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TRIZの古典

アルトシューラ
「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」(76の標準解)(3/3)

このページではアルトシューラによる1988年の論文「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」を翻訳し掲載します。「標準解」と通称されているものですが、アルトシューラが使ったロシア語の表現にあわせた表題にしました。現在のところクラス5までを掲載しています。残りの部分は翻訳が完了し次第、追加します。

この論文は The Official G.Altshuller foundation の許可に基づいて掲載されたものです。(下記のURLはファウンデーションのサイトにリンクされています。書誌詳細はページ末尾

This paper was published with the permission of the Official G.Altshuller foundation: www.altshuller.ru/world/eng/index.asp.

この論文の著作権は The Official G.Altshuller foundation にあります。

日本語の翻訳の著作権はサイト管理者にあります。

無断転載は禁止いたします。

小さな巨大世界:発明問題解決の標準
(76の標準)

目次

  1. クラス1 物質場システムの構築および分解
  2. クラス2 物質場システムの発展
  3. クラス3 上位システムとミクロレベルへの移行
  4. クラス4 検出と測定に関する標準
  5. クラス5 標準の適用に関する標準
  6. 標準の適用に関する演習課題
  7. 標準体系の使い方

クラス5 標準の使い方についての標準

5.1. 物質の導入についての考え方

 既存の物質場を改良、改造、分解する際に新しい物質の導入が必要になることがしばしばあります。新しい物質の導入には技術的な難しさがともなったり、{複雑になる、コストが高くなるなどして}システムの理想性が下がることがつきものです。従って、新しい物質の導入は「形だけ」にして様々な迂回策を利用しなくてはなりません。

5.1.1. 迂回策

 システムに何らかの物質を導入する必要があるものの、課題の制約からそれが許されない、あるいはシステムの稼働条件によってそれをすることができないときには迂回策を利用しなくてはなりません。

5.1.1.1. 物質の代わりに「からの空間」を利用する

発明者証 No.245425
糸線で作ったメッシュの型に素材を鋳込むことによって、透明の素材でできた型の中にメッシュのある歪みゲージをつくる方法。
特異点:糸線によって応力場が変形することを避けるために型の素材が硬化した後に糸線を取り除いて、ミクロサイズの円筒空間でできた歪みゲージのメッシュを作ります。糸線の素材には、例えば、微細な銅製ワイヤーを使い、後に酸を使って溶かして取り除きます。

5.1.1.2. 物質の代わりにエネルギー作用を導入する

発明者証 No.500464
動いている糸がどの程度伸びているかを計測するために、糸に電荷を与えておいて延長方向の電荷密度の変化を計ります。

5.1.1.3. 内部に追加する代わりに外部に追加する

発明者証 No.360540
多孔性セラミック製の容器の壁の厚さを計るにはどうしますか?容器の中に高い導電性をもつ液体を入れ、液体の中に絶縁抵抗計の電極の一方を、他方の電極を容器の外の任意の箇所に取り付けて抵抗を測定します。

5.1.1.4. 極めて活性の高い添加物をごく少量導入する

発明者証 No.427982
パイプの引き抜き加工の際の鉱物油を基材とする潤滑法。
特異点:塑性変形の生じる箇所での流体力学的圧力を小さくするために潤滑油に重量で0.2から0.8パーセントの{高い弾性を持つ}ポリメタアクリラートを入れておきます。

5.1.1.5. 普通の添加物をごく少量、対象物内の特定の箇所に集中して配置する

(電流が通るようにするために)プラスチックの中に線を作る形に強磁性粒子を配置します。

5.1.1.6. 添加物を一時的に導入する

発明者証 No.458422.
発明者証 No.360116に従って無接触で部品に磁場配向を与える方法。
特異点:中空の部品に磁場配向を与える際にエネルギー消費を節約しながら磁場配向の効果を大きくするために前もって中空部分に強磁性の物体を入れておきます。

5.1.1.7. 物質の代わりに、添加物を導入できるコピー(模型)を利用する

発明者証 No.499577
模型を複数使って多数の断面図を得る方法。
特異点:断面図が3次元的に正確なものとなるように、対象物の透明なモデルを作って中に液体を入れたものを様々な姿勢においた時に得られる、液体の表面の形状をまねて断面図を作ります。

5.1.1.8. 添加物を化合物の形で導入し、後でそこから必要な物質を取り出す

発明者証 No.342761
アンモニア処理による木質のプラスチック化法。
特異点:作業中の摩擦面が確実にプラスチック化するように、摩擦の熱によって分解されてアンモニアを作る物質、例えば(NH4)2CO3{炭酸アンモニウム}を木質表面に含浸させた層を作っておきます。

5.1.1.9. 外部環境内あるいは対象物そのものの中の物質を、例えば電気分解などで、分解あるいは相転移させて添加物をえる

発明者証 No.904956
ガスを含む電解液の中で電気的方法と機械的方法とを併用する表面処理法。
特異点:電解液の中にガスが溶けて副産物が生じるのを避けるために電解液を電気分解したものをガスとして使います。

課題14:

プラスチックの耐久性を高くするためにプラスチックを破壊する酸素を吸収してしまう物質をプラスチックに混ぜておきます。「酸素吸収物質」には金属の微細な粒子を使います。この金属粒子は表面が酸化されていない純粋な金属でなくてはなりません。プラスチックに純粋な金属を混ぜる作業はどのようにして行なったら良いでしょうか?真空、還元環境(あるいは不活性ガス環境)などで行なうのは困難です。どうしますか?

標準5.1.1に沿った課題14に対する解答:

この課題は標準5.1.1.8に基づいて解決することができます。通常の環境で熱を加えると金属を分離する塩を使います。そのような塩としては、例えば鉄のしゅう酸塩を使うことが考えられます。この塩を熱すると300℃で分解して金属鉄あるいは酸化鉄(II)(同じく「酸素吸収物質」)ができます。

5.1.2. 物質を分割して相互に作用させる

 望むかたちに変化させることが難しいシステムで、状況の制約があって作用を与えるツールを替えることや添加物を導入することができない場合には、ツールの代わりに作用を受ける物質(ワーク)を利用します。具体的にはワークを部分に分けて、分かれた部分同士が相互に作用しあうようにします。

発明者証 No.177761
陽極機械加工の加工チャンバーの中に層に分離しやすい作動液を供給する方法。
特異点:作動液がよくかき混ぜられるように加工箇所で作動液同士がぶつかるかたちに両側の2カ所から供給します。

発明者証 No.412449
飛散しやすい素材(例えば、砂糖)をドラム式乾燥機の中で対流法で加熱処理しその後反対側から気体を当てて冷却する方法。
特異点:工程の生産性を高め、同時に砂糖の微細な破片を取り除くために、予め素材を回転させておいて、対流法の乾燥を行なうために用いる熱した気体と、冷却のために使う気体とをお互いに逆方向からぶつかりあうように噴出させ、その後、混じりあって役目のすんだ気体はその中に浮いている砂糖の微細破片と一緒に吸い出します。

発明者証 No.719809、クレーム1
渦を巻いている気体の流れに乗せて溶解した金属合金を噴出させて金属粉を得る方法。
特異点:より細かい金属粉を得るために、溶解金属の噴流そのものが噴出軸との関係で回転するようにします。

クレーム2
クレーム1の方法に加えて、溶解金属の噴流に回転の動きを伝えるとともに、回転方向が溶解金属を噴出させる気体の渦と逆方向となるようにします。

発明者証 No.726256
エネルギーの流れを減衰させるために流れを分割してそれぞれが回転するようにした上でもう一度合体させる方法。
特異点:減衰効果を向上させるために、当初のエネルギーの流れを2つに分けて、一方の流れを他方の流れの中に通し、それぞれが逆方向に回転するようにします。

発明者証 No.727942
燃料と空気とあらかじめ過熱した粉状の素材との交合物を燃焼箇所に投入して行なう燃料の燃焼法。
特異点:燃料が完全に燃焼し、同時に有害物質の排出を減らすために燃料と空気と粉上の素材との交合物を2つ以上の流れに乗せてそれぞれの流れがお互いにぶつかりあうようして燃焼箇所に噴射します。

発明者証 No.749571
素材から削り取られた切り子を分割して別々の方向に送り出して行なう、削り代の大きい旋盤加工からでる切り子の細分化方法。
特異点:この方法で切り子を細分化できる幅を広げ、切り子を切断する手間を節約するために、分割された切り子の流れが反対側からお互いにぶつかりあうようにしむけて、切り子同士の相互作用でさらに小さく粉砕されるようにします。

 システムの中に微細な粒子の流れが有ってその粒子を望むかたちで扱いたい場合には、流れを分割してそれぞれを一様に、あるいは、相互に異なる形に方向付けし(帯荷させ)なくてはなりません。全ての流れが一様な電荷を帯びている場合には、分割した流れの一方には逆の電荷を与えるべきです。

発明者証 No.259019
鉱山の坑内の乾燥した粉塵をエアゾールを使って電気的に固まらせて空気を浄化する方法。
特異点:粉塵浄化の効果を高くするために粉塵の流れを2つに分けてそれぞれ別の電荷を与えてから2つの流れを合体させます。

課題15:

「溶解した合金を細い流れに分け、次に流れを細かく分散させて冷却して小さな粒子を作る」という既存の方法が有ります。 この方法が今後どのように進化するか予測して下さい。

標準5.1.2に沿った課題15の解答:

解答は明らかです。溶解合金の流れを細かく分散する技術の可能性をさらに広げるには、複数に分かれた合金の細い流れを同軸上に反対方向から流してお互いにぶつけあわせることになります。(発明者証 No.719802)

5.1.3. 役目を終えた物質の自動排除

 システムに導入された物質は、所定の役目を終えた後は、消えてなくなるかシステムの中あるいはシステムの外部環境に始めからあった物質と同じになるようにしなくてはなりません。

 酸化ベリリウム(あるいはアルミニウム)の誘導溶解を行なうためには酸化物の中に導線を通さなくてはなりません(酸化物は絶縁体で、溶解して初めて導電性をもつようになります)。導線は酸化物にとって不純物となる可能性があります(誘導溶解の目的は純粋結晶を得ることです)。この課題の解決策は、導線として金属ベリリウム(あるいはアルミニウム)を使うことです。この導線は酸化物を加熱する「誘導電流の場の受け入れ役」を果たしてくれます。そして高温になるとベリリウムは燃焼して酸化物に変化しますから、溶解した酸化物に対する不純物にはなりません。(『Изобретатель и рационализатор (発明家と合理化促進者)』誌、1975年、No.3、25ページ)

発明者証 No.588025
洗剤と充填材とを送り込んで中空の部品の内壁を洗浄する方法。
特異点:{内壁をこする充填材で}洗浄効果を高める一方で洗浄後部品の表面に充填材が残ることがないように、充填材には簡単に揮発する物質の粒を使うようにします。

発明者証 No.1013709
躯体の内部に断熱物質を詰めた氷保管庫。
特異点:氷が溶けても断熱材が原因で保管庫の内部が汚染されることがないように水にメタンを混ぜたものを凍らせた毒性がなく溶けにくい氷を断熱物質として使います。

5.1.4. 中空構造と泡の利用

 大量の物質を導入する必要がある一方で、状況の制約によってそれが許されない、あるいは、システムの稼働条件がそれを許さない場合には、中空構造あるいは泡の形で「何もない空間」を利用します。

ソ連邦特許 No.320102
緊急用の飛行機を動かす時には両翼の下に厚いエアマットを置いて空気を入れて膨らまします。エアマットに空気を入れると飛行機はスムースに浮き上がります。エアマットの下に搬送用のカートを置いておくこともあります。

発明者証 No.895858
木材を並べ、結束し、木材の間に浮きを作って木材搬送用の筏を作る方法。
特異点:浮きの浮力を大きくするために筏の木材の間にポリエステルとポリイソシアネートとの混合物を充填して発泡プラスチックにします。

解説:

  • 中空構造を使うのはマクロレベルでの標準で、泡を使うのは同じ標準をミクロレベルで適用したことになります。
  • 標準5.1.4はしばしば他の標準と組み合わせて同時に使われます。

5.2. エネルギー作用の導入

 既存の物質場を改良、改造、分解する際に新しいエネルギー作用を導入しなくてはならないことがしばしばあります。サブクラス5.2の標準はその際にシステムを複雑にしないために利用します。

5.2.1. 既存のエネルギー作用の利用

 既に物質場をもっているシステムに新しいエネルギー作用を導入する必要のある場合には、第一にシステム内にある物質が担っている既存のエネルギー作用を利用するべきです。

 {パイプの中を流れる}液体酸素の流れの中から気化した酸素ガスを取り除く方法を考えてみましょう。システムには2つの物質{液体の酸素と、気体の酸素}が存在します。どちらも機械的エネルギーをもっています。この課題を解決するためには2つの物質の動き方を変えて、流れを回転させるだけで十分です。遠心力によって液体は壁際に押し付けられますが、気体はパイプの中心部分に集まります。

5.2.2. 外部環境に既存のエネルギー作用の利用

 新しいエネルギー作用を導入する必要があって、標準5.2.1を適用することができない場合には、システムの外部環境に既存のエネルギー作用を利用しなくてはなりません。

発明者証 No.414354
橋の上に溜まった水を取り除くために、橋の上の路面から下の川の水の中までパイプを通し、水の流れによってパイプに生じる吸い込む力を利用します。

5.2.3. 既存の物質を利用してエネルギー作用を得る

 システムの中にエネルギー作用を導入する必要が有って、しかし標準5.2.15.2.2に沿ってこれを行なうことができない場合には、システムあるいはシステムの環境の中に既存の物質にエネルギー源の役割を「兼任」してもらえるエネルギー作用を利用しなくてはなりません。

発明者証 No.504932
浮きに取り付けたコンタクト、警報装置本体と本体と絶縁されて取り付けられたもう1つのコンタクト、2つのコンタクトと回路で結ばれたインジケータからなる、主として燃料用に使われる液面水準警報装置。
特異点:警報装置が電源をもつ必要性をなくし、接点で電気火花が発生する可能性を排除するために、本体と浮きの2つのコンタクトを別種の金属合金(例えば銅とコンスタンタン)で作って熱電対を形成させて、これが静電気が流れた場合に冷接点となるようにします。他方の接点(熱接点)は警報で監視する対象の外に置いて熱源を取り付けます。

発明者証 No.225992
電磁石と電気回路からなり、溶解金属と導電性の液体熱媒とを圧送する電磁ポンプ。
特異点:外部電源から電力を供給する必要性がないようにするために、電磁ポンプの電源として2枚のプレート状の半導体熱電素子からなる閉回路を使います。熱電素子は冷温側プレートと液体熱媒が流れている箇所に沿って置かれた電磁石の両極間に置かれた空洞のある高温側プレートとの間にはさまれています。

発明者証 No.356489
「切削されるワークと、切削工具=ツール」からなる金属加工のシステムでワークとツールとを熱電対として利用して切削温度の計測を行ないます。

発明者証 No.568538
ワイヤーの骨組みに研磨剤を塗布したものが熱電対を構成するように作られています。研磨している砥石自身が研磨箇所の温度について警報発信装置の役割をはたします。

 システムの中に強磁性物質があって機械的な目的にしか利用されていない場合は、システム内の要素同士の間の相互作用の改善、システムの仕事や状況についての情報を得るなどの追加効果を得るためにその物質の磁性を利用すべきです。

発明者証 No.518591
駆動リングと被駆動側のマルタ十字形とからなるジェネバ機構。
特異点:機構の寿命を長くするために駆動リングは軟磁性材料で作られたセクションを持っていて中に永久磁石が入っています。一方、被駆動側にはヒステリシス材料で作られたプレートが付いています。

5.3. 相転移の利用

 新たに導入する物質やエネルギー作用について矛盾する{お互いに相容れない}要請が有る場合には相転移を利用することによって要請を満足させられる場合が有ります。

5.3.1. 物質の相の変化

 相転移1{ARIZ85Cの表2の7にリンク}つまり既存の物質の相{気体、液体、固体など}を変えることによって他の物質を新たに導入せずに物質をより効果的に活用できる場合が有ります。

発明者証 No.252262
坑内の空圧システムの動力源として(圧搾ガスでなく)液化ガスを用います。

5.3.2. 物質の「二重」相状態

 相転移2{ARIZ85Cの表2の8にリンク}つまり条件によって1つの相から別の相に可逆的に転移できる物質を利用することによって「二重」性格を実現できる場合が有ります。

発明者証 No.958837
熱交換器のボディーにニッケルチタン合金でできた「花弁」をたたみ付けておきます。温度が規定値より上がると「花弁」が開いて冷却面積が大きくなります。

発明者証 No.166202
閉サイクル・ガスタービンシステムの作動気体として混合ガス(例えば、N2O4、Al2C2、CH4 + CO2など)を使います。この混合ガスは温度の変化にともなう可逆的な化学反応によって気体定数がタービンのところで大きくなり、コンプレッサのところでは当初の値まで小さくなります。(この混合ガスは熱の放出・吸収をともなって可逆的に分離・再結合する性質をもっています)

発明者証 No.1003163
2つの電極板、その間にはさまれた誘電体、および誘電体の温度を制御する装置からなる可変コンデンサ。
特異点:コンデンサの容量の可変幅を大きくするために誘電体を2層にして一方の層には温度が変化しても誘電率の変わらない物質を使い、他方は温度によって金属と誘電体とに可逆的に相転移する物質にします。

5.3.3. 相転移に随伴する現象の利用

 相転移3{ARIZ85Cの表2の9にリンク}つまり相転移に随伴する現象を利用することによってシステムの有効性を改善できることがあります。

発明者証 No.601192
氷で作った部材を使った凍結した貨物の搬送具(動かした時に氷が溶けるので摩擦が小さくなります)。

5.3.4. 物質の2相共存状態への移行

 相転移4{ARIZ85Cの表2の10にリンク}つまり単相状態から2相共存状態に替えることによってシステムに「二重」性格を持たせることができる場合があります。

発明者証 No.3589468
{切削加工の際に}加工時に生じる騒音、気化物、臭気、切り子の飛散を抑えるために加工箇所を泡{つまり液体と気体との2相共存物質}で包むようにします。加工用の切削ツールは泡を通り抜けることができますが騒音や気化物などは通り抜けることができません。

発明者証 No.722740
製品の研磨法。液体(溶解した鉛)と研磨性の強磁性体粒子の中で研磨します。

発明者証 No.936962
粒状の物質を詰めものとした{いけすなどの水を浄化するための}フィルターの洗浄法。粒状の物質をほぐしてから上流に向けて水を流して汚れをとりのぞいています。
特異点:作業効果を改善しながら魚を傷つけることを避けるために、洗浄水をノズルから噴出させる水にガスを飽和させておきます。

5.3.5. システムの異なる相の間の相互作用の利用

 相転移4によってもたらされる技術システムの性能をシステムのいくつかの部分(あるいは相)の間の(物理的、化学的)相互作用によってさらに改善することができる場合があります。

発明者証 No.224743
コンプレッサと火力発電装置に用いる、気体と固体微粒子からなる2相共存作動媒体。
特異点:気体の圧縮率が冷却器とコンプレッサのところで、また膨張率が加熱器のところで一層大きくなるように、固体微粒子には一般的あるいは選択的にガスを吸収する性質を持っている物質を使います。

発明者証 No.282342
バイナリーサイクル発電装置に使用する熱媒体として化学的に反応しやすい物質を使います。この物質を熱すると熱を吸収して分子量の小さな物質に分解し、熱を奪われると再結合して当初の状態に戻ります。

5.4. 物理的効果の使い方についての考え方

 多くの標準は物理的効果を利用すること、あるいは、物理効果と一緒に適用することを想定しています。したがってこれらの標準を適用する際には、物理的効果の有効性を高くするいくつかのテクニックを頭に入れておく必要があります。

5.4.1. 可逆的な物理的変化の利用

 ある物体が周期的に複数の異なる物理的状態になっていなくてはならない場合は、可逆的な物理的変化を利用してその物体が自ら状態間を転移するようにします。転移のためには例えば、相転移、解離・結合、分解・化合などを利用します。

発明者証 No.177497
気体の入った{絶縁体の}パイプからなる避雷装置。雷が発生するとパイプの中の気体がイオン化して導電体になり、自動的にスイッチオンされて避雷装置となります。雷がなくなるとイオンは自動的に再結合して気体は電気的に中性に変わり、パイプは非導電体となるので電波障害を引き起こすことはありません。

発明者証 No.820836
ボディー、バルブ、感熱性要素からなる自動バルブ。
特異点:作動の信頼性を高め、構造を簡素化するためにボディーに固定されたサポートに「形状記憶」金属で作られた2枚の湾曲したプレートを取り付けた構造になっています。{温度が変化すると形状記憶プレートが曲がり伸びしてボディーの中の空間を開け閉めします}

5.4.2. エネルギー作用のアウトプットの増幅

 弱いインプット作用を強いアウトプット作用に変えたい時には臨界に近い状態にある増幅物質を導入する必要があります。その物質の中にエネルギーが蓄積されていてインプット作用はそのエネルギーを「解放するスイッチ」の役割をはたします。

発明者証 No.969327
固体への弾性波の印可と、外部から取り入れたエネルギーの蓄積とからなる弾性波増幅法。
特異点:アウトプットの衝撃波を強くしてこの方法の適用可能性を広げるために、弾性波のインプットに先だって固体を変形してその物質の第2種相転移温度よりインプットの弾性波による温度上昇分だけ低い温度まで加熱しておきます。

発明者証 No.416586
脱気した液体の中に製品を入れ、製品内部の空洞の気圧を高くすることによって液体上の空間との間に気圧差を作り、液体の中に泡が形成されるのを観察して気密性の低い箇所を発見する、製品の気密性テスト法。
特異点:このテストで使用する液体の感度を高くするために、テストの時には液体を過熱状態に保つようにします。

5.5. 実験についての標準

5.5.1. 分解によって物質を得る

 課題を解決するために物質の粒子(例えばイオン)が必要ですが、課題の状況によってそれを直接得ることが不可能な場合には、求める粒子は構造階層が上の粒子(例えば分子)を分解して得なくてはなりません。

発明者証 No.741105
高圧の水素ガス作る方法。水素を含む化合物を気密容器に入れて電気分解して遊離水素を作ります。

5.5.2. 合成によって物質を得る

 課題を解決するために物質の粒子(例えば分子)が必要ですが、課題の状況によってそれを直接えることも、標準5.5.1に従って得ることも不可能な場合には、求める粒子は構造階層が下の粒子(例えばイオン)を結合させて得なくてはなりません。

発明者証 No.364493
船が動く時に船が水に接触する箇所に高分子溶液を使えば抗力を減少させることができます(トムズ効果)が、この方法では膨大な量のポリマーを消費してしまいます。そこで、ポリマーの代わりに電磁場を働かせて水のクラスターを作って利用するアイデアがあります。

5.5.3. 物質を得るもっとも簡単な方法

 標準5.5.1を適用する上でもっとも簡単なのは直近の上位レベルの通常の粒子、通常プラスαの粒子(マイナスイオン)を利用することであり、また、標準5.5.2を適用する上でもっとも簡単な方法は直近の下位レベルにある不足したところのある粒子を素材として結合させることです。

発明者証 No.177497{標準5.4.1で既出}
{気体の入っているパイプを使って落雷から}アンテナを保護する課題。{パイプの中の}イオンはガスの分子を分離させて得ます。中性の分子は破片(イオンと電子)を結合させて作ります。

—— 続く ——

書誌
G.アルトシューラ「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」
『論文集 迷宮の糸』
ペトロザヴォーツク:カレリア、1988年、pp. 165-230
(Альтшуллер Г.С. Маленький необъятные миры: Стандарты на решения изобретательских задач
// сб. Нить в лабиринте.
— Петрозаводск: Карелия, 1988. — С. 165-230.)

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