日本語で本格的にTRIZを学びたい人のためのサイト

TRIZの古典

アルトシューラ
「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」(76の標準解)(2/3)

このページではアルトシューラによる1988年の論文「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」を翻訳し掲載します。「標準解」と通称されているものですが、アルトシューラが使ったロシア語の表現にあわせた表題にしました。現在のところクラス5までを掲載しています。残りの部分は翻訳が完了し次第、追加します。

この論文は The Official G.Altshuller foundation の許可に基づいて掲載されたものです。(下記のURLはファウンデーションのサイトにリンクされています。書誌詳細はページ末尾

This paper was published with the permission of the Official G.Altshuller foundation: www.altshuller.ru/world/eng/index.asp.

この論文の著作権は The Official G.Altshuller foundation にあります。

日本語の翻訳の著作権はサイト管理者にあります。

無断転載は禁止いたします。

小さな巨大世界:発明問題解決の標準
(76の標準)

目次

  1. クラス1 物質場システムの構築および分解
  2. クラス2 物質場システムの発展
  3. クラス3 上位システムとミクロレベルへの移行
  4. クラス4 検出と測定に関する標準
  5. クラス5 標準の適用に関する標準
  6. 標準の適用に関する演習課題
  7. 標準体系の使い方

クラス3 上位システムとミクロレベルへの移行

3.1. バイ・システムとポリ・システムへの移行

 「システム内部」における改良(クラス2の標準のライン)と並行して「システム外部」の進化のラインも存在します:
システムは内部的な進化のどの段階でも他のシステムと組み合わせて新しい特性をもった上位システムを形成することがありえます。

3.1.1. バイ・システムとポリ・システムへの移行

 システムの進化のどの段階でもシステム移行1aによってシステムの有効性を改善できる可能性があります:
システム移行1aとは、あるシステムを他の(もう1つのあるいは複数の)システムと組み合わせることによってより複雑なバイ・システムあるいはポリ・システムにすることです。

発明者証 No.722624
スラブを切断して圧延機に搬送するスラブの搬送法。
特異点:搬送の途中でスラブが冷却される熱損失を少なくするためにスラブを少なくとも2つ重ねて合計表面積を減らして搬送する。圧延装置のところで1つひとつに分けて加工する。

解説:

  1. バイ・システムやポリ・システムを作る最もシンプルなケースはВ1あるいはВ2の物質を2つあるいはそれ以上の数にすることです(バイ物質物質場、ポリ物質物質場)。
  2. 上で紹介した標準2.2.1もポリ・システムへの移行と見なすことができます(ただしこのケースは、より正確には、ポリ・システム化の程度の高度化と見なすべきです)。逆は等価:分解によっても、組み合わせによっても全く同じもの、すなわちバイ・システムやポリ・システムが生まれます。

USA特許3567547
薄いガラス板から製品を作る際に、素材のガラス板を接着して1つのブロックにする。この状態でブロックを機械加工すれば薄いガラスを破損するおそれがない。

 この例にはポリ・システムの主な特徴の1つがよく現れています。それは、ポリ・システムを形成する際には特別な特性をもった内部環境(あるいは、そうした内部環境が生じる状況)がうまれていることです。上のケースでは単なる薄板の集まりがポリ・システムとなるときに、接着剤で接着されて一体化された薄板のブロックという新しい特性をもった内部環境がうまれています。一枚の薄いガラス板に接着剤を塗っても何もよいことは無いでしょう。ガラス板を固まった接着剤の大きな塊の中に閉じ込めれば(標準1.1.3)頑丈にすることはできるでしょう。しかし、それでは加工コストが高くなってしまいますし、加工の生産性が下がってしまいます。

 バイ・システムとポリ・システムのもう1つの特性は、複数のステップによる効果です。

発明者証 No.126079
ターボドリルの回転数制御法。
特異点:許容最大回転数が大きくないドリル機構を使って大きな作動回転数をえるために、ドリルを駆動する作動液の流れを幾つかのステップに分けて、第1ステップで回転させられたローターのシャフトが第2ステップのハウジングに固定されていて、第2ステップのローターは既に回転している第2ステップのハウジングに対する相対回転数で許容回転数を越えないようにする。以下第3ステップ以降順に回転数が上がってゆく。

解説:

  1. バイ・エネルギー場、ポリ・エネルギー場や、複数のエネルギー作用と複数の物質とからなる物質場を作ることも可能です。時にはエネルギー場と物質とのセット (П-В) を多数組み合わせることや、物質場全体を多数組み合わせることもあります。

発明者証 No.321195
電気で加熱しながら圧力によって金属素材を加工する方法。
特異点:素材の表面が高熱の影響で酸化されることを避けるために電気を通して素材の内部を加熱する一方で表面を激しく冷却する(バイ・エネルギー場システム)

発明者証 No.252036
電気化学的処理による穴あけ加工で、深さ方向の中間で穴の広さを広げなくてはならない時に、電極を深さ方向に3つに分割してそれぞれに別の電位を与えるようにする。

解説:

  1. 標準に関する従来の研究では上位システムへの移行はシステムの発展の最終段階と見なされていました。システムはそのシステムに「固有の水準」での進化の資源を使い尽くしてしまい、その後に、上位システムへ移行すると想定されていたのです。しかし現在までに、こうした移行はシステムの進化のどの段階でも起こりうることを示す資料が数多く集められています。そのようなシステムではそれ以降の進化は2つのラインに沿って展開します。新たに形成された上位システムの改良と、当初のシステムの進化の継続とです。化学の分野にも似たようなことがあります。メンデレーエフの周期表の比較的複雑な元素では次の番号の元素で{内側の軌道が全て塞がらないうちに}外側の新しい電子軌道に電子が入る場合と、内側の空いている軌道に電子が入る場合とがあるのがそれです。
3.1.2. バイ・システムとポリ・システムにおける関係の発展

 既存のバイ・システム、ポリ・システムがさらに発展する時には、なによりまず内部の要素同士の間の結びつきのあり方を発展させることによってシステムの有効性が改善されます。

 形成されたばかりのバイ・システム、ポリ・システム内部はしばしば「ゼロの結びつき」(A.チモシチュークが提案した名称です)、つまり単に要素の「集まり」があるだけです。システムの発展は要素同士の間の結びつきが強化される方向に進展します。他方で時には、新しく形成されたシステム内部で要素同士が固定的に結びつけられていることがあります。この場合、システムは結びつきが柔軟化する方向に発展します。

連結強化の例
重い貨物を持ち上げる際に複数のクレーンを連繋させて使う(定格荷重60トンのクレーンを3台使えば150トン持ち上げることが可能です)ことがありましたが、3台の機械を同期させて作業を行うのは容易ではありません。発明者証 No.742372は、クレーンのアームを連結する(剛性結合された多角形部品を使う)装置のアイデアです。

柔軟化の例
双胴船の初期のものは2つの船体が固定的に連結されていました。その後、連結部を動かして、2つの船体の間の距離を変えることができるものが登場しました(例えば発明者証 No.524728、1094797)

3.1.3. バイ・システムとポリ・システム内の要素間の差異の拡大

 バイ・システムやポリ・システムでは、要素同士の間の差異を拡大することによってシステムの有効性が向上することがあります(システム移行1b):

  1. 複数の同一の要素(同じ鉛筆のセット)から
    特性をずらした同種の要素(色の違う同形の鉛筆のセット)へ
  2. さらに、同類の要素群(製図用具セット)や
    逆のものの組み合わせ「要素と反要素」(消しゴム付き鉛筆)へ

発明者証 No.493350
「2段式ノコギリ」。下の段の刃が上の段より少し大きく横に開いている、繊維のはっきりした素材専用のノコギリ。

発明者証 No.546445
厚い鋼板を溶接する際に複数の溶接棒を多段式に重ね、一本ごとに電流の強さ、先端の送りの深さが増してゆくようにする。(特性をずらしたポリ・システムの典型的なケースです。基本的に、単なるポリ・システムから特性をずらしたポリ・システムに変えること、そのこと、によってシステムとしての有効性を改善しています。)

発明者証 No.645773
弾性要素で作られ切れ目をもった円筒形の部品を、加工する対象の中に挿入して内側から固定する装置。
特異点:しっかりと固定できるようにするため、ならびに、様々な条件で使用できるようにするため、弾性要素は線膨脹係数の異なる2つの素材を結合させて作られている。

発明者証 No.606233
電気信号を音に変換する装置。音波発生部が多くのセクションに分かれていて、それぞれ圧電素子が1つの音を担当している。
特異点:温度が変動しても圧電素子の変換特性が一定となるように、各セクションの接合部分の部品が全て温度変化に対して真逆の特性を持った2種類の素材によって作られている。

発明者証 No.1041250
超音波溶接のために音波を発生させる起震機。ローラーの回転面に複数の摩擦素子がはめ込まれている。溶接面同士が接した状態で溶接するモノの反対側の面に接してローラーを回転させる。ローラー自体の表面と摩擦素子の表面とで摩擦係数が異なることから振動が発生する。
特異点:超音波の強度および周波数域を大きくすることによって溶接品質を向上させるために、1つのローラーに様々に異なる摩擦係数を持った摩擦素子を組み付けておく。

発明者証 No.1001988
容器中の媒体内に乱流をつくりそこで振動を発生させることによって分散系を作る方法。媒体の中に弾性共振器を入れ弾性振動を加えることによってこれを行なう。
特異点:作動のコストを下げ、分散系の発生効果を高めるために、媒体を振動させる弾性共振器を複数にして、それぞれの固有振動数が異なるようにしておく。

課題10:

対象を温室として、今後の進化を予測して下さい。

標準3.1.13.1.3に沿った課題10に対する解答:

標準3.1.1に沿って考えると次のステップは「バイ・温室」(温室X2)への移行となる。その際何らかの新しい質が生じるためには「バイ・温室」の各部分の間の相互作用、あるいは、「バイ・温室」の中の植物の間の相互作用が利用できるようでないといけない。
解答:発明者証No.950241は温室の1つの部屋では二酸化炭素を吸収して酸素を排出する植物を育て、他の部屋では酸素を吸収して二酸化酸素を排出する植物を育てる。

3.1.4. バイ・システムとポリ・システムの収束

 バイ・システムやポリ・システムでは、システムを収束させることによってシステムの有効性が向上することがあります。収束は、まず、二本の銃身に対して1つの床尾とした二連銃のように、補助的部分を省略することによって行なわれます。バイ・システムやポリ・システムの収束が完全に進むと再びモノ・システムとなり、そこから新しい段階に移ってサイクルが反復されることがあります。

発明者証 No.408586
タワー型ボイラーのある火力発電所。
特異点:内部の配管距離の短縮、組み立て作業の簡素化、基礎面積削減のため、ボイラー関連施設を一体化して1つのブロックとし、その上に共用の煙突をのせるようにする。

発明者証 No.111144
坑内救助隊員の冷房防御服は重量の制約によって冷却能力の向上が阻まれていた。この状況から脱却するために冷却剤(液体酸素)に2つの機能を持たせ、まず蒸発熱を奪って防御服を冷却し、次に酸素ガスとして隊員の呼吸を助けるようにすることで、防御服の呼吸系と冷却系を一体化する提案がなされた。これによって、複雑な呼吸システムが不要となり、隊員に持たせる冷却剤の量を大幅に増加させることが可能となった。

発明者証 No.287967
岩塩の加工法。破砕、粉末化、溶解を1つの装置で1サイクルで行なう。(従来は、破砕、粉末化、溶解の工程を順次行なっていた。)

3.1.5. 両立不能な特性をシステムとその部分に

 バイ・システムやポリ・システムでは、両立不能な特性をシステム全体とシステムの何らかの部分とに分割配置することによってシステムの有効性が向上することがあります。これがシステム移行1cです:
システムを2つの階層にして、システム全体としては特性Aを持ち、その一部(あるいは構成要素群)は特性反Aを持つようにします。

発明者証 No.510350
複雑な形態を持った部品を固定するための万力の部品保持部(口金に相当する部分):保持部の個々の要素(スチールのブッシュ)は硬いが、保持部全体としては保持する部品の形状に合わせて柔軟に変形する。

3.2. ミクロレべルへの移行

 原理的に新しいシステムに移行する道筋には次の2つがあります:

  • 上位システムへの移行(「上向きの道」。標準サブクラス3.1)、および
  • 「深部の」下位システムを活用する方向への移行(「下向きの道」。{この}標準サブクラス3.2)です。
3.2.1. ミクロレべルへの移行

 どの発展段階にあるシステムもシステム移行2によってシステムの有効性が向上することがあります:
システムあるいはその一部をエネルギー場の影響を利用すると求める作用を実現できる物質に置き換えて、マクロレベルからミクロレベルへと移行する。

発明者証 No.275751
円筒形のローターとお互いに逆向きに作られた多段階の切り込みを持ったステーターとからなる調整可能ラビリンスポンプ{回転側と静止側との接合部の隙間を複雑な形状とし、かつ遠心力を利用して潤滑油を内側に閉じ込め、汚染物質の内部への侵入を防ぐ無接点シールを使ったポンプ}。
特異点:温度の変化によって{接合部の隙間を}調整できるようにローターとステーターの素材を別物とし、それぞれの線膨張係数が異なるようにする。

解説:

  1. 上の例は奇妙に思われるかもしれません。ポンプは元と同じポンプでしかありません、どこに新しさがあるのでしょうか? 「調整可能ラビリンスポンプ」となっているのは現行の発明登録制度に不備があるためです。実際は人がポンプを変化させて調整することはありません。新しさは調整のやりかたにあります。大げさな機械式の仕組みを使ってしかも精度の低い隙間調整をするのではなく(熱を利用する)原理的に全く違う調整方法を使っています。

発明者証 No.339397
台座と切断工具付き作業部からなるノコギリを使わない木材切断装置。
特異点:生産性と切断品質を高めるために切断工具は先端の両面を尖らせた磁歪性素材で作ります。高周波発生装置で発生させた電気信号を電気機械変換器により機械的動きに変換して工具に伝え、その動きで木材を切断します。

解説:

  1. 標準に関するこれまでの研究では(上位システムへの移行を検討したときと同様に——標準3.1.1の解説4参照)ミクロレベルへの移行が妥当となるのはシステムの発展のための資源が使い尽くされた時だと想定されていました。しかし、現在の理解ではミクロレベルへの移行はシステムの発展のどの段階でも可能です。
  2. 「マクロからミクロへ」の移行という考え方は概括的なものです。実際には「ミクロ」にも様々なレベル(ドメイン、分子、原子、など)があり、それに対応して様々なミクロレベルへの移行があり、さらに、1つのミクロレベルから他のより低いレベルへ向かう移行にも複数の移行があります。このような移行については現在情報蓄積が行なわれているところですので、おそらくは、サブクラス3.2には新しい標準が追加されることになるでしょう。
課題11:

バナジウム合金の素材にあけた穴の超精密仕上げ加工(ダイアモンド砥石によるホーニング)は放射方向に動く特殊な工具を用いて行いますが、極めて高価で複雑な工具です。新しい製品では一層高い精度が要求されています。そこで、従来と同じ作動原理で一層精密に調整できる新しい工具をテストしています。しかし、どうしてもうまくゆきません。工具はあまりにも複雑かつ不安定になりすぐに故障してしまいます。どうすればよいでしょうか?

標準3.2.1に沿った課題11に対する解答:

上に挙げた発明者証 No.275751で同じ種類の課題が解決されています。ホーニングヘッドによる加工を熱膨張によって調整します。穴のホーニング加工ではホーニングヘッドが砥石に加工時の回転力を伝え、また砥石を加工箇所に持ってゆきます。そこで、必要な加工に合わせて砥石の位置を調整し固定した後に加工を行ないます。解答の特異点は、加工を始める前に素材を加熱しておき、加工を行なう過程で冷却してゆくことです。(発明者証 No.709344)

注意:
温度の場で作用を加える対象は工具ではなく、素材とします! このケースではそれが可能かつ妥当です(素材の方が工具より大きいため)。

クラス4 検出と計測に関する標準

4.1. 迂回策

 システムの中での計測と検出とは主に「計る」行為をしています。ですから、システムの主要な働き方を組み立てなおして計測や検出という行為が必要でない(あるいは、最小限になる)ようにすることが望ましいといえます。ただし、システムの働きの正確さを犠牲にしてはならないことはいうまでもありません。

4.1.1. システムを変化させて検出・計測を不要にする

 検出あるいは計測に関して課題があるとすれば、システムを変化させてこの課題を解決する必要がないようするのが合理的です。

発明者証 No.505706
部品の誘導加熱法。規定の加熱温度が自動で得られるようにするために、誘導コイルと加熱する部品との間に規定の温度で融解する塩を挿入しておきます。

発明者証 No.471395
商用電源周波数の電流を使うるつぼとインダクタからなる誘導加熱炉。
特異点:規定の加熱温度が維持されるようにるつぼは規定温度と同じキュリー点をもつ強磁性素材で作られています。

4.1.2. コピーの利用

 検出あるいは計測についての課題があり、かつ標準4.1.1を適用することができない場合は、対象とするものについて直接操作をする代わりに対象物のコピーあるいは写真を使って検出、計測を行なうのが合理的です。

 鉄道の貨車に積まれた木材の量を算出する際に、木材そのものの計測を行なう代わりに一定の縮尺で撮影した写真を計測して計算を行ないます。

発明者証 No.241077
ある構造物の外殻の変形の様子を計測したいのですが大きなものなので計測が困難です。そこで、この構造物の模型(変形前と変形後)を作って模型を計測することにしました。

 原型に基づいて製作したものと原型との差異を比較したい時には、両者の画像を重ねあわせて比較します。その際、製作したものの画像の色と原型の画像の色とが補色関係になるようにします。原型あるいは原型の画像のある製作物の計測が必要な場合も、同じ考え方が使えます。

発明者証 No.350219
原型を基準として多数の穴があるディスクを検査する際には、検査するディスクの映像を黄色、原型の映像を青にして2つの映像を重ねあわせます。スクリーンに黄色が映っている場合はディスクに空けた穴が足りないことが、また、青が映っている場合には余計な穴が空いていることが判ります。

発明者証 No.359512
2つのものを比較照合する方法。対応する箇所が重なるようにして2つのものの映像をスクリーン上に映写します。
特異点:照合の精度を高めるために2つの映像を対称的なものとします。例えば、一方をポジティブ画像にし他方をネガティブ画像とする、あるいは、一方を赤に他方を青に色付けます。

4.1.3. 隣接する2項目の検出によって計測を不要にする

 計測についての課題があり、かつ標準4.1.14.1.2を適用することができない場合は、課題を変化させて隣接するものの間の変化を検出する課題とするのが合理的です。

発明者証 No.186366
銅鉱石の採掘に用いられる地下チャンバー法では地下に巨大なホールが作られます。ホールの天井は坑内で使われる爆発などが原因となって岩が剥がれて落下することがあります。このため、天井の「穴」を計測して状況を常に監視する必要があります。しかし、天井が5階建てのビル程の高さの場合はどうやって監視したらいいでしょうか。この発明者証のアイデアはチャンバーを作る際に天井の上に横から多数の穴を通してその中に蛍光物質を入れておくことです。穴の髙さごとに異なる色の蛍光物質を使います。天井の岩が剥がれると蛍光物質が見えるようになるので検出可能です。また、蛍光物質の色によってどの高さまではがれたかを知ることができます。

解説:

  • どのような計測にも所定の計測精度があります。従って計測の課題は、仮に連続計測が求められる場合であっても、常に2つの隣接する検出という要素から成り立っているといえます。例えば、グラインディングホイール(砥石)の直径の計測について考えてみましょう。一定の精度(決して、無限の精度ではありません)で計測する必要があります。0.01mmまでの精度で計測しなくてはならないとしましょう。この場合、グライディングホイールとは隣同士のリング間が0.01mmとなっている多数の同心円のリングの集まりだと考えることができます。当初の計測の課題は1つのリングと次のリングとの違いをどのように検出するかという問題に帰することになります。隣同士のリングの違いを見分けることができて、それがどのリングであるかが判ればグラインディングホイールの直径は計算可能です。
  • 「計測」というあいまいな概念から「隣接する2項目の検出」という厳密なモデルに移行することで課題ははるかに簡単になります。

4.2. 計測システムの形成

 計測システムを作る際には、物質場の基本要素である物質あるいはエネルギー作用(場)のなかで、不足していて新たに導入するものがどの要素の場合でも、「計測」システムに固有の戦術があります。計測物質場を形成する上での特異点は、この物質場の構造がアウトプットとなるエネルギー場を提供できるようになっていることです。

4.2.1. 計測物質場の形成

 物質場のできていないシステムで検出あるいは計測が難しい場合は、アウトプットとなるエネルギー作用をもった単純な物質場あるいは複合物質場を形成することによって課題を克服します:

発明者証 No.269558
液体の沸騰が始まる(つまり、液体の中に泡В2が出現する)瞬間を観察する方法。液体に電流を流します。泡が出現すると電気抵抗が急激に大きくなります。

発明者証 No.305395
液体の中にある異物の検出と計数を行なう方法。
特異点:検出、計数の感度を高くするために液体に超高周波の電磁波を照射し、粒子によって散乱させられることによる電磁波の変化の形と大きさを記録し、それに基づいて液体に含まれている異物の量を判定します。

解説:

  • 次のような物質場が検出、計測に関する課題に対する回答の特徴です。
課題12:

金属製のサンプル、例えばロッド、が疲労して亀裂が生じ始めるところを検知するにはどうしたら良いでしょうか?

標準4.2.1に沿った課題12に対する解答:

発明者証 No.246901。上述の発明者証 No.269558の状況と違うのは対象の物質に液体と固体との違いがあるだけです。しかし、固体に亀裂が発生した場合も、液体に泡が生じた場合と同じで電気抵抗は急激に大きくなります。解答はサンプルに電流を流すことです。

4.2.2. 付加計測物質場に移行

 あるシステム(あるいはその一部)について検出あるは計測が難しい場合には、検出しやすい添加物を導入して内部付加物質場あるいは外部付加物質場に移行させることによって課題を克服します。

発明者証 No.277805
フロンとオイルの入った冷却システム(主として家庭用冷蔵庫)のもれを検出する方法。
特異点:もれの箇所を正確に知ることができるように、オイルに蛍光物質を混ぜておきます。冷却システムを暗いところにおくと、オイルがもれていればオイルと一緒にもれた蛍光物質が光るのでもれの箇所を特定することができます。

発明者証 No.110314
物体と物体とが実際に接着している表面の面積を確認する方法。
特異点:接着面に着色するために蛍光塗料を使います。

4.2.3. 外部環境を利用する計測物質場

 なんらかの時間帯にシステムについての検出、観察が困難であり、かつ、対象物に添加物を導入することができない場合には、外部環境内の何かでそれを計測することによって対象物の状態を判断することが可能になるものに、検出あるいは計測が容易なエネルギー作用をもった添加物を導入しなくてはなりません。

発明者証 No.260249
エンジンの摩耗状況を検査するにはエンジンから「削り落とされた」金属の量を量らなくてはなりません。これを行なう方法としてエンジンオイルに蛍光物質を混入するアイデアがあります。なお、金属粒子は蛍光を打ち消す効果を持っています。

4.2.4. 外部環境から添加物を得る

 標準4.2.3に従って外部環境に添加物を導入することができない場合には、外部環境そのものの中で、例えば外部環境内の物質を分解する、あるいは、その物質の物理的状態(気体、液体、固体など)を変化させることによって求める添加物を得ることができる場合があります。

 特に、電気分解、キャビテーションその他の方法によって得られる気体あるいは蒸気の泡はしばしばそのような添加物として利用されます。

パイプの中を液体が流れる早さを計測する課題:

解答:
キャビテーションを利用して、これによって生じる微少で、従って、中々崩れない泡が溜まる様子をマーカーとして利用します。

4.3. 計測物質場の強化

 物理的効果やリズムの一致を利用することによって計測物質場を強化できる場合があります。

4.3.1. 物理的効果の利用

 既存の物質場は物理的効果を利用することによって検出や計測の効果を改善できる場合があります。

発明者証 No.170739
ある種の物質はごく少量の湿気によって蛍光特性を失います。

発明者証 No.415516
ダイアモンドの粒子は温度の変化によって光の屈折率が大きく変化します。

 例えば、物質場が熱電対を作って「無償で」システムの状態についてのシグナルを発信してくれれば好都合です。「シグナルを発信するエネルギー作用」は電磁誘導によっても得ることができます。

発明者証 No.715838
導電体のケースに接触している導電性のケージの中に設置され、保護ブロックに連結された熱電対と耐摩耗性ライナーからなるすべり軸受。
特異点:オーバーヒートが発生した際の保護機能の反応速度を高くするためにケースとケージとが熱電対を構成するようにします。

発明者証 No.1046636
検査対象の表面に感応層をおくことによる製品破損感知法。
特異点:感知の信頼性を高くするために感応層として磁気フィルムを用い、その上に導電性のフレームを配置します。フレームに生じる誘導電流によって製品の破壊を感知します。

4.3.2. 制御可能な物体サンプルの共振の利用

 システムの中で生じている変化を直接検出あるいは計測できず、システムを通過するエネルギー作用を利用することもできない場合には、システムの中に(システム全体あるいはその一部で)共振を起こしてその周波数の変化の様子からシステム内部の変化を知ることができます。

発明者証 No.271051
タンクの中の物体(例えば、液体)の質量計測方法。
特異点:計測を正確かつ確実なものとするためにタンクと内部の物体からなるシステムが共振するようにしてその時の周波数を計測します。周波数に基づいて物体の質量を算出します。

発明者証 No.244690
糸線を2つの支点で支え一方の支点から機械的振動を伝えることによって動いている糸線の張力を計測する方法。
特異点:計測精度を高くするために支点の振動数センサーには糸線共振周波数測定器を使って、この測定器の出力振動数に基づいて張力を算出します。

発明者証 No.560563
既知の装置を使って動物の乳房の物理的特性を計測して乳房がどれくらい空になったのかを判定して、自動搾乳による搾乳の進行状況を管理する方法。
特異点:乳房が空になった程度を判定する精度を高くするために乳房の音響振動の大きさとその周波数に基づいて判定することにします。

課題13:

精密帯鋼の電解研磨加工で工程を中断しないで加工プロセスを管理する方法を考えて下さい。

標準解4.3.2に沿った課題13に対する解答:

発明者証 No.244690と同じ考え方です。発明者証 No.486078では電解研磨中の精密帯鋼の寸法を電気的な指標を計測して間接的に管理する方法が提起されていますが、本件の特異点は寸法を正確に把握するために帯鋼を磁場の中に置いて発電機に連結して共振周波数を計測することです。

4.3.3. システムに連結された物体の共振の利用

 標準解4.3.2を適用することができない場合には、観察対象システムと繫がれている物体(あるいはその外部環境の中の物体)の固有振動数の変化を指標としてシステムの状態を判定します。

発明者証 No.438873
(例えば、セメントクリンカーの焼結装置の)流動層の物質の量を計測する方法。
特異点:計測精度を上げるために流動層の上のガスの固有振動数の変化に基づいて流動層の物質の量を算定するようにします。

4.4. 計測磁性システムへの移行

 計測物質場では磁性物質場のラインに移行する傾向が特に顕著です。

4.4.1. 計測「前磁性場」への移行

 磁力以外のエネルギー作用に基づく物質場は「前磁性場」、つまり磁性をもった物体と磁場との相互作用を含む物質場に移行する傾向があります。

発明者証 No.222892
密閉された空間(例えば、保存船の水中部分の中にある)を感知する方法。
特異点:確実に観察できることと密閉された空間がどこにあるか捜す時間を短縮するために、その空間を密閉する前にその一部に信号を出すものを(例えば、永久磁石をその磁場が船体の外殻の向きに沿った方向になるように)置いておきます。密閉空間は(例えば、磁気感知装置)インディケータを用いて磁場の強さの最大値によって感知します。

4.4.2. 計測磁性場への移行

 「前磁性場」あるいは通常の物質場をもったシステムにおける検出や計測を改善したい場合は、物質場に含まれる物体の1つを強磁性粒子に変え(あるいは、強磁性粒子を添加し)磁場を検出するあるいは計測するようにして磁性場に移行させなくてはなりません。

発明者証 No.239633
ポリマー成分の硬化(軟化)状況を判定する方法。
特異点:非破壊検査ができるようにポリマー材料に強磁性の粉を混ぜておいて透磁率の変化を計測して硬化(軟化)の状況を判定します。

4.4.3. 付加計測磁性場への移行

 検出あるいは計測システムの有効性を高めるために磁性場に移行することが必要で、物体を強磁性体粒子に変えることが許されない場合には、素材に添加物を導入して付加物質場を形成させるようにします。

発明者証 No.754347
液体に高圧を欠けて岩盤を破砕する工法を水圧破砕法といいます。この工法で用いる液体の状態を管理するにはその液体に強磁性粉末を混ぜておいて磁力によって地中の状態を観察します。

4.4.4. 外部環境を利用する計測磁性場

 検出あるいは計測システムの有効性を高めるために既存の物質場を磁性場に移行させることが必要で、そこに強磁性粒子を導入することが許されない場合は、外部環境の側に強磁性粒子を導入します。

 船舶模型を水中で動かすと波が発生します。この波が発生する様子を観察するためには水に少量の強磁性粉末を混ぜます。

4.4.5. 物理的効果の利用

 既存の計測磁性場の有効性を改善する必要がある場合には、例えば、キュリー点以上の温度にする、ホプキンス効果、バルクハウゼン効果、磁気ひずみ現象などの物理的効果を利用します。

発明者証 No.115128
温度の変化によって磁気誘導ループの磁気特性が変化する誘導センサを用いて温度を測定する方法。
特異点:測定精度を改善する目的でセンサーの温度が外部の磁気誘導ループと同じ温度になるまで暖め(冷やし)ます。これによってセンサーの透磁性が急激に上昇します(ホプキンス効果)。

発明者証 No.1035426
中に液体をモニターする磁石を入れた非磁性体のチャンバーと外部に置かれ磁力で制御されるコンタクトからなる液面水準警報装置。
特異点:装置の信頼性を高くするためにチャンバーの中の磁石を感熱材料で覆って設定された液面高さに固定します。磁石を覆う感熱材料はキュリー点が検知対象の液体の温度よりも低い素材で作ります。(液面が磁石の高さに達すると感熱材料の温度がキュリー点を越えて磁性が失われるため磁石の特性が変化し、それが外部のコンタクトに伝わって警報が出されます。)

発明者証 No.332758
モーターに連結された送り装置で速度を調整しながら、円筒形のインダクターのある高周波加熱チャンバー内に送られてくる一品ものの素材を加熱する誘導加熱装置。
特異点:素材の加熱温度を自動的に管理するために装置は次の仕組みになっています。まず、インダクションコイルは加熱装置の素材加熱位置に設置されていて設定温度まで加熱を行ないます、設定温度になるとインダクションコイルは磁気特性を失って加熱を中断します、同時にその信号が装置駆動回路に送られて、送り装置のモーターが動き始めます。

発明者証 No.266029
ハウジングケースと永久磁石のついた多極のローターからなる電磁式すべりクラッチ。
特異点:設定の温度でクラッチが自動的にオン・オフするようにローターの極の間に感熱性の素材で作られた分流器が取り付けられています。分流器の素材は設定温度と同じキュリー点をもった透磁率特性を持っているのに対して、ハウジングケースとローターのキュリー点は設定温度よりも高くなっています。(キュリー点の違いによる「バイ・システム」)

発明者証 No.504944
ドメイン構造をもった要素のマイクロ構造の変化と、マイクロ構造の変化を電気信号に置き換えることを内容とする力の計測方法。
特異点:計測の感度と精度と高くするために、マイクロ構造の不連続な変化の数を記録してそれに基づいて力の大きさを算出します(バルクハウゼン効果)。

発明者証 No.563556
めっき層を電気分解で溶かし、基材の電解作用が始まったことを示す信号を確認できたことをめっき層の電気分解の終了とみなして金属めっき層の厚さを測定する方法。
特異点:強磁性基材上の非磁性金属めっき層についての測定精度を高くするために基材との電解作用を確認する信号としてバルクハウゼン効果によるノイズを利用します。

4.5. 計測システムの進化の方向

 計測物質場の進化は通常のシステム転移によって完了しますが、固有の特徴をもっています。

4.5.1. バイ・システムおよびポリ・システムへの移行

 計測システムの進化のあらゆる段階でバイ・システムあるいはポリ・システムに移行することによってシステムの有効性を改善できる可能性があります。

例:
ちいさなゾウムシの体温を測定する課題。たくさんのゾウムシを集めてコップに入れます。ゾウムシ同士の間に内部環境が生まれます。その内部環境の温度はゾウムシの体温と同じになります。こうなれば、通常の体温計でコップの内部の温度を測ることによってゾウムシの体温を知ることができます。

発明者証No.256570
水上スキーでジャンプした距離を測定する方法。ジャンプ台の下にマイクロフォンを2つ設置しますが、一方は空中に、他方は水中に置くこととします。音波が空気中を伝わって届いた時間と、水中で伝わった時間との差はジャンプした距離に比例します。

4.5.2. 関数、導関数の計測

 計測システムは次の方向に向かって進化しています:

  • 関数の計測
  • 関数の一次導関数の計測
  • 関数の二次導関数の計測

発明者証 No.998754
鉱山の地中の応力の状況を判断する指標として、以前は地面の電気抵抗を計測していましたが、現在では地面の電気抵抗の変化する状況を計測しています。

書誌
G.アルトシューラ「小さな巨大世界:発明問題解決の標準」
『論文集 迷宮の糸』
ペトロザヴォーツク:カレリア、1988年、pp. 165-230
(Альтшуллер Г.С. Маленький необъятные миры: Стандарты на решения изобретательских задач
// сб. Нить в лабиринте.
— Петрозаводск: Карелия, 1988. — С. 165-230.)

———— END of this page, and copyright - TRIZ Juku - all rights reserved. ————

Menu
(HELP)