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TRIZ塾:Old Files

思考プロセスの三つの段階(2013/04/30修正前)


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 TRIZがはるかに目指しているのは「有効に思考するとはどういうことか」を明らかにして、「有効に思考する」方法を確立することだと思います。

 TRIZの原点ともいえるアルトシューラとシャピロとの1956年の論文では技術的課題に取り組む思考プロセスを大きく3つの部分に区分しています。 問題状況にうながされて私たちが何かをしようとする、その思考のプロセスにいくつかの部分あるいは、論理的な順序という意味での、段階があると想定することができます。アルトシューラとシャピロはそれを大きく次の3つの段階に分けて捉え、その段階ごとにどのように考えたら最も合理的なのか明らかにしようとしたのです。

  • 分析段階/Analytical Stage
  • 操作段階/Operational Stage
  • 総合段階/Synthetic Stage

 実際の思考の中で何がおきているのか明らかにすることは容易ではありません。このため、私たちの考察は間接的なものにならざるを得ません。私たちが比較的はっきりと確認できるのは、始めに私たちがどのような状況で、どのように思っていたか、思考の結果何をしようとしたか、何をしたか、その結果状況がどのように変化したか、ということです。私たちが「何かがこうあって欲しい」と思う時に私たちが直面している状況を「問題状況」と呼ぶことにします。一方、「何かがこうあって欲しい」と思う私たちの状態を「ニーズ」と呼びましょう。

 それでは、問題状況を設定して上の3つの段階を少し具体的に考えてみましょう。素材として、いくつかの問題状況を取り上げます。

例:

  • 問題状況1
    • 注射薬を入れたガラスのアンプルは次のように作ります。まず、小さなとっくりのような形をしたガラス製アンプルに液体の薬品を入れます。その後で、とっくりの口にあたるアンプルの上部をバーナーの炎で高温に熱しガラスを溶かして密封します。問題は、密封するために用いる高温によってアンプルのガラスが熱くなってしまうため中に入っている薬品が変質してしまうことです。
  • 問題状況2
    • 何百年か前の話しです。ある会社に遠い外国の業者から大量の商品を買いたいという手紙が届きました。会社としては注文を受けて商品を売りたいのですが、相手の業者との取引の実績が少ないので代金を払ってもらえるか心配です。
  • 問題状況3
    • 縦30メートル、横60メートルの長方形の住宅地があります。この住宅地の中を同じ道幅の道路が下の図のように縦に2本、横に一本通っています。道路以外の宅地の合計面積が1156平方メートルだとすると道路の道幅は何メートルでしょうか。

1 分析段階:

 思考プロセスの最初に想定されるのは、状況を捉えなおして有効な結果を得るために本当に必要なのは何をすることなのか明らかにすることです。しばしば漠然としている状況を「分析」して私たちが達成しなくてはいけない「課題」を明らかにする段階です。アルトシューラ、シャピロはこの段階を「分析段階」と名付けました。この段階の思考のアウトプットは「課題」を明らかにすることですが、それは同時に、考える主観の意志や情緒が目指している内容を「ニーズ」としてはっきりと取り出すことでもあります。TRIZの独創的な点は状況の背景にある「課題」を「矛盾」の形で取り出すことにあります。

例:

  • 問題状況1
    分析段階;
    • 状況の中に含まれているニーズを確認しましょう。まず、アンプルを密封することはどうしても必要です。もうひとつ必要なのは、アンプルの中の薬品が変質しないことです。
    • 問題は、アンプルを密封するためにはアンプルの上部を高温で熱しなくてはならないことです。ところで、ガラスは熱の良導体ですから、アンプルの上部を高温に熱すると下の部分のガラスの温度も高くなります。こうして、アンプルの下の部分の温度が高くなると薬品が変質してしまう場合があるわけです。
    • 当初の課題を、次のジレンマを解決する課題と捉えなおします。課題は、両立させることの出来ない、次の2つの要請をどちらも満たすことを求めています。このような状態を、TRIZでは「矛盾」というタームで呼ぶことにしています。
      1. 密封するためには、アンプルを高温で熱しなければならない。
      2. 薬品を変質させないためには、アンプルを高温で熱してはならない。
  • 問題状況2
    分析段階;
    • 手紙を受け取った会社の立場のニーズは、商品を売ることと、代金が受け取れないリスクを避けることとを両立させることです。
    • この状況を「矛盾」の形で捉えなおすと、課題は次の「矛盾」を解決することだといえます。
      1. 相手の業者と取引を行えば商品を販売出来るが、代金を受け取れないリスクが生じる
      2. 相手の業者と取引を行わなければ、代金を受け取れないリスクは生じないが、商品を販売できない
  • 問題状況3
    分析段階:
    • この状況では現実的なニーズは存在しません。数学も含めて科学的な問題状況の特徴は現実的なニーズと切り離されて課題が設定される点です。したがって、主観的な観点でいう「矛盾」は存在しません。科学的問題状況の矛盾は「構造的な矛盾」です。
    • 問題状況3を式の形にすると次のようになります。
      • (30×60) - (2×30)x - 60x - 2x² = 1156
      数学を学んだ人にとってはこのような式をつくることは容易ですが、人類の歴史では()、×、-、=のような記号、0=ゼロという概念、 X、Xのような変数を使うようになるまでには数十世紀かかったということを忘れるわけにゆきません。
    • この式を整理すると、問題状況は次の方程式の解をえる課題だったことが明らかになります。
      • 2x² - 120x - 644 = 0

2 操作段階:

 分析段階で特定した「達成しなくてはならないこと」を実現すると、当初の状況は何らかの形で変化させられることになります。状況に一連の「操作」を加えて望む状態に変化させる方法を明らかにすることが思考プロセスの2番目の段階です。その際、心の中では、当初の状況についての知覚内容を「操作」してニーズが求める内容に合致させる作業が行われているはずです。

例:

  • 問題状況1
    操作段階
    • TRIZの方法が示唆するところに従って「空間で分離」することを考えます。当初の状況を空間的観点から2つに分割して、一方の空間ではアンプルを熱して密封することを実現し、他方の空間ではアンプルを熱しないことを実現します。
    • 言い換えると、アンプルの密封したい部分は高温に熱する、その一方で、薬品に接している部分は決して高温にならないようにします。
  • 問題状況2
    操作段階;
    • 「条件で分離」することを考えます。当初の状況を2つに分けて考えます。商品の販売という場面では相手の業者と取引を行います、他方でリスクを生じさせる信用の供与という場面では当初の業者とは取引を行わないようにします。
    • (例えば)商品は手紙を書いてきた業者に売るが、代金の支払いは安心できる別の業者にしてもらう
  • 問題状況3
    操作段階
    • 当初の問題状況の背景には2次方程式の解を得るという課題がありました。したがって、2次方程式の解を得る方法を捜します。
    • 因数分解や根の公式を知らないとすれば、この課題を達成する作業は容易なものではないはずです。

 分析段階で課題を「矛盾」として捉え、その矛盾にTRIZ固有の「操作」を適用してその矛盾を解決する方法を機械的に導きだす、これが、古典的TRIZの眼目中の眼目です。

3 総合段階

 操作段階で発見した状況を変化させる方法、あるいは、「操作」を現実的に有効な行動にするために、肉付けします。肉付けを行うために用いるのは当初の状況に含まれる現実の物質、エネルギー、空間・時間的要素、情報、そのほかの条件(これを問題解決の「資源」、あるいは、対象を進化させる「資源」と名付けます)です。形式的に表現すると、「操作」と「資源」とを組み合わせて当初の状況には存在しなかった「解決策」という新たな状況をつくり出すことになります。

例:

  • 問題状況1
    総合段階;
    • 入手が容易でコストも安い水を資源として利用します。水はガラスの熱を逃がす機能をになってくれます。
    • アンプルの薬品の入っている部分は水の中に入れて、とっくりの口にあたる部分だけを水面より上に出し、その部分にバーナーを当てて高温に熱して密封します。
  • 問題状況2
    総合段階;
    • 信用できる金融業者に仲立ちをしてもらいます。
    • 買い手の業者が金融業者に依頼し、金融業者が代理の支払いを約束してきたら商品を発送することにします。
    • このようなやり方が商習慣になるまでには長い年月を要したと思われます。
  • 問題状況3
    総合段階;
    • 根の公式では係数(a、b、c)を一般解から特殊解への橋渡しとして利用しています。公式の係数をa=2、b=-120、c=644として解をえます。
    • このように、(数学も含めて)科学的な課題では世界のどこかの天才が解決策を一旦発見すると、類似の問題状況については、それを一般的な課題に読み替える手続きと一般的な課題を解決する手続きについての知識さえあれば、課題の達成は凡人にも可能な機械的な作業となります。アルトシューラとシャピロとが目指したのは、これまで天才でなければ出来なかった人類初めての解決策を発見する作業までを凡人にも出来るようにする一般的な課題解決手続きを発見することだったはずです。

 例が、それぞれの段階で体験される固有の難しさ(=思考内容を大きく変化させることが求められること)をうまく示してくれているでしょうか。

 上で「矛盾」にふれましたが、それを含めてTRIZが3つの段階の難しさにそれぞれどのように対処しているのか、そのために各段階でどのような思考ツールや手法を使っているのか、そして、各段階で行う手続きやそこで使う思考ツール・手法がTRIZの歴史の中でどのように変化してきたのかを順次見てゆくことにしたいと思います。アルトシューラが1986年に書いた「ARIZの進化の歴史」という文章がこの作業に手がかりを与えてくれますが、必要に応じて他の資料も参照してゆきます。


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