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TRIZがはるかに目指しているのは「有効に思考するとはどういうことか」を明らかにして、「有効に思考する」方法を確立することだと思います。TRIZの原点ともいえるアルトシューラとシャピロとの1956年の論文では技術的課題に取り組む思考プロセスを大きく3つの部分に区分しています。この3つを出発点として、TRIZの歴史を参照し、その過程で作られてきた様々な思考支援ツールを紹介しながら、「有効に思考すること」について考えてゆきたいと思います。
何らかの目的を達成する手段を発見しようとする(意識的な?)思考のプロセスは一般的に次の3つの部分あるいは段階からなると想定することができます。
課題を捉えなおして、(特定の状況で特定のニーズに即して)有効な結果を得るために本当に必要なのは何を達成することなのかを明らかにする。時に漠然とした課題を「分析」して、その本質へと絞り込む段階です。
例:
課題1
注射薬を入れたガラスのアンプルは次のように作ります。まず、小さなとっくりのような形をしたガラス製アンプルに液体の薬品を入れます。その後で、とっくりの口にあたるアンプルの上部をバーナーの炎で高温に熱しガラスを溶かして密封します。問題は、密封するために用いる高温によってアンプルのガラスが熱くなってしまうため中に入っている薬品が変質してしまうことです。
分析段階;
課題2
何百年か前の話しです。ある会社に遠い外国の業者から大量の商品を買いたいという手紙が届きました。会社としては注文を受けて商品を売りたいのですが、相手の業者との取引の実績が少ないので代金を払ってもらえるか心配です。
分析段階;
課題3
縦30メートル、横60メートルの長方形の住宅地があります。この住宅地の中を同じ道幅の道路が下の図のように縦に2本、横に一本通っています。道路以外の宅地の合計面積が1156平方メートルだとすると道路の道幅は何メートルでしょうか。
分析段階:
分析段階で特定した「達成しなくてはならないこと」を実現する方法を抽象的レベルの方策として明らかにする。その際、当初の知覚内容を変化させる心的な「操作」を行うことによって方策を発見します。全く別の見方をすると、ここでいう方策とは当初の状況をより良い状況へと変化させるために必要な「操作」を指しているとも言えます。
例:
課題1
操作段階;
矛盾を空間的観点から2つに分割して、一方の空間ではアンプルを熱して密封することを実現し、他方の空間ではアンプルを熱しないことを実現します。
課題2
操作段階;
矛盾を2つの状況に分割します。商品の販売という状況では相手の業者と取引を行います、他方でリスクを生じさせる信用の供与という状況では当初の業者とは取引を行わないようにします。
課題3
操作段階;
当初の状況の本質的課題だった2次方程式を抽象的・原理的に解決します。
操作段階で選択した抽象的な変化、あるいは、「操作」を現実的に有効な行動にするために、肉付けします。操作段階までに得た着想と当初の状況に含まれる現実の物質、エネルギー、空間・時間的要素、情報、そのほかの条件とを組み合わせて、当初の状況には存在しなかった「解決策」という新たな状況をつくり出します。
例:
課題1
総合段階;
課題2
総合段階;
課題3
総合段階;
例が、それぞれの段階で体験されるそれぞれに固有の難しさ(=思考内容を大きく変化させることが求められること)をうまく示してくれているでしょうか。
次回からは、TRIZが3つの段階の難しさにそれぞれどのように対処しているのか、そのために各段階でどのような思考ツールや手法を使っているのか、そして、各段階で行う手続きやそこで使う思考ツール・手法がTRIZの歴史の中でどのように変化してきたのかを順次見てゆくことにしたいと思います。アルトシューラが1986年に書いた「ARIZの進化の歴史」という文章がこの作業に手がかりを与えてくれますが、必要に応じて他の資料も参照してゆきます。