このページでは、TRIZマスターであり「新しい時代の教育」研究室長としてTRIZの考え方に基づいた教育法の開発・普及を進めているアナトーリー・ギンの文章を、本人の承諾を得て翻訳し、紹介します。
この「TRIZによる教育」は2007年に書かれた文章ですが、アナトーリーの主張が真っ向から書かれている心地よい文章だと思います。
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著:アナトーリー・ギン
TRIZマスター
「新しい時代の教育」研究室長
分析グループ「TRIZ専門家」ディレクター
現代の先進諸国におとずれた新時代はこれまでの工業化の時代と原理的・質的に異なる時代です。この時代では科学・技術情報を筆頭とする優れた情報が主要な商品であり競争上の優位性を決定する要因です。
現在の世界は常に変化し、教科書は出版される以前にすでに陳腐化してしまいます。ハイテク分野では専門知識の価値の半減期は一年半から三年といわれています。こうした新しい時代には学校で一度学んだからといって何らかの職業で一生通用するというわけにはゆきません。ところが、現在の学校は学び直すことを教えていません。生涯を通じて新しいことを身につけようとする持続的な動機とそれを行う能力を子供たちに与えていません。
新しい時代では、どの様な分野でもおよそ成功をおさめたいと思う人は知的、心理的に高い緊張を強いられます。だれもが世界全体を相手とする競争にさらされているため、自己実現が極めて困難です。新しい社会経済関係、地球レベルでの金融の流れや産業生産拠点の急速な再配置の可能性、人口の流動性、これら全てによって必然的に新しい時代に対応した社会的、技術的、生態的観点からする矛盾関係のもつれが発生します。一方で、現在の学校は相も変わらず矛盾に満ちた現実について考えることも、矛盾を解決する方法も教えていません。
平均的な人が受けとる情報の量は破壊的な速度で増加しています。科学、広告、日常生活、技術、専門、政治などなどの様々な情報が流れ込みます。これらに耳をふさぐことができないわけではありません。しかし、それでは情報空間で日々生み出される生活の舞台からあっという間に転げ落ち、他人に操作され、他の人の手の内で動き回ることになってしまいます。にもかかわらず、現在の学校は情報の流れに対処する方法を教えていません。知識を創造的に再加工することも教えていません。しかし、これは当然なことなのです。なぜならば、現在の学校を形作っている諸原理は18世紀の初めに、現在とは質的に異なる工業化時代の問題に対処することを目的として形成されたものだからです。
諸国の文化を牽引しようと志す[1]知的エリートにとっては単に幅広い知識を学び、特定の職業的技能を身につけているというだけでは今や不十分です。新しい時代に必要なのは幅広い学際的な知識を持ち、出来合いの答えの無い(創造的な)課題を解決する能力を持ち、矛盾を解決できる「体系的統合家[2]」なのです。こうしたことを今の学校で教えてもらえるでしょうか。これが、ヨーロッパでもアメリカでもマスコミが書き立てている先進諸国に拡がる教育危機の理由なのです。この危機から脱出すること、これは社会全体にとっての問題であり、単に教育者や教育学の専門家のみの課題ではないのです。
したがって今、教育に新しい内容を取り入れることが求められています。「新しい時代の教育」研究室[3]のメンバーはこの新しい内容の開発に取り組んでいます。この開発作業の方法的基盤となっているのはTRIZです。その理由はTRIZが次の利点を持っていることです。
我々の研究所の考え方の基礎にはTRIZ以外に次の要素が含まれています:
3 「新しい時代の教育」研究室は「新しい時代の教育」法に基づいて設立され、「TRIZ専門家」社とロシアの大企業家であり地主でもあるV.N.バトゥーリン氏より支援を受けています。
4 この予測は2002年夏、A.ギンとS.ファーエルによって行われたものです。この予測結果について数回のセミナーを開催しました。
永年の教育実践と実験に基づいて私たちが得た最も重要な帰結の1つは、子供たちに教えなくてはならないのは専門用語や具体的な職業的技術なのではなく、何よりもまず、一定の思考スタイル[5]であり、未解決の問題を避けず、必要な情報を素早く手に入れてそれを活用する技能だということです。私たちは、実践の経験を通じて、学ぶことを興味深い、生き生きとした自然なものとすることは可能だということを確信しています。それができれば、丸暗記に飽きて学校を嫌うようになる数多くの子供、特に才能豊かな子供を学校で成長させる機会が失なわれることは無くなるでしょう。
「新しい時代の教育」研究室では現在、解答を知識として学ぶのでなく自分で解答を探す問題(これを「オープンタスク」と呼んでいます)に関する理論の構築と、様々な教科に関連した教育用のオープンタスク集を作成する作業が行われています。その最初の成果としての次の書籍が完成しています:
オープンタスクに関する理論には1つの哲学、オープンタスクの「形態学」、そして混合年齢グループにおける教授法とが含まれています。これに関する研究の結果に基づいて「オープンタスク:理論と実践」セミナーを開催しています。
5 私たちはこのような思考スタイルを有効な思考と名付けています。有効性=体系性+創造性と定義しています。