったところを更に掘り下げて学習することが狙いです。
  • 可能なところでは、例を使って方法全体あるいはその個々の要素の使い方が理解しやすくなるようにすると良いでしょう。例は、まず、受講者に身近な独自の例でなくてはなりません。このために必要な素材を発見し準備する作業は容易ではありませんから、授業を行うずっと以前に準備を始めると良いでしょう。以下でそれぞれの方法ごとに推奨文献を挙げていますので、そこに例、説明図、問題集などが挙げられています。これらの方法に関する文献の多くは現状では残念ながらロシア語に翻訳されていません。従ってそうした方法については、特に気をつけて説明用の素材を準備しなくてはなりません。
  • この資料を学習する際にはそれぞれの方法にはそれ固有の意味があり、ある方法が効率的な作業をサポートしてくれるのは一定の領域に限られることを常に強調すると良いでしょう。ある方法を絶対視することは、理解を狭めることになり、新しい問題に直面した時に遅かれ早かれ挫折する結果につながります。ですから、現実の問題に適用する際には、その問題の特性を考慮して方法を選択しなくてはなりません。
  • アイデア探しの方法は問題解決の手段だけではなく、心理的なツールだという点を考慮することが大切です。方法の内容の大部分は問題を解決する人に一定の作業を一定の手順で行うようにという指示です。ですから、方法の選択は問題を解決する人の性格と結びつけて考えなくてはなりません。授業を進める過程では、受講者全体及び個々があれこれの方法に対してどのように反応しているか注意して、観察した結果を記録しておくと良いでしょう。
  • ご存知のように、創造性を要する問題に直面している人々を効率よく解決策に到達するように助けてくれる方法は、古代から提案されています。例えば、古代ギリシアの哲学者エピクロスは物質を構成する原子を組み合わせることによって求めるものを得ることを提案しました。古代ギリシアの時代のアルキメデスの「エウレカ」(分かった)という叫び声は、創造的なアイデアを得る方法を指す「ヒューリステック」という言葉の語源として今日に伝わっています。
    アルキメデスは紀元前2世紀に、すでに、発明家になろうとする人のための訓練法を作っていますが、創造的な探索に関する専門的な著作が書かれるようになったのは17から18世紀のことです。19から20世紀の初めにかけてこの分野にやや活発な動きがありました。これはロシアの産業革命の時代です。技術者を支援するニーズが発生したわけです。ロシアで広く知られているのは、例えば、P.K.エンゲルメイエル[1]、S.M.ワシリエフスキー、P.M.ヤコブソン[2]の労作です。これらの著作では技術開発に従事する技術者の作業が段階に分けて説明され、作業の整理・簡素化のための推奨事項が初めて提起されています。
  • この方向で現代の技術者の実践的関心をひくのはアイデア探索におけるソ連初期の理論家の一人で、1930年代に早くも開発技術者にとって興味深くまた有益でもある一連のリコメンデーションを提案したA.K.ガスチェフの業績です[3]
    ガスチェフの著作が興味深いのは単に誰それ具体的な発明家に固有なのでなく、何か発明をしたり、それまで誰も知らなかった新しい技術を発見をしたりしようとする人全てに欠かすことのできない特質が列挙されていることです。
  • 技術者に対する同様なリコメンデーションはのちの時代にも行われています。1930年代から工学的実践に関する原理的に新しい世代の方法が登場し始めました。これらは単なる忠告ではなくむしろ指示であり、創造性一般に関するものではなく創造性を具体的手順の体系にまとめ、具体的な問いに対する回答を求めるものです。こうして、新しい技術を発見するための工学的方法が登場したのです。

直感に基づいてアイデア探索を行う各種の方法

ブレーンストーミング

 ブレーンストーミングは集団でアイデア探しをする方法として最もよく知られ使われるものに数えられます。この方法は1930年代にアメリカのA.オズボーンという研究者が作ったものです。方法の主な狙いは参加するメンバーの各々が対象テーマについてできるだけ多くの提案をするように環境作りをすることです。準備、ブレーストーミングの実施、アイデアの評価と選択、高く評価されたアイデアの改良・発展という複数のステップで行います[4]

 準備の段階では、まず課題を正確に定式化{内容に即した形式で特定}し(一般的な表現で)記述し、次にその課題をできるだけ数多くの下位の課題に分割します。この際、独特のチェックリストを使うことができます:

  • これはなぜ必要なのか、
  • どこで作る(行う)べきか、
  • だれが作る(行う)べきか、
  • 具体的には何をどうやって作る(行う)べきか、
  • など。

準備段階の作業には、事実関係の参考資料(対象のモノの類似品、作用原理についてのデータ、不都合の原因、様々な制約に関する情報、など)の収集も含まれます。更にこの段階で、ブレーンストーミングに参加するメンバーの選択も行います。メンバーはアイデア出し担当(創造的なイメージや空想する心を持っている人たち)と専門家(分析的に思考する性向をもち、専門家として実績のある人たち)とに分けます。専門家はアイデア出しには参加せず、アイデアの評価選択を行います。

 「出たアイデアを批判してはいけない、参加者の間に心理的な葛藤が無いようにする、冗談や言葉遊びの奨励、参加者が興味を持つようにする、強制の無い自由な雰囲気で議論する、など」準備、遂行段階で用いるルールの効果で、与えられたテーマについて短時間で数多くの極めて多様なアイデアを得ることができます。続いて、専門家がアイデアを評価して、優れたアイデアを更に発展させます。通常参加者にはルールを説明するだけで、事前に教育を行う必要はありません。科学的な議論や課題設定に参加した経験を持つ専門家がリーダーとなって議論の司会・進行を担当します。参加者の人数は通常5–15人、ブレーンストーミングの時間は30–45分です。議論は活発なテンポで進めます。出されたアイデアはテープレコーダーや速記によって全てを記録します。

 ブレーンストーミングには幾つかのバリエーションがあります。例えば、参加者一人一人が予め準備したカードに自分のアイデアを1つづつ書き(これに10分あてます)、次に書いたアイデアを順番に読み上げ、聞いているメンバーは他の人のアイデアを聞いて考えたこともカードに記入するというバリエーションがあります。アイデアをカードにしてゆくので結果を分類する時の手間を省くことができます。

 興味深いバリエーションとしてリバース・ブレーンストーミングと名付けられるものがあります。この方法は具体的な課題を解決する目的で使われます。第一段階では対象とするモノについてありとあらゆる欠陥を見つけ出すことに集中してアイデアをだします。分析を通じて開発あるいは改良対象となっている特定のアイデアや製品のもつ、不十分な点、限界・制約、欠陥、矛盾を明らかにします。出されたアイデアは、アイデア出しに参加したメンバーが一旦評価・検討して、次に専門家が明らかに間違っている判断を取り除き、実際に確認されている欠陥のリストと対象させながらより徹底した検討を行います。リバース・ブレーンストーミングの第二段階では、発見された欠陥を取り除く方法を探します。この段階では、通常のブレーンストーミングのルールを使います。

 ブレーンストーミングの主な欠陥は課題を深く認識する時間が設けられていない点です。また、多くの人にとって、個別に自分でじっくり考える方が効率が良いということがあります。

 ブレーンストーミングのこうした欠陥を克服することを目的として、J.W.ヘーフェレによって「メモ帳法」と呼ばれる方法がつくられました。

ヘーフェレのメモ帳法

 ヘーフェレは集団で議論=セッションを行う前に十分長い時間をとって、参加するメンバーにテーマを与えることを推奨します。さらに、メンバーにメモ帳を配っておいて毎日必ず二回テーマに関するアイデアをメモすることを求めます。こうした作業手順の他、この方法の特徴としてメンバーに(自問自答用の)チェックリストを書いた参照シートが配布されます[5]

 有用と思いますので、チェックリストの一部を下記します。

  • この構造を何も変えない、あるいは少し変化させるだけで、他の目的に使うことはできないだろうか?
  • この構造は何に似ているだろうか?
  • 何(どこ)を変えることができるだろうか?
  • 何(数、時間、頻度、強度、高さ、長さ、厚さ、コスト、構成要素の数、など)を大きくすることはできないだろうか?
  • 何を小さくすることができるだろうか?
  • 構造(あるいは、その一部)を取り替えることはできるだろうか?
  • 何かを逆にできないだろうか?

 注意すべき点は、個々の設問の意味はチェックリストを使う度に変化し、改良したいと考えている対象のモノに直接対応する形で解釈されるようになってようやく落ち着くということです。ヘーフェレは、チェックリストの問いは最適な問題提起を発見するための謎かけなのであり、従って問いの立て方が妥当だとか妥当で無いとかを問題にしないようにと注釈しています。なお、設問の中のいくつかは、当該の研究が終わるまで一貫して視野に入れておく必要があります。例えば「何かを逆にできないだろうか?」という設問は、ヘーフェレの考えるところでは、ヒューリスティックとして大きな価値を持った問いであり、研究を通じて視野に入れておきたい問いの1つと言えます。

 ヘーフェレの著書『創造と革新』にはこの「逆向き」の変化の例が紹介されています。例えば、油圧シリンダー:ピストンが動くものと、シリンダーの方が動くもの;車輪のついた台車とローラーテーブル;文字盤の上で矢印が回転する、矢印は固定されていて文字盤が回転する;引きバネと圧縮バネ[5]

焦点法 (Method of focal objects)

 これはアメリカのC.ホワイティングという技術者が提唱した方法で、対象とするモノについて新しい独創的なバリエーションを考え出したり、並存可能な追加機能を発見したりする目的で使用します。原理は、対象とするモノに新しい、際立った、意外な特徴や性質を移植したり、独創的で課題解決手段として価値の高い組み合わせを発見したりすることです[6]

 この方法を使う手順は次の通りです。

  1. 作業の目的を正確に特定する(改良、モデルチェンジなどの対象とするモノと改良の目的を決める)
  2. 記憶、カタログ、辞書、目に止まった本などから幾つかのモノをランダムに選んで、作業の参加者にその名前を告げる
  3. 選んだモノそれぞれについて、性質、特徴のリストを作る

なお、作業の参加者に対象としているモノの名前を知らせる前に2と3のステップをやってもらっておくようにすると、性質や特徴のリストを全く自由な観点で作ってもらえます。

  1. ランダムに選んだ性質や特徴を始めに選んだ対象のモノに移植する
  2. 出来上がった組み合わせの分析を行う。この際、一見して両立不能な「乱暴な」組み合わせに特に着目するようにします。通常、こうした組み合わせアイデアを発展させると、最も興味深いアイデアが得られます
  3. 得られた結果を評価する

 アメリカでは、新しい広告作りや、独創的な商品を開発するアイデア探しにこの方法が広く使われています。わが国でも、消費財のモデルチェンジのアイデアを得る目的で活用されています。この方法は空想の力を伸ばしたり、イメージを豊かにする訓練に活用することも可能です。

連想と比喩のガーランド(花かざり)法

 この方法はソ連の研究者G.Y.ブーシュが提唱したものです。ブーシュの狙いは情報が不十分な、言い換えれば、論理的なアプローチが使えない状況で技術的難問を解決するアイデアを発見する方法を研究者に提供することです。こうした場合の1つの手段として連想と比喩の連鎖(ガーランド=花かざり)を使うと、1つの知見分野から別の知見分野に移行させてくれるため、以前発見したアイデアを別の形で解釈できるようになります。研究者の記憶の連想が、このような形で、一種独特の情報データベースの役割を果たすことになります[7, 8]。

 何らか既存のモノを改良する目的でこの方法を使う場合の主な手順は次の通りです。

  1. 同意語のガーランド
    対象とするモノの同意語を探して、第一のガーランド=同意語のガーランドを作る
  2. ランダムなガーランド
    別のモノをランダムに幾つか選ぶ。選び方は全くランダム、どんな方法で選んでも可。例えば、記憶の中から、あるいは百科事典から幾つか名詞を選ぶ。選ぶ名詞は必ずしも人工物であることも必要ない。選んだ名詞で第二のガーランド=ランダムなガーランドを作る
  3. 同意語のガーランドに含まれる言葉とランダムなガーランドの中の言葉とを組み合わせる
    同意語のガーランドの全ての同意語をランダムなガーランドの言葉それぞれと順番に組み合わせて、2つの要素の組み合わせを次々に作る
  4. 選んだランダムなモノの特徴リストを作る
    それぞれのモノの特徴を挙げてゆく。この作業は限られた時間、2・3分、の間にできるだけ数多くの特徴を挙げるようにする。結果としてのアイデア発想の成否はここでどれほど幅広く特徴を挙げることができるかに左右される。従って、主要な特徴、副次的な特徴、目立たない特徴をそれぞれ挙げるようにすると良い。特徴の表を作ると便利
  5. アイデア発想
    検討対象の人工のモノおよびその同意語にランダムに選んだモノの特徴を順番に結びつけてアイデアをだしてゆく。ランダムに選んだ他のモノについても同じようにして、同意語のガーランドにそのモノの特徴を組み合わせて、次々と新しいアイデアのリストを作ってゆく
  6. 連想のガーランドを作る
    ステップ4で作ったランダムに選んだモノの特徴を起点として、自由な連想のガーランドを作る。ランダムなガーランドのモノの特徴のどれからも、実際上無限な長さのガーランドを作ることができるので、時間あるいはガーランドの長さを限定して連想を行う。この作業を集団で行う場合、参加メンバーはそれぞれ個別に連想作業を行う
  7. アイデア発想
    検討対象としている製品の同意語のガーランドの各要素に連想のガーランドの各要素を順次組み合わせることを試みる。このステップでは、製品の同意語と連想のガーランドの個々の要素との組み合わせの中に独創的で魅力的なアイデアが十分に数多くあるかどうか判断する。この段階での評価としてアイデアが十分な数得られなかった場合には、連想のガーランドをさらに続け、ステップ6に戻ってその際ガーランドを作らなかったどれか別の特徴を起点として連想のガーランドを作る
  8. 評価と合理的なアイデアの選択
    ここまでのステップで、通常は十分数多くのアイデアが得られる。中には馬鹿げたアイデア、つまらないアイデア、あるいは都合の悪いアイデアも含まれるが、通常は常に独創的で合理的なアイデアも含まれる。アイデアの抽出は幾つかのステップに分けて行うことが推奨されます
    まず、明らかに不合理なアイデアを取り除く。次に、独創的だが有用性に疑問がある一方で、意外性に魅力を感じるアイデアを抜き出す。こうしたアイデアのリストは様々な専門家や創造的な仕事をしている人たちを巻き込んで検討するようにする。合理的なアイデアとは設定した目的や、アイデアを現実化する上でのニーズを最もよく満たすアイデアを指します
  9. 判定の方法
    合理的なアイデアの中から、最善の案を選択する方法は複数ある。最も、シンプルで効果的なやり方は専門家による判定です

 この方法を作ったブーシュによれば、上述の手順は簡略版であり、例えば、問題の状況を比喩的に表現して分析する、概念の語源的あるいは系統的なグループを作りそれを他の言葉に置き換える、比喩の花房やガーランド(花かざり)を作りそれを解釈しなおす、などの補助的な手順を加えて拡張、補強することを薦めています。

 ブーシュの方法は次のCARUSシステムと組み合わせると効果的です。

CARUSシステム

 CARUSシステムと名付けられた設計の方法は同じソ連のV.A.モリャーコという研究者が開発したものです[9]。この方法は次の5つの基本戦略からなっています。

  1. {Analogy} アナロジー戦略
    言い換えると、これまで使われてきたモノあるいはその一部、新しいモノが持つ個々の機能のアナロジーの探索
  2. {Combination} 組み合わせ(作用の組み合わせを含む)戦略
    新しいモノを生み出す際に、極めて異なったモノあるいは機能を一緒に使う。考案者の考えによれば、この戦略は既存の設計に含まれる部品・部分を様々な形で交換することと、サイズの縮小・拡大、配置を変更することとを想定している
  3. {Reconstruction} 再構築(作用の再構築を含む)戦略
    「逆転」の原理を実現することが基本になっている。例えば、現在の設計が回転させる動きに基づいているとすれば、再構築の狙いは自分が回転することとする、あるいは、さらに進んである種のトランスミッションを作ることを考える、角ばった部品は丸い部品に変えるなど。考案者はこの戦略は最も創造性に富むアプローチを発見させてくれると考えている
  4. {Universality} 汎用化戦略
    アナロジー、組み合わせ、逆転を使って汎用化を狙う
  5. {Serendipity} 無作為戦略
    以上の戦略に無作為を含めると、戦略としての選択肢が網羅される。この戦略の主旨は計画性を放棄して無作為なアイデア探索を行うことにある

 考案者の考えでは、上にあげた5つの戦略はすべて構造・機能を変化させることを目指すものです。CARUSシステムの方法体系では、上の戦略は様々な具体的な行為を行うことで具現化されますが、こうした行為の組み合わせを戦術とみなすことができます。

 以下に基本的な戦術を列挙します。

  • 内挿戦術。
    既存のモノの中に求められる機能に対応する新しい部品(部分)を挿入する
  • 外挿戦術。
    既存のモノの外側に何らかの要素を追加する
  • 縮小戦術。
    サイズ、速度その他を小さくする
  • 拡大戦術。
    サイズ、外観、速度その他を大きくする
  • コピー戦術。
    新しいモノの中に既知の部品、装置、機能をそのまま活用する
  • 掛け算戦術。
    1つだけでなく2つあるいは多数の同じ部品を使う、あるいは、全く同じ機能を幾つかの要素あるいは装置を用いて実行する
  • 置換戦術。
    対象の中にある部品や装置をそっくり取り替える
  • 改良戦術。
    新しい条件に合わせて調整しなおす
  • 収斂戦術。
    1つの部品を2つの対照的な特徴や構造を持つように(例えば、往復運動を用いている装置に振動を組み合わせる、など)変化させる
  • 変身(変形)戦術。
    構造や機能の原理に影響を与えない形で、例えば配置や機構などに、何らかの変化を加える
  • 統合戦術。
    既知の複数の部品から何らかの新しいモノを作り出す
  • 基本部品戦術。
    どれか1つの部品を選んで基本部品とし、それを出発点として次々に他の全ての部品を作って行く
  • 自動化戦術。
    対称のモノ全体から何かの部品(部分)をとり去り、その部品が無くなったことを前提として他の部品(部分)を再設計する
  • 順次従属戦術。
    特定の序列を持った連鎖関係に着目して、対象のモノの全ての部品を順番に漏れなく作ってゆく
  • 配置換え戦術。
    1つの同じモノの枠内で幾つかの部品の配置を変化させる
  • 区分戦術。
    対象のモノの構造や機能を特定の観点で区分する

 CARUSシステムでは、上に列挙した戦術の他に次の一連の方法を用います。

  • 時間制限法 (MTL)
    知的な活動には時間的な要因が影響を与えることに着目したトレーニング、および、情報が不足する状況での問題解決に取り組ませます
  • 突然の制約法 (MSB)
    問題解決に取り組んでいる際に、(通常、使い慣れた)何らかの手段を使うことを禁止します。この方法を用いることによって思考の柔軟性を鍛えることができます
  • 高速スケッチ法 (MHS)
    思考活動を診断する目的で用いられますが、素早く正確にスケッチを描く技能を高めることにもつながります
  • 新バリエーション法 (MNV)
    問題を解決に導く手段のバリエーションを全て発見することを求めます
  • 欠落情報法 (MII)
    問題解決に取り組む初期段階の活動を特に活性化させる目的で使います。この方法の要点は、問題を解決する上で欠かすことのできない情報が明らかに不足している課題を与えること。不足している情報は訓練を受けている人が具体的に要求した時になって初めて与えられます
  • 過剰情報法 (MIO)
    課題の状況記述の中に明らかに不必要な情報を入れておく
  • 不合理問題法 (MAP)
    明らかに解決不可能な問題を出題する。訓練を受けている人の創造活動への取り組み方を判定する目的で用いる方法
  • 劇的状況法 (MDS)
    参加者が問題解決作業を行っている途中で邪魔をする。例えば、問題解決の作業の方向を逸らすような質問をする、作業の途中で新しい条件を追加するなど

 CARUSシステムの上記の方法を分析すると、これらは個々の技術者の技能を訓練するレッスンの役割を果たしていることがわかります。

 以上の他にも、実績を積んだ何人かの技術者が技術開発に取り組む人がより良いアイデアを発見するようサポートしてくれる様々な手段を提唱しています。その一例は、アメリカの研究者E.クリークが提唱したリコメンデーションリストです[10]

クリークのリコメンデーションリスト

  1. 必要な努力を惜しまないこと
    知的な努力なしには創造はできない
  2. 詳細な点の泥沼に深入りしすぎないこと
    これにこだわりすぎると、大胆に別のアイデアに移ることが難しくなる。初めは全体としての方策に集中して広く考えるように心がけ、詳細はもっと後で検討する。初めに発見した「良い」案について詳細検討を始めてしまうと、自分で自分を邪魔してしまい、違う考え方をすることができなくなる。更に、それでも1つの案の詳細検討をはじめてしまうと、最終的に真に最良の案にたどり着いたとしても、詳細な検討のために時間も労力も大量につぎ込んでしまったの初めの案を優先してしまうことになる
  3. 「なぜ?」と何度も自問自答する
    簡単だが効果的なこの自問自答をしつこく繰り返すことは大変役にたつ。この自問自答によって、設定された問題の基本的な目的、考えられる方策などに付随する限界や特性を明らかにする
  4. 考えられる方策を少しでも数多く発見するようにすること
    およそ考えられる限りのアイデアを発見することができれば、その中には、おそらく、役に立つアイデアが含まれている
  5. 保守主義を避けること
    相互に極端に異なるアイデアがあっても当惑しないこと。大きな飛躍をしてしまうと、必ず後戻りをして、いま達成したことを否定しようとする傾向が生まれる。時間の試練を通り抜けたアイデアを採用することは自然に思われる。だからそうしたアイデアは深く信頼される。あわてて結論を出さないようにすること。発見したアイデアを早々と放棄しないこと。アイデアによっては、初めに検討した段階では注目に値しない、あるいは全く役に立たないようにさえ見えることがある。従って、さっさと放棄したい気持ちになるのは無理もない。しかしこれをしてしまうと、検討に値するアイデアを除外してしまうことがありうる。それだけでなく、少し時が過ぎてから若干手を加えた形でそのアイデアが採用されてしまうかもしれない。能力のある技術者の特徴の1つは、それまでのどれとも異なる新しいアイデアを執拗に採用しようとする点である。
  6. やり遂げた仕事に早々と満足してしまわないこと
    実際はアイデア探索を更に続けるべき時に、初めて出会った「良い」アイデアや既存の方法の改良案に惑わされないこと。初めに遭遇したアイデアの輝きに目を眩まされて、それ以降の探索の真剣な継続を軽んじてしまうことは極めて容易に生じる。これを避ける良い方法がある。これまでに明らかになったアイデアよりさらに優れたアイデアが存在する、常にこのように考えなくてはいけない。この原則を守れば、失敗することはまれである。
  7. 似通った課題に対処するアイデアに関心を持つこと
    似通った課題を様々な異なった状況で解決するアイデア探しを頭の中でやってみる
  8. 他の人に相談すること
    他の技術者、クライエント、ユーザ、販売部門その他の人々から積極的に情報を集めるようにする。こうした対話は技術者の知識の幅を広げるだけでなく、正しい考え方と出会わせてくれる。
  1. {ママ}難しいことだが、既存の技術を避けるように試みること
    既存の技術は実績を背景に圧力をかけてくる。しかし、やり方によっては思考はその圧力を押しのけることができる。
  2. 集団でアイデア発想を行う方法を試みる
  3. 人がアイデアを生み出す可能性には限りがないことを常に忘れないこと
    限界があるように誤って見える場合のあることを、技術者が常に自覚していれば、また、過度に保守的にならないように、あわてて結論を出さないように努力していれば、その技術者は発明を文字どおり「窒息」させてしまう傾向を克服する第一歩を踏み出したことになる

 イギリスの技術者M.W.ティーリングとE.R.レイスウェイトは新しいアイデアを得ることに関して興味深いルール体系を提唱しています[11]

ティーリングとレイスウェイトのルール

  1. 課題を正確に設定する
  2. 何らかの人間的ニーズを見出してそれを満足する最善の方法を発見する
  3. 課題を達成する方策が2つ以上あって、それぞれが長所と短所とを持っている場合には、当面の課題に合わせて技術的指標、経済的指標が改善されるように調整できないか、それぞれの方策について分析する
  4. 課題が選択されたら、発明によって達成する主な目標と副次的な目標、並びに、課題を達成する上での制約を明らかにする
  5. 課題に取り組む際には心理的高揚の状態を作る。このためには厳しい時間的制限をつけること、「卵抱き」{鳥が卵を抱いてヒナを孵すように課題に没頭する}法 を適用すること、作業を計画的に行うこと、集団でブレーンストーミングを行うことが大いに役立つ
  6. 有望なアイデアが得られた場合には段階的接近法を用いなくてはならない。その際、中間段階を飛ばしてアイデアを一気に具体化してはならない。常にできるだけ広い選択肢を残しておくようにすることが大切
  7. アイデアを検証する際には次のチェックリストを使うと良い:
    1. そのアイデアは技術的法則と矛盾していないか
    2. 発見した方策は実際に働くか
    3. そのアイデアは予定した指標を満足しているか
    4. 発見した方策は実際に使った際に十分な信頼性を持ち、扱いやすいものか
    5. 発明は既知の材料を使い既存の技術を使って実現可能か
    6. 必要な場合に制御し調整することが可能か
    7. その発明はコストが安い(高くなりすぎない)か
    8. 運用コスト、メンテナンスコストはどれほどか
    9. 寿命はどれほどか
    10. 不具合発生の頻度はどの程度か、甚大な影響を生じることはないか

 同じ目的のものでA.オズボーンのチェックリストとT.エイロアートのリストも広く知られています[12]

オズボーンのチェックリスト

訳注:小見出しの言葉は訳者が付け加えたものです

  1. {使い方}
    その製品の新しい用途としてどんなことが考えられるか? 新しいやり方で使えないだろうか? 今までの使い方はどう変化させられるだろうか?
  2. {アナロジー}
    状況に合わせた調整、簡素化、省略によって問題を解決できないだろうか? その製品は何に似ているだろうか? アナロジーをつかったら新しいアイデアが出てこないだろうか? 参考になる同じような問題状況は過去になかっただろうか? 真似のできるモノがないだろうか? 他のどんな製品より優れていなくてはならないだろうか?
  3. {変化させる}
    その製品から出発してどんな変形版が可能だろうか? 回転させる、曲げる、ねじる、ひっくりかえす変形はできないだろうか? 用途(機能)、動き、色、香り、形、輪郭をどう変化させることができるか? 他にどんな風に変えることができるか?
  4. {大きく}
    その製品について何を大きくすることができるか? 何を付け加えることができるか? 稼働時間、作用の強さを大きくすることはできないか? 回数{周波数・回転数etc.}、サイズ、強度を増す、あるいは品質を向上させることに何か意味があるだろうか? 新しい変数(勾配)を追加できないか? 1つのものを2つにできないか? 作動装置、動作ポジション、その他の要素を複数にできないか? 何らかの要素あるいは製品そのものを極めて大きくする、あるいは大きすぎるようにしてみると良い結果につながることはないだろうか?
  5. {小さく}
    製品のなかの何かを小さくするあるいは交換することはできないだろうか? 何かを今より密着させる、圧縮する、密にする、凝縮する、ミニチュア化する、短くする、狭くする、分ける、細分化する、小さめにすることはできないか?
  6. {取り替える}
    製品の何かを取り替えることはできないか?何をどれ程替えられるか、他の成分、他の素材、他のプロセス、他のエネルギー源、他の配置、他の色、違う照明はどうか?
  7. {配置を変える}
    製品の中をどのように変化させることが可能か? 構成要素のどれとどれを相互に入れ替えることができるか? 型番、並び方、並び順、配置プラン、操作の順番は替えられないか? 原因と結果の関係、速さ、テンポ、リズムを変化させられないか?
  8. {逆転}
    製品の中で何かを逆にできないか? 対照的に配置された要素の相互の位置、前後、上下を逆にできないか? 極性を逆転できないか? 止め方を反対にできないか?
  9. {組み合わせ}
    製品のなかの要素についてどんな新しい形の組み合わせが可能だろうか? あたらしい混合物、合金、(同種で特性値の違う)キット、(異種のものを集めた)セットができないか? 様々な部分、部品、固定の仕方、連結の仕方をどのように組み合わせることができるだろうか? 特性やアイデアを組み合わせることはできないか?

エイロアートのリコメンデーションと質問リスト

  1. 目標としている発明の特性や仕様を全て挙げる。その内容を変化させる
  2. 課題を明確に特定する。違う形で表現できないか試みる。副次的な課題と類似の課題を明らかにして、主要な課題を浮き彫りにする
  3. 現在の技術(やり方)の欠点、その基本的な原理、新たに想定していることを列挙する
  4. 分子レベル、生物的見地、化学的見地、経済的見地その他でどんなアナロジーが可能か、空想的なものも含めてアイデアを書き出す
  5. 数学的モデル、油圧式モデル、電子モデル、機械的モデル、そのほかの形のモデルを考えてみる(ここでいうモデルは、アナロジーではなく、理念的モデルを指す)
  6. 様々な種類の素材やエネルギーを検討する:気体、液体、個体、ジェル、泡、ペーストその他;熱、磁気、電気、光、衝撃力など;様々な波長の波、表面特性など;移行状態:融解、凝縮、キュリー点を超える変化など;ジュール・トムソン効果、ファラデー効果など
  7. 様々な従属関係、結びつきの可能性、論理的一致を明らかにする
  8. 何人か、当該の案件について何も知らない人の意見を聞く
  9. 全く自由な雰囲気で集団で話し合う機会を作る。とくに気楽に話ができる時を選んで、相手の言うことにコメントをしないでそれぞれの意見を聞く
  10. いわゆる「民族色」豊かなアイデアを考えてみる。スコットランド人風の凝りに凝ったアイデア、ドイツ人風の完璧なアイデア、アメリカ人風の贅沢三昧なアイデア、何を考え得ているのか分からない中国人風のアイデア、など
  11. 眠っている時も、仕事に通う時も、散歩の間も、入浴時も、列車でも、遊んでいる時も、常に問題を念頭に置いておくこと。いつでも、常に問題と一緒にいること
  12. 刺激を受けやすい環境(科学技術の博物館、消費財を売っている店舗、スクラップの山のなか)に身体をおき、たくさんの雑誌に目を通すこと
  13. 様々なアイデアやその各部分について価格、サイズ、動き方、素材の種類、などの表を作ってみる。様々なアイデアや新しい組み合わせについて、足りない点、欠けている点を探す
  14. 理想的なアイデアはどんなものか考えたうえで、可能なアイデアを検討する
  15. 得られた案について、時間(早く、遅く)、サイズ、粘度などの観点から変化させてみる
  16. 頭の中で製品の中に入り込んでみる
  17. 現在の連鎖関係の一部が取り除かれ、状況が全く変化して、解決が求められている問題がどこかにいってしまうような形に、問題提起の仕方や対象のシステムを変化させる方法を明らかにする
  18. 当該の問題は誰のための問題なのかを考える。それは何故?
  19. その問題は誰が最初に提起した? 問題の経歴は? この問題についてどんな間違った解釈があった?
  20. この問題は他に誰が解決に取り組んだ? その結果はどうだった?
  21. 一般的に考えられている限界的な条件は何? どうして、そうなっている?

 エイロアートのリストの興味深い点は含まれているリコメンデーションや質問がランダムに並んでいるわけではないということです。内容は単なるメモやリストではなく、むしろ方法に近いものとなっています。この面で、一層興味深いのはジェルジ・ポーヤが提唱した忠言と質問のリストです[13]

ポーヤの忠言と質問のリスト

訳注:この著作は日本語訳がありますが、下記の内容はロシア語から翻訳しました。提唱者はハンガリー出身の数学者ですので、やや数学式の表現に翻訳しました。また、提唱者名のポーヤはウィキペディアの表記を採用したものです。

  1. 問題の理解
    問題がどのように設定されているか良く理解することが必要。未知なことは何か、前提は何か、条件はどういうことか、可能な条件か? その条件は未知なことを明らかにするのに十分か? 条件は過剰ではないか、矛盾した条件ではないか? 状況を図式化して、適切な値を記入し、与えられた条件を部分に分け、これらを書残すようにする。
  2. 問題解決の計画を立てる
    与えられた数値と未知のこと(未知数)との間の関係を発見すること。この関係がすぐに分からない場合、補助問題を検討すると役に立つ場合がある。最終的に問題解決の計画を完成させること。
    若干異なる形になっている場合を含めて、以前にこの問題と出会ったことはないか? 何らかの形で似通った問題はなかったか? 役に立ちそうな定理を知らないか? 未知のこと(未知数)を検討して、未知数が全く同じあるいは似通っている既知の問題がなかったか思い出してみる。似通った数値を前提とする問題があってそれがすでに解決されている場合には、それを利用する、あるいは、その結果を当てはめることはできないか? これまでの問題の経験を利用するために、何か補助的な要素を取り入れたら役に立たないか? 問題を別の形で表現してみたら、更に別の形で‥‥?
    前提に立ち戻る。与えられた問題を解くことが難しい場合には、はじめに似通った別の問題を解いてみる。別の、解きやすい類似の問題、もっと一般的な問題、もっと具体的な問題、あるいは類似の別の問題を思いつかないだろうか? 問題を部分的に解決することを試みる。条件の一部だけ残し、他は無視する。その場合、既知数はどれくらい未知になるか、変化の仕方は? 既定の数値の中でどれかうまいものを取り除くか、何か適切な数値を使ったら、未知数が決まってこないか? 未知数あるいは既定の数値、または、必要ならば、その両方を変化させて、その場合の未知数と既定の数値とがお互いに近寄ってこないだろうか? あらゆる既知数、あらゆる条件が使われているか? 問題に含まれている主な概念は全て視野に入れてあるか?
  3. 計画の実行
    問題解決の計画を実際に進める際には、ステップごとに次の点を自分でチェックすること。このステップでやったことは間違っていないと、はっきり言えるか? 正しいことを証明できるか?
  4. 振り返り
    結果とそこに至る道筋を検証することはできないか?

 専門分野ごとの自問自答用のチェックリストやリコメンデーションのリストは現在かなり広く普及し有効に活用されています。

 全ての設計の方法は決まって、作ろうとしているモノが果たす機能を特定することを、作業の実行に不可欠な初期情報として求めています。他方で、機能そのものをどう設定すべきかという課題が取り残されています。目標の設定に関するリコメンデーションを挙げている数少ない文献の1つは平島廉久の『大衆消費財のアイデアと開発』{ロシア語版の題名の日本語訳。原著名は参考文献参照}という本です[14]

新しい目標の設定

 平島のリコメンデーションは日本の企業の経験に基づいて、主として大衆消費財のメーカーを対象として作られたものです。著者は消費財の新しいアイデアが生まれる主な源泉をいくつか指摘しています。

 第一の源泉となるのは、既存の消費財に対するユーザーの不満です。現在、消費財メーカーはクレームを何か恥ずべきものというより、主にアイデアの源泉と捉えています。クレームに関連する業務は次の形態になっています:

  1. ユーザーからのクレーム
  2. クレームへの対応
  3. クレーム情報の分析
  4. 製品の改良。新しい商品ラインの企画

 第二の源泉は、ユーザーは製品を購入することによって生活の安全・安定を得ようとしているという事実に注目することです。従って、生活上人々に不安を感じさせているものの分析は新しいアイデアの源泉となる可能性があります。著者の考えでは、中でも重要なのは健康、育児とこどもの教育、食品・医薬品の安全、犯罪とその予防、交通・日常の事故、地震です。

 心配や危機感から新たなニーズが生まれます。これらを分析して新しいサービスを提供することを考えなくてはなりません。

 第三の情報源は、あまり売れない製品に着目してなぜ需要がないのか原因を分析することです。平島の本[14]には製品が売れないことについて、考えられる原因のリストとネガティブな現象を取り除く簡単なリコメンデーションとが挙げられています。例えば、この分析を行う過程で新しい製品や現状から大きく改良された製品のアイデアが得られる可能性があります。

 第四の源泉はユーザーにとって大切なモノの移り変わりを分析することです。基本的に大切なモノの変化はゆっくりと進むものですが、1973年のエネルギー危機、疫病の流行などの現象はしばしば大切なモノが急激に大きく変化するという結果につながりやすいと言えます。

 最後に、第五の情報源は「変な」人たちの生活様式の分析です。製品を使う普通のユーザーはそうした製品そのものによって作られた決まり切った生活様式に従って生きています。こうしたユーザーから新しいニーズの手掛かりが得られることは極めて稀であり、あったとしても眼にはっきり見える形にはなっていません。アイデアにとってより貴重な情報源は自分の流儀で生きている、異端児、つまり周囲には変に見える人々です。

 この日本の著者が提案しているリコメンデーションは一貫した方法ではなく、むしろテクニック集というべきものです。しかし、仕事を進める上での一番初めのステップである、製品の目標を形作ることに触れている点で価値があります。

……

 発想されるアイデアの多様性を増す方法が発展してゆくと、アイデア発想の心理的なメカニズムを意識してそれを活用しようとする段階が必ず生じます。例えば東ドイツで行われている研究は、解決策を生み出そうとする作業の基礎となる論理的検討の諸段階と創造的思考のプロセスで生じる心理的なメカニズムとの間に一定の対応関係があることに気づかせてくれます[15]。

 東ドイツの研究者のあるグループの研究では、技術開発プロセスの一般的構造は次のようになっているとしています:

  • 問題状況の設定
  • 設定された問題の検討
  • 問題のより正確な把握
  • 問題解決のアイデア探し
  • アイデアの評価と最も実際的なアイデア(解決策)の選択

 また、同じ研究者グループは技術開発のプロセスは解決に取り組む人たちによる次の諸要素の実現によって成り立っているとしています:

  • 特定
  • 確認
  • 分析
  • 抽象化
  • 方策の作成(これ自体が、アイデアの列挙、組み合わせ、類比、連想といった要素から成り立っています)
  • 具体化
  • 総合
  • 評価
  • 決定

 この東ドイツの研究のような業績は純粋に言えば、方法といえるものではありません。とはいえ、こうした研究は、経験的に発見されたテクニックや方法の基盤となる科学的な基礎固めという意味で、方法の開発に一定の役割を果しているといえます。こうして明らかになったメカニズムは産業の実践において問題解決の専門家によって技術開発のプロセスを計画的に行う目的で活用されています。

シネクティクス

 「シネクティクス」という言葉はギリシア語で様々な要素を一緒にすることを意味しています。方法としてのシネクティクスは1950年代の中頃アメリカの研究者ウイリアム・ゴードンが提唱したものです[16] [17]

 シネクティクスの基礎となっているのはブレーンストーミングです。ただし、通常のブレーンストーミングは創造のテクニックを特別に教えられているわけではない人たちが参加して良いことになっています。一方、シネクティクスはブレーンストーミングを行う常設グループを設けることを想定しています。このグループは、テクニックも経験も蓄積してゆきますから、ランダムに選ばれた人たちよりも、当然、アイデアの生産性が高くなります。シネクティクスでは新しいアイデア発見をサポートするアナロジーや連想を広範に活用します。

 シネクティクスのグループは、まず「与えられたままの問題」PAG {=Problem as given?} を理解することから問題解決の作業を始めます。続いて、内容を確認しながらPAGを「我々の理解する問題」PAU {=Problem as understood?} に変形します。次に、ゴードンによれば、普通でないものを普通のものに普通のものを普通でないものに変化させ、表現を変えれば、問題を常に何らかの新しい視点で見つめる体系的な作業を行いそれを通じて心理的な惰性を打破することを基礎として、グループ独自の問題解決策を産み出します。この作業は、アナロジーを利用することと、意外な組み合わせと連想を展開してゆくことという2つのルートを使って行います。

 シネクティクスで用いられるアナロジーは次の4種類です;

  • 直接アナロジー (DA) では、改良したいモノを他の技術分野あるいは生物界の多少とも似ているモノになぞらえます
  • 擬人化アナロジー (PA) あるいは別名エンパシー{共感}は、問題解決者が改良対象のモノになったつもりになり、どんな感情が生まれるか何を感じるかを確認しながらその状態を体験しようとすることが基本です
  • シンボル化アナロジー (SA) は一般化、抽象化のアナロジーを使うことです
  • 空想アナロジー (FA) は、問題の条件が求めることをしてくれる想像上の何かを問題状況の中に取り入れることを想定しています

 シネクティクスの会合(セッション)は必ずテープレコーダーで記録して、のちに問題を解決する方策を完成させる目的で内容を徹底的に検討します。

 シネクティクスの作業に参加する人(シネクター)に求められる一連の要件もなかなか興味深い内容です。具体的には次の通りです:

  • 通常の判断を無視することができる、検討している対象のモノから思考の中で離れることができる、問題の本質を取り出すことができる、慣れ親しんだ考え方を抑えることができる
  • 空想のレベルに達するほど自由に考える傾向を持っている
  • 発見したアイデアをさらに展開しようという気持ちを持ち続けて、さらに良いアイデアが得られると確信していられる
  • 正確に表現されていない場合でも好意を持ってアイデアを受け入れることができる
  • 一貫して目的を目指し、問題は解決できるものとの強い確信と、技術開発における自分と同僚の能力への信頼を持っている
  • 普通のモノの中に普通でないモノを、普通でないモノの中に普通のモノを見つけ、当たり前の物や現象の中に何か特別のモノを見出し、その特別なモノを創造的なイメージを展開する出発点として利用することができる

METRAシステム (l'approche intégrée METRA)

 この方法はフランスの研究者Y.ブルヴァンのリーダシップの下に開発されました。形としてはシネクティクスに似通った方法です。ブルヴァン自身、この方法にはブレーンストーミング、シネクティクス、モーレの形態素表の要素と、METRAのアナロジー法としてまとめられた自由な連想を活性化する要素とが含まれているとしています。

 まずMETRAのアナロジー法は次のステップから成り立っています。

  1. 依頼者が使った表現のままの形で問題が(技術開発に取り組むグループの)研究者たちに伝えられる。このステップで、リーダーはグループのメンバーが自分のアイデアを自由に発言するように促す
  2. 対象に関する当初の認識を概念のレベルで様々な観点から広く展開させる。この際、自由連想法を用いる
  3. ブレーンストーミングによって当初問題が設定された表現を再検討して新しい形の問題設定をする
  4. 問題を複数の副次的問題に分解できるように、対象のモノのアナロジーを展開させる作業を行う
  5. グループメンバーのモチベーションに従って、利用するアナロジーを選択する
  6. いわゆるアナロジーの国の旅を始める。このステップの狙いは空想的なモデルの中でイメージ上の対応関係を手掛かりとして検討対象のモノに関連する様々なアナロジーを自由に探索することにある
  7. アナロジーの国の旅で得られた結果を分析しながら、設定された問題に戻り、アナロジーを現実の仕事の言葉に翻訳しなおす

 このアナロジー法はMETRAシステムの一部です。METRAシステムとは、このアナロジー法、モーレの形態素表、検証ステップの3つを順番にぐるぐる回しながら繰り返すことです。

 この方法は、複雑な社会的・技術的問題を解決する目的で繰り返して使われました。この方法を使う場合は目的に合わせて訓練された専門家のグループが存在することが前提となります。

対象の機能・構造に着目する各種の方法

形態素ボックス法

 形態素ボックス法は1942年にスイスの天文学者フリッツ・ツビッキーによって作られました[19]。ツビッキーは形態素アプローチによる研究法を複数提唱していますが、なかでも形態素ボックス法は最も研究が進み広く使われているものです。方法の主な狙いは、通常研究対象を変化させる可能性の限界を見極める目的で、その物の作り方のバリエーションを全て網羅することです。

 この方法は次のように使います。

  1. 解決したい問題を正確な形で表現する。このステップでは検討対象としているモノの全体像を描き出すことが大変重要です
  2. 対象のモノの重要な特徴(属性、機能)を特定(明らかに)します。ここに取り上げる特徴が一体となってそのモノが存在すること、役割を果たすこと、そして問題を解決することを可能にしているわけです
  3. 上で特定した特徴(属性、機能)すべてについて、その特徴を得る方法として可能なバリエーションを洗い出します
  4. こうして見つけ出したバリエーションの総体が形態素表あるいは形態素ボックスとなります
  5. 形態素ボックスの中のバリエーションを様々に組み合わせる可能性を取り出して、それぞれからどんな機能的価値が得られるか検討します。フランツ・ツビッキーが提唱している形態素ボックスは実は形態素の分析を行う方法に他なりません。しかし、ツビッキーは形態素ボックスの膨大な内容の中から、どの組み合わせを選ぶかについての手順を作っていません。様々な研究者がこの手順の開発に取り組んでいます。筆頭にあげられるのはオドゥリンとカルターヴォフの著作です[20]。形態素ボックスは、問題解決の方向性は決まっているものの、どのような技術的手段でそれを実現するのかが決まっていない段階で使われます。この方法はまた、技術システムの将来の発展を予測する際に、技術的な新しさとしてどのような内容が想定されるかを検討する作業にも使われています。

 形態素ボックス法はその後各国に出現した多数のアイデア発想法の基礎となりました。ソ連ではオドゥリンとカルターヴォフがこの方法を発展させています。

 図1に形態素ボックス法のバリエーションの1つのフローチャートを紹介します。

図1.形態素分析のフローチャート
図1.形態素分析のフローチャート

発見表

 この方法は1955年にフランスで作られました。作者はアブラム・モールです[21]。ソ連では今日まであまり知られていない方法です。この方法についての紹介は参考文献[22]で見ることができます。

 発見表はフランツ・ツビッキーの形態素法に近いものですが独自の特徴をもっています。形態素表と同様にこの方法でも、対象としているモノの構成(形態素)のもつ必然性およびそれを得る技術的方法の検討を踏まえて、考えられる全てのバリエーションを体系的に網羅することを目的とします。しかしモールの発見表では検討するバリエーションの数を妥当な数に絞り込むことがはるかに容易です。発見表の要点をもっとも単純な形で示すと、2つの特性の軸を縦横に組み合わせた表ということになります。各々の特性軸には特性値を一定の基準で順に並べることも、ランダムにならべることも、また、特性値を質的なものとすることも量的特性値もすべて許されます。また、形態素ボックスには対象のモノに関する特性のみを含めますが、発見表では、例えば、生産、消費、稼働などの条件に関する特性も考えることができます。

 発見表の主なステップを挙げておきたいと思います。

  1. 関連する諸要素、特徴、モノ、事実、アイデアなどのリストを作る
  2. 検討対象に含める範囲を検討する。はじめに、問題を最も一般的・抽象的な形で表現する。妥当に表現できているか確認すること。次に検討対象とする範囲の構造を形作る。言い換えれば、はじめにリストにした諸要素、特性、などを、それぞれ対応する一般的・抽象的に表現された概念の列の中に位置づける。{それぞれの列は、はじめのリストの内容の他に、当該の概念に含まれる別の選択肢=特徴・モノ・事実・アイデアなど考えられるもの、を追加して充実させる}
  3. 列同士を対比する表を作って交点を順に検討し、想定される組み合わせを検討する。作業の目的である結論となりうる範囲を明らかにする。なお、表の交点のマスは2つの特性値を結びつけることを示す
  4. 想定される組み合わせを全て検討して、使える可能性を持った新たな組み合わせを発見する
  5. 選択した可能な組み合わせを精査して合理的な結論を選び出す。

 発見表はそれ自体として完成した技術的手段を与えてくれるものではありません。2つの特性の組み合わせがそのままで解決策となりうるのはごく簡単な課題の場合に限られます。この方法が提供するのは、多くの場合、既存の知識を体系的に整理することを助け、検討の余地や、見落としやすい可能性を明らかにしてさらに検討を進める上での手掛かりを与えることです。特性の組み合わせは実り豊かな連想や問題設定の可能性を提供してくれます。アブラム・モールは発見表はあらゆる知識分野、活動分野に適用することができる共通の方法だと考えてます。この方法を使って最も多くの実践的効果が得られているのは新商品開発の分野です。

 なお、ソ連でも似通った方法が開発され活用されていることを付記しておきます(例えば、R.P.ポヴィレイコの十項目探索表[23]とG.S.アルトシューラのファンタグラム法)。

十項目探索表

 ノヴォシビリスク出身の工学研究者リューリク・ペトローヴィッチ・ポヴィレイコは十項目探索表 (DMP) という方法を提唱しました。十項目探索表とは横の欄には設計の際に考慮すべき質的な指標が、縦の欄には課題を達成するアプローチが記載された表を指します[23]。どのような質的指標と課題達成アプローチが取り上げられているか興味深いところです。作者は文献で出会った課題解決アプローチ (428) と質的指標 (129) とを全て分析しました。これを比較検討して指標の数を95、重複を除いた課題解決アプローチを223に絞り込みました。さらにこれらを同程度に重みのある指標とアプローチ各10個のグループにまとめました。

 次にあげるのは機械を設計する際に考慮される主な指標のリストです。

  1. 幾何学的指標
    長さ、幅、高さ、面積、投影、断面、体積、形状
  2. 物理・機械的指標
    構造物全体及び各要素の重量、必要な材料の量、新たに採用検討中のものを含む素材の強度など質的特性、耐食性、など
  3. エネルギー指標
    エネルギーのタイプと出力、エネルギー伝達方式、効率など
  4. 設計・生産に関するの指標
    生産合理化のしやすさ、運びやすさ、剛性、構造の複雑さ・簡単さ、その他
  5. 信頼性と寿命
    純技術的ファクター——製品自体としての信頼性と寿命、設計に影響する次のようなファクター:環境との作用による劣化からの保護、使用状態で人間が関与することに関連するファクター、他のグループの諸指標に影響するファクター
  6. 使用上の指標
    生産性{作動効率}、稼働/作用/加工の精度・品質、それらの安定性、稼働率など
  7. 経済的指標
    機械およびその諸要素の原価、生産・稼働に関わる工数・消耗品・損失など
  8. 標準化、共通化の程度
  9. メンテナンスの容易さ、安全性
    工数の節約、装置としての安全性、心理学的側面を含む人間工学、生産時の作業のしやすさ、作業・コントロール・修理のしやすさ、労働環境への配慮、生産工程のレベル、以上に関連する全ての指標
  10. 総体としてのデザインのレベル
    機能とデザインとの一致、サイズの合理性、合目的性、調和のレベル、各部分の間のバランスなどに関連するすべての指標

 次に典型的な課題解決アプローチのグループを紹介します。

  1. ネオロジー(ラテン語の「新しさの学」「新規性」より)
    新たに企画する技術プロセス、設計、形、素材、それらの特性などについて、全く新しいわけではないものの当該の分野では新しいものを使う
  2. 適応(アダプテーション)
    既知の技術プロセス、設計、形、素材、それらの特性を何らかの作業状態に合わせて調整する
  3. 掛け算
    システムの機能や部品(部分)の数を増やす。なお、増やされるモノはお互いに似通っているモノか同種のモノとする
  4. 区分
    システムの機能や要素を分割する。システムの要素同士の結びつきが弱くなり、要素相互の間の動きの自由度が増し、製品の要素や稼働プロセスの空間的時間的広がりも大きくなる
  5. 統合
    システムの諸要素とシステム全体の機能と形を一体化、集中、省略、簡素化する。生産上の要素、製品の要素、稼働プロセスの空間的時間的広がりが小さくなる
  6. 逆転
    システムの要素とシステム全体の機能、形、配置を反対にする
  7. インパルス
    連続プロセスについて、休止を入れる、脈動させるなどの形で、連続性を変化させる
  8. 柔軟化
    プロセスのステップごとに、あるいは、新しい状況に即して、システムの要素あるいはシステム全体の特性が変化し最適となるようにする
  9. アナロジー
    全体としては別のシステム(物体、現象)と、何らかの点で似せるあるいは同じようにする
  10. 理想化
    課題が理想的に達成された状況をイメージし、そこを出発点として少しずつ離れて行くという考え方をしてみる

 上にあげた指標と問題解決アプローチとで10×10の表を作ります。次に、課題の対象となっているモノについて、表の交点を順番に当てはめて検討します。この作業の目的は、10×10の各交点(あるグループの指標についてある問題解決アプローチを適用することになります)それぞれについて何か新しいアイデアを考えてゆくことです。作者は、製品の外形やデザインを変えたり、製品が機能を実現する原理を新しいものにするなど、設計を根本から替えるなど大きな変化を導入しようとする課題の際にこの方法が効果的だとしています。

組み合わせ法

 Y.M.チャピャーレの業績にツビッキーの形態素分析の更に進化した姿を見ることができます[25]

 チャピーレの組み合わせ法の主な新しさは組み合わせを探す際に様々な法則や手法を広く用いるところです。組み合わせ法では対象のモノを分析する新しいアプローチが提供されています。このアプローチのキーポイントは次にあげる一連の軸を取り入れている点です:

  1. 作業装置の概念
  2. 作業環境の概念
  3. 対象物(その部分)と環境の物質状態(相)
  4. 作業装置の幾何学形状の特性
  5. 作業装置の構造の特性(各部分の配置や動き方)
  6. 作業装置の各部分の結びつきのマクロレベル・ミクロレベルでの特性

 ここでの形態素表の外形的特徴は、各軸の内容となる具体的なバリエーションを横の列とせず垂直な軸の形に重ねてゆくことです。

 組み合わせのアイデア出しでは対象のモノについてのアイデアリストを使います。組み合わせ法の狙いは形態素分析と同じで、幅広い分野に目を向けてアイデア探しを行うことです。方法の作者は表を使って得られるアイデアは特許クレームの形式で表現すると、主な必要構成要素がすべて含まれるようになるので使いやすいと示唆しています。

 組み合わせ表を作る際にはまず、作業装置の構成要素の列を取り出します。作業環境も作業装置の構成要素の1つとしてと含めます。次に、物質状態{相:気体、液体、固体など}、作業装置の素材の特性、幾何学的形状、構造、動く部分と動かない部分との関係、作業装置の各部分の結びつきを書いてゆきます。

 組み合わせ表では唯一の最終案を得ることは考えず、たくさんの発明アイデアを得ようとします。

 チャピーレはこの作業をどのように進めるとよいかを示しています。複数の軸の検討を並行して行わず軸を順番に片付けて行く、あるいは、軸に優先順位をつけます。(つまり、まず作業装置の物質状態を決定してから、作業装置の力の伝達方式の諸案を考える、などとなります。)組み合わせ法では単に数多くの案が得られるだけでなく、検討の視野がより広くなることを指摘しておきます。

 製品の改良あるいは開発の際に機能的なアプローチに準拠する各種の方法も広く普及しています。以下では、こうした方法を紹介します。これらの方法には、機能を実現するアイデアを探すプロセスに極めて多様なアプローチがあります。

ステップ・バイ・ステップの問題解決アプローチ

 これは1969年にイギリスの学者A.フレーザーが作った方法です。彼は機械で発生する複雑な問題を解決する方法を考案しました。内容的に、この方法は不具合の原因分析法といえます[26]。まず、作者はすべての課題を次の2つのグループに分類します:

  1. 防御の課題(現在存在するシステムの枠内での課題)
  2. 開発の課題(新しいシステムの構築)

 課題を達成するプロセスは次のステップからなります。

  1. 最終目標の設定
  2. 原因の究明
  3. 諸特性の特定
  4. 障害の特定
  5. 障害を克服する方法の探索
  6. 課題モデルの作成
  7. 結論としての方策の正しさの検証

 ここに挙げた簡単な紹介からも見て取れることですが、初めの6つのステップは情報収集のステップです。フレーザーは各ステップについて更に詳細な説明を行っていますが、課題の多様性に応じて各ステップで行う内容も変化します。この方法は課題の設定ならびに確認の段階で役立つかもしれません。

機能発明法

 これはジョン・クリス・ジョーンズが1970年の著作で提唱している考え方です。技術システムの進化の分析に基づいて作られた方法です[27]。この方法の主なステップは次の通りです。

  1. 既存のシステムの個々の実際の構成要素それぞれの機能を明らかにする
  2. 他の機能が副次的な役割を果たして作り出している主機能を明らかにする
  3. 既存のシステムの改良につながる可能性のある主機能の変化をすべて明らかにする
  4. 上記のステップ2とステップ3とを結びつけて新しい(変化した)主機能を発見する
  5. 得られた新しい主機能を副次的な諸機能に分割して、それぞれの副次的機能を個々の具体的諸要素に振り当てる

 ジョーンズは機能発明法は技術システムが使われる環境が大きく変化した時、すなわち、そのシステムがもはや自分の役割を果たすことができなくなった際に活用する方法だとはっきりと述べています。

 この方法では、既存の物理知識を駆使すると技術システムをどのように変化させることができるか、その可能性を目的に合わせて体系的に探索することが想定されています。この方法を分析すると、実質的にはじめから主機能を巡る作業を始めることがわかります。いうなら、検討作業が経済的だという点が興味をひきます。また、この方法の最初の部分は機能の構造を分析的に図式化するダイアグラム作りに幾分似通っていると言えます。

フォン・ファンゲの設計プログラム

 E.フォン・ファンゲの設計プログラム[28]は6つの主なステップから成り立っています。

  1. 基本的な方向性を明らかにする
    ファンゲよれば、最初のステップの性格は「一体、何を問題にしているのだろうか?」という問いで表現することができます。彼は、課題を設定する段階では選択した方向性が正しいか、その課題を達成すればそれで良いのか、それが本当に必要なのかについての確信はないのが普通だとしています。問題を検討していないということが、あるいは課題の設定が不正確だということですら非常に深刻な結果に繋がる可能性があります。例えば、ある大企業でのことですが、製品の小型モーターの梱包を手作業でやっているので多大な工数がかかるという問題がありました。技術者が集まって小型モーターを便利な小箱に入れる自動梱包装置を開発しました。装置の完成後、新しい梱包に対するユーザーの意見を調査しました。その結果、このモーターの販路の90%は卸の一括買い付けで、卸の顧客にはモーターを個別梱包するニーズがないことがわかりました。結局、自動梱包装置の開発は不必要だったのです
  2. 成果を評価する方法を決定する
    第二のステップは設計の結果をどう評価するか、その方法を決めておくことです。結果の評価は最後の段階まで残すそうとしがちなものです。ここで提起されているステップは作ろうとしている新しいものが、生産方法として、生産コストの面で、あるいは市場のニーズとの関係でどのような長所を持つことになるのか明らかにさせておくものです。ところが、多くの場合、大半の長所は生産現場で発見することは困難です。したがって、途中の段階を考慮に入れた判定基準をまとめて明らかにしておくことが望ましいのです
  3. 改良
    第三ステップは改良{先行製品より優れた技術を考案する}作業です。ファンゲはこのステップにおける創造プロセスの特性を詳細に論じることはせず、単に、このステップで新技術を発見する方法には極めて多様なものがあるとだけ述べています
  4. 最適のバリエーションの選択
    第四ステップの狙いは最適の方策案を選択することです。ファンゲがプログラムの中にこのステップを設けておくことが大切だと考えた理由は、技術者が発見したアイデアを更に発展させること、アイデアとして仕上げること、アイデアを実現する作業を容易にすることに十分な注意を払わないためです
  5. 結論のまとめ
    第五ステップは得られた案を決定案としてまとめることです。ファンゲは課題の実現に関与する様々な部門の間の連携、および、ここまでの作業の総括を特に重視し、このステップで行うべきことについてリコメンデーションを付け加えています
  6. 新技術の長所の証明
    第六ステップはこれまでの作業によって発見された新しい技術的方策の長所を証明することです。開発者が自分の発見の有用性や効果をうまく説明できないだけの理由で、多くの優れたアイデアが活用されずに終わることはよく知られた事実です。一般的に言えば、そうしたアイデアがあるということは、そのアイデアの発見のための労力と、多分、他の様々な資源が実ることなく費やされたことを意味しますから、実は損害が発生しているのに等しいと言えます。ファンゲは新技術の長所を証明するプロセスに少なからず注力して一連のリコメンデーションを行っています。その幾つかを、下に挙げておきます
    • 他の人のために簡単な、ただし中身の充実した、レポートを書いておくと良いでしょう。判りやすくするために試作品あるいは新製品の外観をなぞった模型をつけておくと、レポートの意義や読んだ側の印象が何倍も強くなります。
    • 新しい発明{製品}がどんな疑問や否定的な見方を引き起こしそうか、十分前から準備して予測あるいは想定しておくようにしましょう。そうした疑問や否定的見解が出てくる前にそれに対応できるようにしておかなくてはなりません。
    • 直接の上司をはじめ上司というものは簡単には答えにくい質問を多数投げかける能力を持っています。従って、まず質問の要点に回答し、自分の論点や証拠はそのあとから示すことを覚えなくてはなりません。その逆は禁物です。こうした説明の仕方は新聞で学ぶことができます。新聞の見出しには実際に役立つ情報の90%が含まれています。
    • 自分の論点を弁護する際に感情に飲み込まれてはいけません。うぬぼれや傲慢な様子が少しでも顔を覗かせると、新しいアイデアの長所が明白な場合ですら、必ず強い抵抗を引き起こします。ですから、反対意見に敬意を表すことも、少なからず成功の鍵です。
    • 新しい発明や技術に直接関係する人や部門と常に連絡をたもち、その人たちの意見、要求、希望、期待を知るようにしなくてはなりません。その人たちが技術の開発に関与する度合いが大きければ大きいだけ、成功の可能性も大きくなります。

 上のリコメンデーションからおわかりのように、ファンゲの関心は新しいものを作り出す過程そのものよりも、それ以前あるいはそれ以降のステップに向けられています。

バイツによる設計プロセス

 西ドイツの研究者ヴォルフガング・バイツの方法[29]による設計法には次の3つの主なフェーズがあります:

  • コンセプトの作成
  • 設計
  • 技術の仕上げ

 また各フェーズは幾つかのステップから成り立っています(図2参照)。ここで提唱されている手順の興味深い点は、何よりまず、情報の総合(シンセシス)と分析(アナリシス)とのステップが行儀よく交互に並んでいる点です。

図2.バイツの設計プロセスのフローチャート
図2.バイツの設計プロセスのフローチャート

 その点でバイツの方法にはある完全性があります。この方法の完成度を高めてゆくと、必然的に、コンピュータの可能性と組み合わせる方向に進んで行くと考えられます。

カタログを使うアルゴリズム風技術開発設計法

 西ドイツの研究者カールハインツ・ロートが提唱した方法です[30]。この方法で一番重要な点はステップの順序に従って行う作業とその際守るべきルールを示したアルゴリズム風の方法と、方法に即した情報集の役割を果たすカタログとです。ロートはこのカタログの作成に大きく注力しています。作業の過程でカタログから引き出す情報は、個々の具体的ケースに即して定められる選択基準にのっとって選びます。

 設計プロセスそのものは次の主なフェーズに分かれます:

  • 知識の整理
  • 機能コンセプトの探索
  • 完成品の外形の形成

また、各フェーズは幾つかのステップからなります(図3参照)。全体としていえば、この方法は機能の観点から新しい製品(技術品)の設計をまとめる方法と言えます。この方法では、機能を製品の働きを決定する1つの特性として捉えます。このような働きとして、放射、変化、物質・エネルギー・情報の蓄積、これらのプロセスの制御が挙げられています。

 ロートの方法はフローチャートのサイクルを何度も回すことを想定しています。

図3.ロートによる設計プロセスのフェーズと作業ステップ
図3.ロートによる設計プロセスのフェーズと作業ステップ

ハンゼンの体系的設計法

(概念を体系的に整理する方法)

 東ドイツのフリードリッヒ・ハンゼンが1953年に開発した方法です[31]。この方法では、設計プロセスにおける基本的なステップは何かということが規定されています。

 ハンゼンの考えでは、新しいモノを開発するプロセスは次の作業から成り立っています:

  • 考えられる全ての方策に共通する課題の主要理念の特定
  • 関連諸要因の様々な組み合わせによる方策案の検討
  • 各方策案に付随する欠陥の解明と欠陥の悪影響軽減策の検討
  • 欠陥が最小の方策案選出
  • 方策案を具現化する基準{図面?}の作成

 興味深い点はハンゼンが次の4つのステップの中で上の諸作業を使うことを提唱しているところです。

  1. 基本的原理の予備的な判定
  2. 方策案の構成要素のアイデア、および、作動原理の組み合わせのアイデアの検討
  3. 誤った点の批判的あぶり出しと作動原理の改良
  4. (選択した)最善の作動原理の効果検証

 ハンゼンは自分の方法を用いた設計、および、前述の基本的な作業の遂行に関連して一連の指示を付けています。すなわち:

  • 方策案の可能性を初めから狭めてしまわないために、課題の主な目的はできるだけ抽象的な形で捉えるようにすべきである
  • 課題の設定には全体的な機能(目的となる機能)、制約条件、情報空間(使用可能な諸要素)が含まれる
  • 組み合わせアイデアの検討ステップではあれこれの要素をどのように作る(使う)か体系的に検討すること
  • その際、個々の要素(部品、装置)について有機的連関を(通常、機能レベルで)明らかにする
  • 次のステップで、その有機的連関を現実的な水準になるまで具体化する
  • こうして企画された有機的連関を検証する判定基準は次の通り
    • 結果として得られる方策案は必ずこの有機的連関(機能)を持っていなくてはならない
     ハンゼンはこの検証の方法が、方策案のバリエーションの数を絞る重要な要素になると考えて、ここに大きく注目しています。彼の考えでは、求められる有機的連関を徹底的に検討しておくことによって、設計作業の早い段階から取るに足らない方策案や発展の余地のない検討作業を除外することが可能になるとしています。

ローデナッカーの方法論的設計

 西ドイツのヴォルフ・G.ローデナッカーのこの方法については、出典[32]の内容に沿って紹介します。

 ローデナッカーの方法論的設計アプローチの基となっているのは、あらゆる機械・装置の基礎には一定の機能を実現することになる「物理的出自」なるものがあるという考え方です。ローデナッカーは設計作業を抽象から具体へと流れる情報交換のプロセスとみなしています。彼は設定された課題(当初のモノの製品に転換すること)を機能構造の形に厳密化・抽象化し、その機能構造を得る物理的相関関係を求め、その相関関係に従って設計上の構造を決めてゆきます(図4参照)。

図4.ローデナッカーによる設計プロセスの作業ステップ
図4.ローデナッカーによる設計プロセスの作業ステップ

 ローデナッカーは物質を変化させる機械や装置を例として、方法的助言を行っています。それによれば次のステップを実行してゆくことになります。

  1. 設定された課題あるいは求められる関係を明確に捉える
  2. 課題を達成する、あるいは求められる関係を実現する機能構造あるいは論理的関係の案を検討する
  3. その機能構造・論理的関係に対応する物理的状況あるいは物理的関係を検討する
  4. その物理的状況・物理的関係を実現する作用の場あるいは構造的な関係を検討する
  5. 論理的関係、物理的関係、構造上の関係のアルゴリズム化とプログラム化
  6. 障害や誤判断の克服
  7. 全体構造の検討
  8. 方策案の判定基準

 この設計法の特徴はローデナッカーが第2ステップで機能構造を検討する際に最終的な形式論理的システムを構成する機能だけを考える点です。この機能とは、技術システムのエネルギー・物質の配分と結びつきおよび(あるいは)信号の処理および制御を指します。

 論理的関係を検討した後はそれを実現する可能性を持つ物理的関係を検討します。ローデナッカーはここで物理現象や原理を検討し、その際とりわけプロセスにおける時間的な流れを考慮します。情報を得る方法としては実験を最優先しています。

 続いて、第4ステップで構造的な相互関係を検討して設計を更に具体化します。この構造的相互関係は、作用面、作用空間、作用対象および作用動作(その場のエネルギーの形態)に見出される通称「作用の場の構造的特徴」に基づいて決定します。次には、具体的な物理プロセス、作用の場、与えられた要求に対応して選択した素材を考慮して、計算を行って構造原理を検討します(第5ステップ)。

 ローデナッカーは設計結果の質・量に悪影響を及ぼす感情の動揺の影響を抑えることに特に重視します(第6ステップ)。

 ローデナッカーの方法論的設計では物理的状況が前面にクローズアップされます。彼はこれに基づいて具体的な設計課題を明らかにしようとするだけでなく「既知の物理的効果を何かに使えないか。」と自問自答して方法に則って新しい装置や機械を「発明」しようとします。

 ローデナッカーの方法は1960年代から1970年代にかけて西ドイツで広く知られた方法であることを付け加えておきます。

チヤルヴェによる製品合成

 デンマークのE.チヤルヴェによる製品作りのプロセスでは、先ず必要とされる特徴(機能)を明らかにし、次に設計の過程で一連の主な特徴(特性値)を調整し、その後、実現されることになる特徴群を検証することを想定しています。

 作り出す製品の具体的な機能について集めることになる主な特徴、特性値としてチヤルヴェが想定しているのは

  • 構造
  • 形状
  • 素材
  • 寸法
  • 表面

です。

 チヤルヴェは製品の主な機能を「入力データによって出力データを決定する」ための手段と捉えています。主な機能あるいは機能体系を作り上げることが彼の合成プロセスの最重要要素です。このプロセスではこうした機能・機能体系を「機能−手段」のツリー状スキーム(言い換えれば、目的–手段ツリー)の形でまとめることを推奨しています。

 チヤルヴェはプロセスの各ステップ毎に明確に規定された作業の順番が重要だと考えています。彼は、各ステップがそれぞれある特定の情報を得る目的を持っているとしています。ステップを抜かして先に進んだり、早い段階で特性値を過度に詳細に、あるいは、過度に厳密に決めようとすることは禁物とされます。

 また、判断基準の体系を作ること、それを常に適用しながら作業を進めること重視します。

「製品合成作業の始めに、問題の分析からのアウトプットとして二種類のデータが得られます:
  • 一方は、求められる機能(主機能)の定義
  • もう一方は、望まれる製品を示す判定基準としても記述できる、求められる特徴のリスト
です。望まれる製品の判定基準は、設計作業の全過程を通じて、各ステップでの判断の指針となる基礎データとして使います。」

 この方法では、製品とその構成要素の形状に特別な意味が与えられ、これに一定の優先度を与えることを推奨します。美的な判定基準が重要な場合には、全体の設計に整合するように各要素の設計を調整します。性能やコストに関連する判定基準が優先される場合には、各要素の設計を優先します。製品の要素の形状の設計では機能に影響する表面を丁寧に検討することが極めて重要です。

 製品合成の各ステップで次の共通作業手順を繰り返し実行します:

  • 方策案のアイデア探し
  • 各方策案(アイデア)の検討
  • アイデアの評価と次のステップに進めるアイデアの選択

 方策案を探す際には、直感に基づく方法あるいは体系的な方法を使ってアイデア発想を行うことが推奨されています。その際、各ステップでの方策案アイデア探しの目標は「理論的に可能と考えられる案が多数得られる分野を探すことです。」[33]

 考えられる方策アイデアの数は理論的には無限といえますが、その主なタイプは検討範囲に入っってくるはずだとされます。これによって、最善のバリエーションを論理的に選択することが可能になります。

 作業プロセスがステップを追うに従って直感的な部分の比重が小さくなり、最後に近いステップではより多くの判定基準に相互に比重づけをして考慮することが必要になるという、チヤルヴェの考察は重要です。判定基準はアイデアと同等な重みを持っています。

「従って、最終結果(製品)は相互に全く異なる2つの要因に依存することになるます。その2つとは:
  • 第一に、得られたアイデアであり、
  • 第二には、『どのようなアイデアを選ぶべきか?』という問いに回答を与えてくれる判定基準
です。」

 チヤルヴェの著作[33]には量的規定のついた構造、製品全体とその構成要素の形状を導き出す具体的な方法が紹介されています。量的規定入りの構造案は構成要素をごく簡潔に表現した図式モデルを使って検討します。ここでの主な目的は、構成要素相互の関係を考えながら、それぞれのサイズと、相対的な配置の最適バリエーションを選択することです。

 この作業の効率を上げるために、様々なバリエーションを体系的に検討する方法が採用されます。選択肢のリストを完全かつ分かりやすく作れるのは、構成要素の数が限られている場合に限られれます。このため、最も重要な構成要素だけを使って構造検討を行うことが示唆されています。具体的には、構成要素の数は2から3とします。ここで得られたアイデアは、ある種類のアイデアの代表例として扱います。

コッラーの設計法

 西ドイツの研究者コッラーが提唱した設計法について考える際には、この方法が次の3つの部分から構成されていることに注意しておくと良いでしょう:

  • 製品設計作業の順序
  • 製品の主要な作用(働き)および要素機能の構造
  • 物理的効果のデータベース

 この方法の設計プロセスはきれいに整理されています。全体が幾つかのステップに区分され、それぞれのステップに一定の作業プランが設定されています。各ステップの作業成果はその段階で考えられる方策案の集合で、その中から別途設定する判定基準を適用して良い案を選びます。選ばれた案が次のステップでの検討対象となります。もっとも大括りにした場合、この設計プロセスは次の3つの部分に分けることができるます:

  • 機能の総合
  • 質的な総合
  • 量的な総合

{シンセシスを総合と訳しました。既存の知識から新しい知識を作り出すことを意味します}

 より詳細な区分は図5に示されています。

図5.コッラーの製品作りプロセス
図5.コッラーの製品作りプロセス

 作者のコッラーは製品設計の手順を物理アルゴリズム設計法と名付けました。ここに示されたステップそれぞれについて、それを進める上でのルールとテクニックが開発されていることを承知しておいてください。このプロセスの各ステップの説明の中でコッラーはそれらの完全性ということに触れています。完全性とはそのステップの進め方に関するガイダンスの完璧さの程度あるいはアルゴリズムとしての厳密性の程度を示すものです。図5に各ステップの完全性として記入されている数値は1970年代末の状態を意味します。

 物理アルゴリズム設計法の基本的な目的は提起された問題に関して、具体的な条件のもとで最善の解決策を選択するために、できるだけ多数の案を得ることです。このため、分析対象の製品の実際の設計を完全に抽象化し、その製品が果たすことになる機能に注意を集中します。コッラーは全ての製品を次の3つのグループに分類します:

  • 機械=エネルギーの変換を行うモノ
  • 設備=物質の変換を行うモノ
  • 装置=情報の変換を行うモノ

 検討を行うプロセスは複数のステップに分けられています。

 課題の設定には:

  • 目的の記述
  • 課題の条件{求められる内容}
  • 制約

が含まれます。

 課題の設定から具体的な解決策へと進む道取りの第一歩は開発対象となっているシステムの全体としての機能を定式化することです。ここでいう定式化とは与えられた目的に対応し、前提となっている制約を考慮に入れて、インプット値とアウトプット値の特徴と状態を決めることを指します。システムのインプットとアウトプットの特性値とは達成すべき目的としての機能のことです。システム全体の「原因−結果」の関係(機能)のイメージが得られたら、それを複数の下位機能の様々な組み合わせに変化させ、そこで初めて、個々の下位機能を実現する方法をさがし始めることになります。

 コッラーの方法の重要な特徴となっているのは、ここまでで得られた下位機能の構造を更に個々の要素機能(技術システムの機能分析において、それ以上分解不可能な要素的な機能)に分解する点です。個々の要素機能は、そこで行われる作用とその際に変化させる値によって特徴づけられます。要素機能を特徴付けるインプットとアウトプットの特性値を取り除くと、その要素機能の純粋な操作(pure operation、数学でいう算法)あるいは、コッラーの定義では基本操作 (basic operation) が残ることになります。こうすることで、あらゆる技術システムがもつ多様な機能全てを12種類の基本操作からなる体系に置き換えることが可能になります。なお、全ての基本操作には「順」と「逆」の2つの容態があります(図6参照)。

図6.基本操作と操作マーク
図6.基本操作と操作マーク

 コッラーは基本的な物理操作に加えてよく知られた代数(加算、減算、乗算、除算、累乗、冪根、積分、微分)、論理学(and=論理和、or=論理積、not=否定)の操作も使います。

 一般的には、1つの求められる機能を実現するために考えられる要素機能の組み合わせは数個あります。

 要素機能の構造の検討が済むと個々の基本操作を実現する物理効果とそのキャリヤーを選択する設計フェーズの作業を行います。これらの選択はコッラーが開発した物理効果・現象探索ガイドを使って行います。この探索ガイドは基本操作それぞれに対応する物理効果を体系的に関連付けたものです。この専用データベースは個々の要素機能を実現する方法を検討する際の優れた補助ツールといえます。

 このように、コッラーが提唱した作業手順は(ルールをまもり)方法に従って問題設定から原理的な解決策へと移行することを可能にしてくれます。結果として、設計作業の個々のステップをコンピュータの助けを借りて自動化する議論が現実性を帯びることになります。

物質場分析

 1974年にソ連の研究者(G.S.アルトシューラ、I.B.フリクシュテイン、A.G.シャフマートフ)によって技術的問題を構造のレベルで解決する方法が提唱されました[35]。この方法では、方法としての構造の拠り所として「物質場」という概念が使われています。物質場とは一般化された要素(物質)と関係つまり要素間の相互作用からなる技術システムの最小モデルを意味します。能力を持った最小の技術システムには3つの要素(2つの物質と1つのエネルギー場、あるいは、1つの物質と2つのエネルギー場)が含まれていなくてはならないとされます。

 物質場分析の原理は、課題の条件によって与えられた技術システムを「物質場」の形で捉えて、その物質場を完全な形に作り直す、あるいは、規定のルールに従って変形させることです。

 現在、物質場分析の考え方を更に発展させて技術システムの進化過程にみられる法則性を解明する研究が行われています。

対象に内在する論理に基づいてアイデア探索を行う各種の方法

バルチーニ法

ソ連の航空技術者R.L.バルチーニは1930年代に現在ソ連で広く用いられている手順に従った思考法の論理的先行者となる方法を開発しました。この方法の基礎となっているのは開発中の技術システムと矛盾の弁証論的解決についての機能モデルの理念です[36]

 バルチーニは実際の設計で使う素材や力(エネルギー)についての制約が無いとしたときに何が求められているのかというところから考え始めるように推奨しました。バルチーニによれば制約を取り払うということはどんなニーズにも応えられる特性を持った素材があり、求められる箇所でどんな種類のエネルギーをどんな量でも使えると想定せよということです。

 何かを開発しようとしている人の課題はそこで作るシステム{モノ}の目的は何なのか、そのシステムの機能(役割)は何なのかを理解することです。バルチーニは最高の飛行機は飛行中に格納庫の中にあって、それでも飛行機としての機能ははたされている、そういった飛行機だとしています。目的と求められる機能がはっきりしたら、次に当初の状態でその機能の実現を妨げているものは何なのかを明らかにしなくてはなりません。バルチーニはこれについて以下のように書いています:

「課題を解決する際には相互に強く結びついた一連の事実をできるだけ簡潔な形で把握し、副次的な要因を取り払って、検討している問題で主な役割をはたしている諸要因は何なのかを明らかにしなくてはなりません。それが済んだら課題の解決を妨げている『あれか、それとも、これか』というジレンマの中でも最も際立った対立関係を取り出します。課題の解決策は対立を『ああでもあるし、こうでもある』という等式関係に捉え直しその論理的脈絡の形でさがすのでなくてはなりません。」[36, p.113]

バルチーニが提唱したアプローチは現在ARIZ(技術難問解決アルゴリズム)、新技術開発のための一般解決手順、新技術開発複合法など、我が国の一連の方法として現実のものになっています。

ARIZ

  1. 1.課題の確認
    1. 1.1.最終目的の明確化
    2. 1.2.他の問題を解決することでその目的を「迂回的」に解決する可能性の有無確認
    3. 1.3.どちら(当初の課題か、迂回的なものか)の課題を解決することがより効果的か判定
    4. 1.4.求められる特性値の明確化(速度、寸法、精度、生産性、即応性、など)
    5. 1.5.具体的な状況におけるニーズの確認
  2. 2.分析段階
    1. 2.1.最も理想的なケースとして何が得られれば良いのか?
    2. 2.2.理想的な最終結果を得ることを妨げているのは何かの確認
    3. 2.3.なぜ妨げているのか
    4. 2.4.どのような条件があれば障害が取り除かれるのかの確認
  3. 3.操作段階
    1. 3.1.対象物の特性値を変化させることによって技術的な矛盾を取り除くことができないか検証(標準的解法による課題解決)
      1. 3.1.1.数量的な変化
      2. 3.1.2.対象物の稼働条件の変更
      3. 3.1.3.分割
      4. 3.1.4.組み合わせ
      5. 3.1.5.相殺
      6. 3.1.6.逆転
      7. 3.1.7.柔軟化
    2. 3.2.環境あるいは他の物体の変化を検証
    3. 3.3.他の技術分野のアイデアの移植
    4. 3.4.逆向きの解決策の適用
    5. 3.5.自然の中の「原型」の応用
  4. 4.合成段階
    1. 4.1.対象物の一部分を変化させた時に、全体はどう変化するか、さらに他の部分はどう変化するかを特定
    2. 4.2.対象物が他のものと一緒になってどのようにはたらくかを特定
    3. 4.3.{問題を解決した結果}変化したモノを新しい使い方で使うことはできないか確認
    4. 4.4.ここまでで発見された技術アイデア(あるいは、その裏返しのアイデア)を他の問題を解決するために活用

この方法は大勢の研究者が絶え間なく改良研究を続けているため{現在の}ARIZの中には上記と異なる新しいステップや情報集さらに一段と強力になった方法が出現しています。しかし、ARIZの最も大切な構成要素は従来と変わらず「理想的な機械」およびそれに基づく「理想的な最終結果」(IFR) 並びに矛盾(技術的矛盾および物理的矛盾)の理念です。 ARIZの最新バージョンは使い方のルールを備えた数十のオペレータから成り立っています[35]

 その主なステップは以下の通りです。

ARIZ85
  1. 1部 出発点となる状況の分析
  2. 2部 問題の分析
  3. 3部 問題モデルの分析
  4. 4部 物理的矛盾の解決
  5. 5部 物理的矛盾を解消する方法の分析
  6. 6部 得られた答えの更なる展開
  7. 7部 解決策に至る過程の分析

 この方法の一部として次の情報集が開発されています。

  • 技術的矛盾を除去する方法集
  • 問題モデルにおける対立関係の主な種類
  • 物理的効果と現象;発明問題解決の標準

 ARIZはこれから作ろうとするモノのプロトタイプが既に有って、そのプロトタイプの欠陥を明らかにすることができる問題と取り組むための方法です。

新技術開発のための一般解決手順

 これは1976年にA.I.ポロビンキンをリーダーとする研究者のグループが開発した方法で、手持ちの情報を加工して解決策にたどり着きやすくする目的を持った手順に従う一連の指示からなっています[37]。ポロビンキンたちは当初はこの方法をコンピュータソフトウェア化が可能な完璧なアルゴリズムをもった方法の基盤と考えていました。そうしたソフトウェアは今日まで実現していません。「新技術開発のための一般解決手順」のフローチャートは次の7ステップからなっています。

  1. 予備的な課題設定
  2. 課題の検討と分析
  3. 設定した課題の正確化と詳細化
  4. アイデア、方策、作用の物理的原理の探索
  5. 最善の技術的手段の選択
  6. 選択した技術的手段の仕上げ(改良)
  7. 選択した技術的手段の技術的・経済的諸指標の分析とその導入結果の予測評価

各ステップには多数 (6–16) のより具体的な手順が含まれています。これ等の手順は原則として助言の形になっています。(例:「ステップ4.6.探している未知の技術的手段を現在使われている既知の技術あるいはかつて使われ今は使われなくなった技術に置き換えてみてください」)この方法にはこうした手順の他に情報集が含まれています。

新技術開発複合法

 B.I.ゴルドフスキーとY.N.シェロムコのリーダーシップの下1978年にゴーリキー市で「新技術開発複合法」が作られました[38]。この方法は設計プロセスの全サイクルの管理体制を整備しようとするプロジェクトの成果として得られたものです。方法の概略プロセスを表したフローチャートを図7に示します。

図7.新技術開発複合法 概略フローチャート
図7.新技術開発複合法 概略フローチャート

 この全体構想にのっとって当時知られていた各種の思考支援オペレータをまとめて含む方法が作られました。この方法の特徴は主な思考支援オペレータが基づいている理論的条件を徹底的に消化吸収していること、システムの構想をまとめそれをさらに改良する作業を特徴付ける2つの流れをもっていること、および物理的矛盾から具体的な技術方策へと移行してゆく手順です。

 システムアプローチもこの方法の枠内で新しい発展を見ました。例えば、技術方策の探索については次の考え方が前提とされています。

  1. あらゆる技術品は技術システムとみなすことができる。つまり、それは空間・時間中に合法則的に組織化され相互に結合した諸要素からなる人工的統一体であり、それが持つ機能の目的はなんらかの社会的ニーズを実現することである。
  2. 新しく作られた技術システムの組成と構造は求められる(対外的および内部的)機能を満足させるというニーズ並びにその技術品の類としての発展の方向性によって規定される。
  3. 人工的技術システムには次のニーズが提起されている:
    1. 技術的ニーズ。システム内部の関係および他の技術品(システムが加工対象とするワークを含む)との間の関係を反映する
    2. 社会的ニーズ。社会的、人間的環境との結びつきや関係を反映する
    3. エコロギー的ニーズ。自然環境との関係を反映する
  4. 上記各グループのニーズはそれぞれの間に相互関係を持つニーズ・システムとなっている
  5. 技術システムがニーズを満足させる可能性はそのシステムへのインプットとそこからのアウトプットの組成およびそれらの間の相互関係に依存する。中でも、機能を主とする技術システムのアウトプットはそのシステムの「能力」を規定する。機能はシステムが何をすることができるかを示す。その他の「能力」はシステムにできるそのことの特徴を規定する。システムの個々の機能は下位システムのどれかに対応している。
  6. システムの主要有益機能 (MUF) は技術システムの用途と社会的ニーズに対応する。MUFの実現に必要十分な「能力」は有益である。
  7. システムに求められているニーズに基づいて同様のニーズを下位システムごと、システムの要素ごとに振り当てることができる。その際、どこにどの具体的なニーズを対応させるかは個々の下位システムや要素の特性による。
  8. 技術システムからなんらかの部分(下位システムあるいは要素)を取り除くとシステムの残りの部分への影響を考慮して必要な連環が取り除かれることになる。
  9. あらゆる技術的方策はなんらかの技術システムを示唆している。
  10. あらゆる問題はそれより容易な一群の問題のシステムとして捉えることができる。
  11. 技術開発のプロセスは一連の知的操作のシステムとして捉えることができる。ゴーリキーで開発された方法は、膨大でかつ学ぶのが難しいが、最適な設計作業システム作りの過程での一歩前進といえる。

問題のあり方に沿った各種の方法

マチェットのファンダメンタル・デザイン・メソッド

 この方法はイギリスのエドワード・マチェットによって開発されたものです。マチェットは1960年からブリストル(マチェット校)で自らこの方法を教え始めました。この方法は設計技術者に自分の考え方を理解し自分をコントロールして、自分の取り組んでいるプロジェクトの状況の全ての側面により正確に対応した考え方をするように教えることを基本的な目的としています[39, 40]。これを行うために次の手法が用いられます:

  • 「思考態勢」(戦略スキーム、平行平面、複数の視点、「イメージ」、基本的要素を使って考える) を適用する
  • 「思考について思考する」ことを可能にする言語の開発
  • 創造的空想を呼び覚ますために批判能力を抑制する
  • プロジェクトの個々のステップにおける自己コントロールと自分の気分の制御

 ファンダメンタル・デザイン・メソッドは基本的な力点を設計技術者個人の経験、直感、思考能力に置き、不明確な点を減らすために科学的な研究やテストを行うことは想定していません。しかし他方で、この方法では広範に情報検索を使用します。

 この方法には次の段階があります:

  • 設計(多次元的状況におけるコンフリクトの解明と解消)は技術進化の歴史に観察される法則性を考慮して行われますが、これによって先進的な意匠や構造を思弁的な手段によって得ることができます。
  • 方法の学習過程でこれ以外のより実践的で単純な設計法も紹介されます。

 この方法では合理的思考法の要素(チェックリスト、アイデア探しや思考の図式化など)も重視しています。エドワード・マチェットは自分が行っている問題解決のプロセスを第3者として眺められることが極めて重要だとしています。これによってアイデア探索の戦略をタイムリーに修正することが可能になります。この方法を教える教育上の基本原則は学習者がすでに身につけている方法から始め、結果として信頼を置くまでに至らないおそれがあり、難しいと感じた途端に拒否する可能性のある全く新しい方法を押し付けることを避けることです。

 ファンダメンタル・デザイン・メソッドは、種々の理由から、開発者の指導がなければ完全に習得することはできませんが、個々の部分は様々なレベルの技術システムの開発や設計に携わっている技術者にとって興味深いものと言えます。

心理知的活動ガイド

 この方法は1970年代にV.V.チャフチャニーゼの指導の下ジョージアで開発されたもので、様々なタイプの創造的課題(技術開発、科学研究、組織上の問題など)の解決を目的とした課題タイプ別に使用順序に並べたオペレータセット集と言えます[41]

 この方法はチームワークで使うことを想定してリーダー、専門家、一般メンバーなどメンバーごとの役割が定められています。この方法を用いた作業手順は厳格に定められているため方法開発者はこの方法は「人間機械」のシステムで使うことができるとまで言っています。

 この方法は内容が複雑なうえ実際のプロジェクトに対応した仕上げがほとんど行われていないため現在に至るまで広く活用されることにはなっていません。

体系的ヒューリスティック法

 この方法はP.コッホとI.ミューラーをリーダーとする大人数のグループによって東ドイツで開発されたものです。内容は技術開発の各段階の作業を軽減してくれるヒューリスティック・プログラムの体系的集成です[42]

ここでいうヒューリスティック・プログラムとは開発技術者のための指針集の形になっている指示事項のリストを指すもので、これに従うことを通じて技術者は必要な情報を合理的に入手しそれを適切に消化することになります。このプログラムは企画及び設計の際に使うことが想定されています。

 ヒューリスティック・プログラムの体系は階層的に構成されています。体系全体はピラミッド状になっていて頂点には先導プログラムがあり、次に概略ワーキング・プログラムがあり、更にプログラム・プールがあります。プログラム・ライブラリーはいわばカセット方式になっていて特定のタイプの課題に対してそれに対応するプログラムを{プログラム・プールの中から取り出して}カセットの指定位置にはめ込む形で個別のプロジェクトに対処する個別プログラムの体系を作るようになっています(表参照)。

プログラム・ライブラリー
A課題設定Bシンボル、シンボル体系C法則性の表現DモデルEモデル案 (一般的な課題)F思考過程
A1課題の特定B1名称の形成C1形成D1形成 (作成)E1特定F1推論
A2課題の正確化B2検証C2検証D2解釈E2方策採用の影響評価F2加工
B3正確化C3正確化D3変更E3調整 (調和)F3発見
B4層別D4検証

 実際の作業でどのプログラムを使うかの選択は専用のアルゴリズムに従って行います。

 体系的ヒューリスティック法は相当に複雑ですが問題のあり方に沿った方法の中でも最も進化したもの、言い換えれば具体的な課題ごとによく対応しているものの1つとして大いに興味深いものと言えます。

 各種プログラムの改良作業は現在{1988年}も続いています。ワーキング・プログラム、サブ・プログラムの数が増え、そこに盛り込まれた指示の内容も改良されています。幾つかのプログラム、例えば概略プログラムA1の内容は実践的な関心を惹きつけます。具体的には次のようになっています。

A1. 課題の特定
  1. A1.1. 評価対象である機能のフローの分析
  2. A1.2. 方向性の検討
  3. A1.3. 課題の設定
    1. A1.3.1. 構造の変更
    2. A1.3.2. 検討領域
    3. A1.3.3. 課題設定の分析
  4. A1.4. 課題の構築

 次にワーキング・プログラムの一例を紹介します。

プログラムD11技術モデルの作成

確認後の課題のデータ
(モデル化の必要性の判定)

  1. モデル作成の目的を明らかにする
  2. 対象の当初の状況の分析を行い、主な特性全てをリストアップする。プログラムD1/2あるいはA1 11を適用する
  3. 見つけた特性を目的との関係で評価してモデルに反映する特徴はどれか決める。プログラムE21を適用する
  4. 明らかになった目的に対応してモデルをどのように加工する必要があるか、それをどのような形で実現することができるか判断する。プログラムD11 14を適用する
  5. ふさわしい既存のモデルがないか確認する
  6. 現在の用途にふさわしいモデル案を選択する。プログラム・プールのEの列のプログラムを適用する
  7. モデル案を作る
  8. 当初のモデルと6で選択されたモデルとの中間で実現可能なモデルタイプを決定する。プログラムD11 6を適用する
  9. 選択したモデルタイプが十分なものか否か検証する
  10. 実現可能なモデルを作成する

問題に対応した設計法

 A.V.クドゥリャフツェフは1983年に問題に対応した技術開発アイデア発見法を提唱しました[43]。様々なアイデア発見法が使用されている様子を分析した結果、個々の問題の具体的な状況に直面してその状況に最も適したアイデア発見法を選択しようとする問題解決のやり方は、一連の理由から現代のアプローチとしては最善とは言えないことが明らかになりました。理由の中で重要なのは様々な方法を広く検討するのに大きな労力を要すること、作業が退屈なこと、ある方法から次の方法へと移行することに困難を伴うこと、心理的状況や技能の違いから問題に取り組んでいるメンバー全てを同じように集中させるのが難しいことです。

 これらの理由からアイデア発見作業の運営法に新しい原則を導入する必要が生まれました。クドゥリャフツェフの方法の特色はアイデア発見の手順を具体的問題や問題解決に取り組む具体的な人々の特性に基づいて新たに作るという点です。

 クドゥリャフツェフが提唱する方法では、問題解決プロセスの性格を次の2つの「変数」によって特徴づけます:

  1. 分析対象は問題解決の過程で常に不変ではない
  2. 同一の対象について作業過程で明らかにしようとする目標が常に変化する

 したがって問題解決プロセスは、一般的にいえば、対象も異なり当座の作業目標も異なる様々なタイプの多数のステップからなります。このため、各ステップで最適な作業を行うためには、問題解決作業もそのステップに最適に合致した小さな要素に分割しなければなりません。

 この方法によって合理的なオペレータの体系をつくり、また、それを使って様々な作業手順をまとめるためのルールを開発することが可能になりました。オペレータの体系は既存の種々の新技術開発アイデア探索法に範を得たオペレータと特に開発したオペレータとから成り立っています。個々のオペレータをどこで用いるかは具体的な検討作業において何を対象として作業を行っているのか、また作業の目的は何なのかという2つの特性によって一義的に決まります。このため、アイデア探索作業に用いる全てのオペレータを1つの表にすることができます。

 この表の縦横の欄は次のようになっています:

  • 縦=アイデア探索をする対象のタイプ
  • 横=問題解決のために行う検討作業のタイプ

 検討作業のタイプの区分基準は研究における弁証法の原理体系(反射、能動性、全面性、演繹と帰納の一致、決定論、質的特徴と量的特徴の相関性、歴史主義、弁証論的否定、抽象から具体への上昇、論理と歴史の一致、分析と総合の一致)に基づいて行いました。オペレータの体系化も同様に行いましたが、この体系は方法的機能のみでなく方法論的機能も持っています。つまり、この体系によって将来の新しいオペレータを特徴づけることができるため、今後登場するオペレータを予測することができます。

 この概論で検討した技術開発のためのアイデア発想の各方法はこの目的で使われている数多くの手段の多様性の全てをカバーしているわけではありません。現在こうした方法の数は数百という数に上り更に増え続けています。それぞれの方法が異なるタイプの問題を想定し、様々な創造経験をもった技術者、それも技術的創造活動の性格として時には対極的でさえある異質な状況に置かれた技術者によって開発されています。といっても、ここで検討されてきた方法が価値を持っていることは明らかであり、これらは新技術開発という創造活動のなかで方法を求める際に広範な選択肢を提供してくれています。

参考文献:

訳注:カッコをつけずに日本語で表記されているものは日本語訳が出版されている著作です。また、リンク付きの著作は日本語訳はないものの英文の原著が現在も入手可能です。( )をつけたものは日本語訳などが見当たらない著作の書誌の日本語訳、{ }内は訳者による補足です。

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原文
Обзор методов создания новых технических решении.
Госкомитет СССР по делам изобретений и открытий.
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