ここに挙げるA.S.トカレフの資料はアルトシューラによる40の発明原理を単一の課題に対してそれぞれどのように適用することができるかを示しています。ここでは駐車場を降雪の障害から守る課題が取り上げられていますが、もちろん、紹介されている例によって現実の問題を解決できるとしているわけではありません。これらの例はなにより発明原理がどのような思考操作を示唆しているのかを示す説明として興味深いと言えます。アルトシューラが40の方法のリストを発表して以来今日までの長い間にこのツールの実践的な使い方については一定の経験が積み重ねられてきました。その一方で発明原理の学習では、通常、種々の技術分野に取材した限られた数の事例による説明が行われてきました。圧倒的に多くの場合こうした説明用の事例となっている技術開発を行った当の技術者は発明原理を実際に使ったわけではありません。これら2つの要因(説明用の事例の数が限られていることと、実際に発明原理を使って行われた説明用事例の数が極めて少ないこと)は発明原理が実践に役だつ思考法の体系であるという説得を難しくしています。この資料はこの問題に部分的に対処する目的でここに紹介するものです。発明原理の全体像を1つの課題をめぐって説明できることが教師の役にたつものと思います。
{ロシアのTRIZ研究サイト "Методолог" http://www.metodolog.ru の}管理人
{ }内翻訳者。以下同じ。
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(原文:http://www.metodolog.ru/00863/00863.html)
A.S.トカレフ
私立モスクワ技術創造大学
2005/2006期
卒業論文2部
TRIZのツールを適用した課題集
「技術矛盾解消法」(アルトシューラによって提唱されたもの。詳細は http://www.trizstudy.com/altshuller1973.html を参照。{以下通称に従い「発明原理ターム」とします})はTRIZの主要な要素の1つです。発明原理は技術開発上の課題に対する解決策を大量に分析しそれを一般化することによって得られたものです。今日では技術開発のみならずビジネス、広告宣伝の分野でも活用されています。
ここでは以下の問題に関連して発明原理を検討します。
冬期の駐車場は降雪によって車や人の通行が困難になります。
分析的に解決することができるのは課題ですから、方法の適用に先立ってまず問題を課題の形に捉え直す必要があります。問題タームとはそれを問題と捉えた人が持つ否定的な感覚です。一方で課題タームは当初の状況と求められる結果がどのようであるかを含むものです。従って、まず問題解決の方向性をおおまかにでも決めておかなくてはなりません。続いてそれを課題設定の形に具体化することになります。我々のケースでは次のような問題解決の方向が考えられます:
ここでは、この中から3.で触れた既存の手段(これを技術システムタームととらえます)の改良を検討することにします。
降雪に対する対策としてヒサシ{屋根の一種とみなし以下「屋根」とします}を用いることは古くからあることですが、現在の社会ではコストを低く抑えることも考慮に入れる必要があります。ここから新たに、次のより限定された問題を取り出すことができます。「駐車場に屋根をつけて雪が降り込まないようにしようとすると建設コストがかかってしまう。」これは次の管理上の矛盾タームと捉えることができます:
この形ではまだ課題と呼ぶことはできません。出発点となる情報が与えられていませんし、望む結果も特徴付けられていません。この管理上の矛盾を技術的な課題の形にするためには条件を具体的にしなくてはなりません。そのためには解決策の対象あるいは基礎となる技術システムを特定する必要があります。ただし、結果として得られる解決策が現存の技術システムと似通ったものでなくてはいけないわけではありません。
出発点とする技術システムは「柱を立ててそこに屋根をのせたもの」ということにします。
発明原理を適用して解決する対象になる技術的矛盾タームを取り出すには、対象の技術システムにおいて相矛盾する状況を同時に存立させることを求めている技術的なニーズを明らかにしなくてはなりません。技術システムの主機能から「駐車場の床に雪が降らないこと」という1つの技術的ニーズをとりだすことができます。「コストが低いこと」というニーズはそのまま屋根の技術的な仕様を示唆するわけではありませんから技術的ニーズということはできません。ですから「コストが低いこと」というニーズは技術的には何を求めているのかを明らかにして矛盾を取り出さなくてはなりません。私たちのケースで「コストが低いこと」に対応する技術的ニーズをどう捉えるか複数のバリエーションを考えることができます。幾つか検討してみましょう。
屋根のコストは基本的に材料のコストと建設工賃のコストとの和です。通常の建設作業では工賃のコストは材料のコストに比例します。他方で、工賃のコストはまたもや技術的な仕様とは言えませんので、これに基づいて解決策に向かって前進するわけにはいきません。材料のコストはカバーする駐車場の面積、これは発注者が決めることになります、に比例するといえます。次に、柱と屋根という構造に目を向けましょう。屋根の面積も駐車場の面積に比例します。最後に残った技術的仕様としては屋根の厚さ、柱の数と配置、柱の断面積をあげることができます。
ここで特に強調しておくべきことは、これまでにあげてきた特性(例えば、屋根の厚さ)は今後私たちが新しいアイデアを「釣り上げる」ためのいわば「エサ」なのであって、何を選んだかということが課題の解決に決定的な意味を持つというわけではないという点です。どんな特性を選ぶか、それについてどんな技術的ニーズを設定するかによって課題を解決する道筋に様々な可能性が生じますが、どの道筋を通っても解決策までたどり着かなくてはなりません。もしある状況で選んだ「エサ」では現実的なアイデアを「釣り上げる」ことができないとわかったら、別のエサ(例えば、屋根の単位面積当たりの柱の数)、第3のエサとうまくゆくまで選んでゆくことになります。さらに言えば、下に示されることですが、結果として得られる解決策が、当初選んだ諸特性とも、当初の技術システムの構造ともほとんど共通性を持たないことはしばしばあります。
ここでは屋根の厚さという特性を選択することにします。単位面積当たりの屋根の素材のコストを最小限にするには屋根の厚さを最小限にしなくてはなりません。こうして「低コスト」という経済的な基準を「最低限の屋根の厚さ」という技術的な特性に置き換えることができました。
ここまでくると技術的矛盾を定式に沿って次のように規定することができます:
こうして、{矛盾解決の鍵となる}対立関係にある対タームを取り出すことができました。このうち技術システムに含まれるものは屋根だけですから、課題を達成する過程で変化させるものは基本的にはこの屋根ということになります。(ケースによっては、発明原理を適用する対象を「雪」とすることもありえます。この場合には、雪そのものが厚く積もった雪の有害な影響と戦う我々の目的を達成するための資源であるととらえるわけです。)
注意深い読者はお気付きのことと思いますが、ここまで検討してきた中には屋根の有益な機能に関連する矛盾の要素である相互に対立する特性の対がもう1つあります。それは、雪を通さないことと雪の重みを支えることとです。この2つは同じことのように見えますが次の違いがあります。「雪の重みを支えること」は雪が屋根の上に積み重なって常に屋根の上に在ることを想定しています。「雪を通さないこと」はこれより広い意味をもち、駐車場を守る屋根の機能を正確に述べている以外には雪がどうする、どうなるということについて予め何も規定していません。つまり、雪を支えることについては触れていません。屋根の厚さを必要にしているのは通常のやりかただと支えなければならない雪の重さだということを考慮すると「雪の重さを支えること」が矛盾の焦点になっていることがわかります。「雪の重さを支えること」を度外視すれば、屋根を厚くして頑丈さを増やす理由は見つからなくなります。
以下、上の課題の解決を目的として発明原理を使う例を、発明原理ごとにすべて取り上げてゆきます。
以下の例は次のようになっています。
発明原理の名前と内容はアルトシューラによるもの(http://www.trizstudy.com/altshuller1973.html)です。アルトシューラは発明原理の適用の仕方についてコメントしていませんので思考法を扱った他の方法に関する著作(ヘーフェレのメモ帳法 http://www.trizstudy.com/aboutobzor.html#haefele)からとって用いました。注釈をつけておかなくてはなりませんが、以下に挙げる発明原理の適用の仕方、いわんやそこから得られた解決策アイデアは唯一可能な考え方というわけでなくたんに1つの例でしかありません。現実のケースで発明原理を適用して得られる考え方は経験、知見、空想、資源をみるものの見方、状況の特性、その他の使う人の心の中で生じる様々なプロセスによって左右されます。
屋根を数多くの小さな部分に分けて一つづつ専用の柱に乗せます。柱が雪の重さを支えてくれるので屋根は薄くできます。
駐車場の屋根を小さな屋根に分割してそれぞれ専用の支柱で支えるようにします。このアイデアを採用すると、支柱の数が非常に多くなる問題が直ちに生じますからこのアイデアは中間的なアイデアに過ぎません。
障害となっているのは屋根の厚さです。厚さが必要なのは屋根に曲げの負荷がかかり材料にかかる応力が大きくなるからです。もし負荷を張力だけにできれば応力はずっと小さくなります。
建物あるいは支柱に固定した数多くの細いワイヤーによって屋根を吊り下げます。
屋根には雪を通さないことと雪の重さを支えることとの2つの機能がありますから、その2つをそれぞれの機能に特化した別々の要素に振り当てます。
屋根を2つの層から作り1つの層は雪を通さない機能を、2つ目は重量を支える機能をもつようにします。
当初の技術システムは支柱の上に載った平面です。平面を斜めにすることによって非対称にすることができます。
屋根を斜めに傾けます。これによって屋根の単位面積当たりの荷重を小さくします。また、傾けることによって雪は屋根の上に積み重ならずに滑り落ち、これも荷重を小さくします。
隣り合った屋根を組み合わせて一体化し、これによって支柱の数を減らし、また、屋根を強固にします。
屋根全体を一体構造にし、利用できるものはなんでも(建物、建物の柱、キオスクなど)使って支柱の代わりにします。
屋根が{本来の機能に}追加して他の機能を持つようにします。例えば、床の機能。
駐車場の上に階を追加してオフィスや倉庫として利用します。
屋根をもうひとつ別の屋根の中に入れます。
陸橋、橋、建物の床下など既存の構造物の下に駐車場を作る。あるいは地下に作ります。
雪そのものあるいは屋根を何か揚力を持った持ったものと一体化させることによって雪の重さを相殺します。
屋根を雪の重さを支える気球あるいは飛行船に結びつけます。
使われている状態でかかる力に反対向きの力を屋根の中に作り込むように考えなくてはなりません。
屋根を複数の層から作ってその構造の中に屋根が使われている状態で雪の重さで生じる荷重に対抗する事前の応力を作りこんでおきます。
屋根の中に事前の応力を作りこんでおいてその力を使って積もった雪を跳ね飛ばすことができるようにします。
屋根をスプリングの力でピンと張る帆布(折りたたみ式ベットやトランポリンの要領)で作っておきます。雪が降る前に帆布の屋根の中央部分をロープで引いて床に固定しておきます。雪が積もったらロープの固定を解放します。スプリングの力で帆布の屋根が跳ね上がって雪を投げとばします。
降ってくる雪の量を前もって減らしておきます。
大きな扇風機を使って降ってゆる雪を駐車場の外に吹き飛ばします。
屋根の信頼性が低いということは屋根が壊れることを意味します。従って、屋根が壊れた場合に起きる結果に予め対策を講じておきます。
屋根は平均的な負荷を想定して作っておいて、壊れた場合に備えて屋根の層をもうひとつ作っておきます。
雪が屋根の上に降らないように、雪が雲から離れないようにします。
雪雲をなくしてしまいます。あるいは、雪は他のところに降るようにします。
雪と屋根とがつくるシステムを逆にします。雪が屋根を支えるようにします。
屋根を網状の構造にしてその網から密度を詰めて大量の糸を吊り下げておきます。雪は糸に張り付き、次いで雪の粒同士がくっついて自動的に下に落ちなくなります。
平面の屋根を変えて曲面屋根にします。
屋根を半球あるいはシリンダを2つに割った形のキューポラにします。これによって屋根の単位面積当たりの荷重が小さくなります。同時に雪が屋根から落ちやすくなります。
屋根が回転するようにします。
回転するディスクの形の屋根にします。回転による遠心力によって屋根から雪がふるい落とされるので屋根の荷重は小さくなります。同時に回転する力によって屋根に引っ張りの応力がかかるため、それが雪の重さによる荷重に対抗してくれます。
屋根が動くようにします。
屋根を水平に移動するコンベアベルトにします。雪が降り始めたらコンベアベルトを動かし始めます。屋根に乗った雪は一方の端で下に落として処理します。
「ちょっと少なめ」ということは屋根は降った雪全ての重さを支えなくても良いようにするということを意味します。
たくさん隙間が空いた屋根にします。これによって材料を節約することができます。屋根から少し雪が落ちるだけなら駐車場内の車の走行に深刻な問題は生じませんし、{路面に落ちた雪は}タイヤの圧力や排気ガスの熱で溶けてしまいます。
屋根を単一平面の層だけでなく上下に重なった複数の層から作ります。
屋根を複数の層のネットとします。上下に重なるネットとネットとの間には少し距離をおきます。ネットの網目は上の方が粗く下に行くほど細かくします。降った雪は上のネットから少しずつ下に降りて行きます。こうして雪の重さは縦に重なったネットそれぞれに分散してかかるので1つの層あたりの荷重が小さくなります。
屋根に振動する動きを加えます。
屋根が上下に振動するようにします。振動の動的な力が雪の重さを支えてくれます。また、これに加えて屋根を少し傾けておけば雪は少しずつ滑り落ちて行きます。
屋根が雪の重さを一時的に支え、また、一時的に支えないようにします。屋根の上の雪は定期的に取り除かれます。定期的に清掃をおこなう装置を屋根の上に設置しなくてはなりません。
屋根の上に気体で膨らませるクッションを設置して、定期的に急激にガスを吹き込みます。急激に膨らんだクッションが雪を跳ね飛ばし屋根の上を軽くします。
この発明原理に従えば屋根は常に最大荷重を受けていなくてはなりません。しかし雪は時々降るものですからこの発明原理の考え方では荷重を追加しなくてはならないことになります。例えば、他の場所の雪を持ってきて載せることにすれば屋根を厚くすることの妥当性が生まれます。
厚い屋根を作って雪の置き場にします。他の箇所の雪を持ってきて積み上げます。
有害な作用は雪が屋根に荷重をかけることですから、雪をすばやく屋根から下さなくてはなりません。雪下ろしの作業は大変で場合によっては危険です。雪下ろしの作業を極めて早く行うことに着目して、屋根の雪を定期的に取り除きます。
駐車場の屋根を開閉式にしておきます。駐車場の一部を順番に駐車禁止にしてその上の屋根を開いて雪を一気に床におとします。おとした雪は道路の雪を清掃する装置あるいはベルトコンベアで移動して融雪ステーションに運びます。
有害な要因は雪です。それを強くするということは雪の量を増やすことです。雪の量を増やして地面に届くまでにすれば雪が自分で自分の重さを支えることになります。
円柱を逆さにして頂点を地面につけた形の屋根を作ります。円柱の中に溜まった雪は部分的に上の雪の荷重を支えることになります。
私たちのケースでフィードバックを考えたい関係として次のものがあります:「雪の量が多ければ多いだけ屋根の厚さは厚くしなくてはならない、あるいは、雪の量が多ければ多いだけ雪を早く取り除かなくてはならない。」以前に得られた傾いた屋根のアイデアを変形します。
雪の量が多くなるとその荷重で屋根の傾きが大きくなるようにします。
屋根が雪の荷重を支えるのを助けてくれるものと一時的に一体化させます。
屋根の上に大量の雪が積もった時に一時的に支柱を追加して屋根を支えさせます。屋根の上の雪を取り除いたら支柱は取り去ります。
屋根が自分で自分にサービスを提供しなくてはなりません。屋根は(課題の条件により)雪を通しませんから、提供しなくてはならないサービスとは雪を取り除くことになります。屋根から雪を取り除く仕組みを屋根につけなくてはなりません。できれば、雪そのものを利用してそれができることが望まれます。
バネでできた板をウロコ状に並べて屋根を作ります。ウロコの上に雪が積もるにつれてバネが曲がって反発力が蓄積されます。限界に達するとバネが伸びて上に載った雪を屋根の外に跳ね飛ばします。
屋根の光学的コピーはホログラムです。ホログラムにはレーザー光を使います。レーザー光が十分に大きければそのようなレーザー光線の屋根が自分で雪を溶かしてしまいます。
レーザー光線を照射して水平に「屋根」を作ります。レーザー光の出力を十分に大きくして降ってくる雪が溶けてしまうようにします。
屋根を一回限りの屋根にします。雪が降るごとに使い捨てとします。
屋根の表面を絨毯のようにしてその上に雪が降るようにします。雪が降ったら絨毯を巻き取って融雪ステーションに持って行って溶かすか、暖かい季節までそのまま保管します。絨毯を巻き取った後には別の絨毯を敷きます。
雪の荷重を支える力として静電気あるいは磁気の力を使います。
屋根に降る前の雪を静電気で帯電させるかあるいは磁気を帯びさせるようにして、静電気あるいは磁力によって雪の重さを支える、あるいは、降ってくる軌道を変化させます。
気体などで膨らませる構造を屋根に組み込みます。
気体で膨らませるクッションのようなものによって屋根を作ります。この場合、雪の重さは基本的に気体が支えることになる一方、クッションの素材の膜にかかる荷重は張力のみでありかなり小さくなる。訳注1
当初の課題で屋根を厚さを持たない平面と想定したので、この発明原理に真っ向から取り組んでも新しいことは出てきません。したがって、状況を少し別の角度から捉えます。膜というのは必ずしも一体となった物質の膜ではなく、空気の膜と捉えることも可能です。
屋根の表面全体にわたって空気を吹き出すノズルを設置します。雪はノズルから吹き出す空気の層の上に乗ることになり、さらに、ノズルの方向や屋根に傾きをつければ雪は屋根から横方向に吹き飛ばされます。
屋根は多孔性の構造となっていなくてはなりません。
雪を通さないくらい細かい目でワイヤーネットを編んだものを屋根にします。材料の使用量を減らすことができます。
大粒の穴をもった多孔性の軽い素材で屋根を作ります。穴に入り込んだ雪が固まってがっしりとした構造体になります。
屋根あるいは雪の色を変えます。
降った雪に黒いインクをかけます。これによって日光の熱で雪の溶ける速度が早くなります。
屋根を雪で作らなくてはなりません。
氷あるいはその冬初めて降った雪を使って屋根を作ります。あるいは、前もって屋根に製氷装置をつけておきます。
屋根は雪が駐車場の雪に落ちないようにするという自分の機能を終えたら無くなってしまわなくてはなりません。ということは、屋根は雪と一緒に無くなってしまうことになります。この状況は連続的な流れを想起させます。
傾いた屋根の上を暖かい水が流れるようにします。流れている水の上に降ってきた雪は水と一緒に流れていってしまいます。
雪の集合状態を変化させます。
屋根を温めてその上に積もった雪に熱を伝えます。雪は水に変わって自分で流れ落ちてしまいますので屋根にかかる荷重が小さくなります。
長い間積もっている雪は徐々に硬く壊れにくくなります。屋根の強度を高めるためにこの現象を利用します。
厚いアーチ形状の屋根を作り、上側には放射状の溝をつけておきます。降った雪は溝に入り込み、幾何学的な中心に近づくに従って強く圧縮されて外部からかかる圧縮荷重に耐えられるようになります。
屋根の素材の熱膨張を屋根にかかる荷重の平均化に利用します。
熱膨張係数の異なる2つの素材を使って屋根を2層に作ります。雪が降ると屋根の表面付近の温度分布が変化します。使われている素材の熱膨張係数に差があるため、温度分布の変化は屋根全体に応力を生じさせます。この応力を雪の重さに対抗する力として利用します。
この発明原理の主な目的は生じているプロセスの強さを増すことです。
雪が溶けるプロセスを強めます。
屋根の表面に雪を溶かすあるいは液状にする作用を持った化学品を供給します。
「不活性」とは反応を起こさないということです。従って雪が屋根と反応しないようにしなくてはなりません。例えば、雪が屋根に全くあるいはほとんど張り付かないようにする、あるいは雪の比重を極めて小さくするなどが考えられます。雪を蒸気に変化させればこれが可能になります。
雪が降ってきて屋根に触れたとたんに熱ヒーターあるいはマイクロ波発生装置によって蒸気に変化させます。
これまでに紹介したアイデアは基本的に2つのグループに分類することができます:
です。初めの段階で「雪を担うこと」と課題としていたら、2番目のグループの多くのアイデアは有効性が期待されるにもかかわらず得られなかっただろうという点に注意してください。
全ての発明原理が同じように有効な解決策アイデアに結びついたわけではなく、また幾つかの発明原理からは似通ったアイデアが生まれたことをはっきりと見てとることができます。発明原理を使った作業を最適化するために「技術的矛盾除去方法の適用表」{以下、一般的に用いられている「矛盾表」とします}が作られ、実際の矛盾を解決するためには全ての発明原理を使うのでなく特定のものだけを使うことが推奨されています。
矛盾表の助けを借りて発明原理を選ぶには、改良したい特性とその結果悪化してしまう特性という2つの特性を選ぶ必要があります。私たちもこれをすることとして、初めに規定しておいた技術的矛盾を思い出しましょう:
ところが、アルトシューラの矛盾表の特性選択肢には「厚さ」とか「コスト」といった用語はありません。従って、検討している技術的な課題の性格を踏まえて、こうした用語の適切な代替となる特性を見つけなくてはなりません。すぐに気づくことは{矛盾表の特性のリストの中には}代替となりそうな特性の名前が複数考えられることです。こうした中から2つ検討してみましょう。
事前の分析で明らかになったように「コスト」の代わりとしては屋根に使用する「素材の量」が考えられます。矛盾表にはこの用語も見当たりませんが「動かないモノの体積」という特性があります。屋根を相対的に均一な構造と想定した場合には、素材の密度は一定と想定して、素材の重量を「動かないモノ(屋根)の体積」に置き換えることができます。
用語「厚さ」は一次元の大きさを表す特性ですから「動かないモノの長さ」に置き換えることができるかもしれません。
すると課題の条件によれば「動かないモノの長さ」を変化させなくてはならないが、その結果「動かないモノの体積」が悪化するということになります。矛盾表を使って発明原理を探すと35、8、2、14が推奨されることになります。この発明原理を適用して得られるアイデアは上に示した通りです。
矛盾のうちの「屋根の厚さを薄くするとコストを低くできる、しかし、雪の重さを支えきれず壊れてしまう」という部分を検討しましょう。用語「厚さ」は上と同じに「動かないモノの長さ」に置き換えます。「重さを支える」という用語は「頑丈さ」で代替できるかもしれません。こうして、「動かないモノの長さ」(厚さ)を変えようとすると「頑丈さ」が悪化するとなります。しかし、矛盾表はこの矛盾に対する推奨発明原理を示唆していません訳注3。もう一度、用語を検討しなおさなくてはなりません。
「厚さ」という用語を矛盾表が指定する「何を変化させる必要があるか」という問いに対応させるために読み替え操作を何度か繰り返えすと「動かないモノの体積」で代替させることができそうです。興味深いのは直前の案ではこの用語は「何が悪化するか」の方で現れていたことです。結局、対立する特性のセットとしては「動かないモノの体積」を変えなくてはならないが、その際「頑丈さ」が悪化するとなって、推奨される発明原理は9、14、17、15となります。
ここで推奨されている発明原理には案No.1で推奨されていたものは1つも含まれないことを容易に見てとれます。つまり、課題を矛盾表の用語にどのように対応させるかによって同一の矛盾について全く異なった発明原理が推奨されることがあるということになります。したがって、課題に現れてくる用語を矛盾表で使われている用語に置き換える作業は慎重に行い、間違いなく対応していると言えない場合には、できるだけたくさんのアイデアを得るには考えられる可能性を全て試してみる必要があります。実際には、これをやっていると結局全ての発明原理を検討することになりがちです。
訳注:
1:著者は一般論として曲げの応力よりも引っ張りの応力の方が対策を講じやすいと言いたいのではないかと思われます。
2:この見出しは訳者が追加したものです。
3:原文の著者の思い違いと思われます。矛盾表は発明原理15、14、28、26を推奨しています。よって、発明原理14は案No.1、案No.2に共通して推奨されていることになります。